第2話 母の浴衣と言い伝え


お祭り当日の夕方…。


「母さん前ゆってた浴衣は?そろそろ着付けしてほしんだけど…。」


私は母さんにあらかじめ浴衣をお願いしてて、さらに着付けもしてもらうつもり…。


「はいはい…ちょとまってね…これこれ!じゃーん、私が若いころ着てた浴衣!かわいいでしょ?」


それは…真っ白い生地に青いアサガオの花がいくつも描かれたシンプルな浴衣だった。


「えー!なんか地味すぎるんだけど?もっと…こう…ピンクや黄色や水色の生地にかわいい柄とかのないの?」


こんなシンプルなの…背が高いの余計に目立っちゃうじゃん!!


「なにいってんの?浴衣といえばシンプルなのが1番なのよ!母さんもこれで好きな人とお祭りいったなぁ…。」


今は母さんの恋愛話を聞いてる暇はない!

とにかく待ち合わせの時間が刻一刻と近づいているんだから!


「母さん早く!待ち合わせ時間があるの!着付けお願い!」


「はいはい!ちょっと聞いてくれてもいいのにな…。」


母さんはちょっと残念そうだったけど…ごめんね…。



「よし!できた!」


鏡の前でみると…たしかにシンプルだけど真っ白い生地がとても清潔感があっていい!

それに…青いアサガオの花々がとってもかわいくみえる!

なにこれ!イメージしていたのとはちがって…かわいいかも!うん!


母さんが私の嬉しそうな顔をみて…


「ね?言ったでしょ?ゆうは私の娘なんだから絶対に似合うと思ってたのよね~!」


「母さん、それ親バカっていうんだよ!」


「もう、この子はぁ!あとはおそろいの青いアサガオの髪飾り!うん!我が娘ながらかわいい!」


と自慢げに母さんは笑った。


私はこんな底抜けに明るい母が大好きだ!

ここまで褒められるのは…ちょっと気恥ずかしいけど…。


最近もこの高身長で悩んでいるのを知られたが、そんな身長差なんて気にしない王子様がいつか現れるわよって笑い飛ばしてくれた!


そんな母の言葉に正直救われたのだけれど…やっぱりそこは乙女である女の子だもん…気になるよ…。



そうこうしているうちに浴衣、髪飾り、浴衣用の和風の可愛いバッグがそろい準備ができた!


ふいに母さんが言った…。



「ねぇ…あそこのお祭りの古い言い伝えって知ってる?」


「言い伝え?知らないし聞いたこともないけど?そんなのあるの?」



それは…


祭りの日に神社の境内で花火を一緒にみた男女は必ず結ばれる…という古くからの言い伝えだそうだ。

母さんもおばあちゃんから聞いたのだという…。


まあ…ただの迷信だと思うけど…。


私は急いで玄関へ。


するとそこにはもうすでにセットでおそろいの下駄が置いてあった。


その下駄は黒の光沢に鼻緒の真ん中に青のアサガオの花が一凛飾られたとても綺麗で清楚な感じの下駄だった。


ただ…昔のタイプだからか…下駄の高さが5㎝もあるものだった…。


私がこんなん履いちゃったら…背丈が180㎝になるから嫌だったんだよ…。


「母さん…ほかの下駄って…?」


「ないわよ!この浴衣にはこの下駄って決まってるんだから!」


「だよね…はぁ…。」


しゃーないかぁ…よし!いざ出陣!




「あ!そうだ!神社の境内で母さんと一緒に花火を見た人って…だれ?」


「ん?聞きたい?その人はね…ゆうの1番近い人…。」



「ただいまー!」



「うわさをすれば!あなた…おかえりなさい!」



「まさか!父さん?へぇー!」



「ん?うわさってなんのことだい?」


「ううん、なんでもない!じゃ、ゆう…気をつけて行ってらっしゃい!頑張って!」


「えっ?う、うん!いってきます!母さんありがと!」



「頑張ってってなんなんだ?おい、ゆう!あんまり遅くなるなよ。」


ちょっと戸惑っている父さんの声を遠くに聞きながら…私は足早に集合場所の夜店の入口にむかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る