小説「真夜中の卵」

有原野分

真夜中の卵

 なかなか寝つけない夜は、まるで何かの刑を受けているような気分になる。眠りたいのに、眠れない。そんな時に限って、明日は朝一で会議があったりする。そんな時に限って、くだらない非生産的な空想が頭を駆けまわる。今、私の頭は「卵について」という本当にどうでもいい事を考えている。別に考えたくて考えている訳ではないのに、まるで自動手記のように、無意識に卵についての論文を考えている。自分の脳みそじゃ無かったら、体罰の一つでも与えて大人しく廊下に立たせているところだ。落ちついてくれ、と寺にでも入って無を欲して貰わなくては、全くもって腹立たしい。だが、そんな意思とはまるで関係ありませんよー、と言わんばかりに私の頭の中は卵で埋まっていく。

 「卵は旨い」こんなアホ臭い事から始まって、一体何が生まれるというのか。もうどうでもいいや。勝手にやってくれ。

「つまり卵って煮ても焼いても旨い。生でもイケる。万能だ。普段食べている卵は、工場で人工的に育てられた鶏から作られているから、言うなれば「人工卵」だ。だとしたら自然な卵ってなんだろうか。きっとそこに卵の未来がある

 其の一 「生卵」

 これはあれだ。生茶とか、生ビールみたいな卵だ。でもよく考えたら普通の卵じゃん。

はずだ。どうせならもっと色んな卵を作ってみたらどうだろうか。 其の二 「デカ卵」

 単にでかい。ダチョウの卵の何十倍もあれば文句なしだ。でも調理しずらいなあ。

 其の三 「プチ卵」

 米粒ぐらいの卵だ。小さいが味は絶品。殻ごと茹でて、茶碗に盛る。もう米でいいか、ジャリジャリするし。

 其の四 「かた卵」

 物凄く固い。クルミのような固さでトンカチで割るしかないな。食うより、これで新しい野球でもしたらどうだろうか。割ったらペナルティ。名前はベースエッグ。まあこんなところか。

 其の五 「殻無し卵」

 なんか気持ち悪い。

 其の六 「ロシアン卵」

 ルーレットでは無く、マトリョーシカのほう。割っても割っても卵である。一番最後の卵が要するに「プチ卵」である。

 其の七 「色付き卵」

 赤、青、緑、白、黒……、黄と白は頑張ればイケる気がするが、青色はさすがに無理か。ソーダ味にする訳にもいかないし。

 其の八 「ゴールデンエッグ」

 金ピカ、金粉なんでもござれ。秀吉が好んで食べていたという幻の卵。

 其の九 「元気の出る卵」

 なんとカツ丼の三杯分のエネルギーがこの一個で! 初回の方限定、送料無料! ただし使用上の注意をよく読み、用法、用量を守って正しくお飲み下さい。

 其の十 「自然卵」

 うーん、きっと自然界にある卵だ。だいたい鶏が先が卵が先かも分からないのに、自然に卵って生まれるのだろうか。謎だ。生命の神秘だ。でもそこにあるはずなんだ。この広大な宇宙を説く鍵は卵にあるんだ。コロンブスだって卵を使っていたじゃないか。あー、きっと旨いんだろうな、自然卵って。人間だって自然の一部なんだし、なんとかなるさ! 戦争だって卵に任せりゃなんとかなるさ。全知全能は卵にありけり! たまごたまごたまご……」

 ――ジリリリリ!

 ……ほら見たことか、もう朝だ! くそー、全然寝てねーよ。あ! でもそういえば今日休みじゃん。ああ、良かった。んじゃ、寝直すか。――旨い卵か、でもどう頑張ったって俺らが食う卵はみんな人工的な卵なんだろうな。工場で流れる鶏。卵。命。茹で卵。茹で卵って意外と作るのに時間かかるのがネックだよな。もっとこう、三分ぐらいで作れる機械ないのかな。例えばさ……。――。

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小説「真夜中の卵」 有原野分 @yujiarihara

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