第25話 : 要塞都市『ハノファ』
———— 聖王国の重要拠点。魔王国との国境沿い。グランデンの大虐殺が起きてから30年。幾度となく、聖王国軍と魔王軍の衝突が起きている要塞都市『ハノファ』。
その度に聖王国を守ってきたハノファの鈍色の城壁の前に映太たちと、途中から護衛をした行商人マルコが街へと入るための行列に並ぶ。
この街に住んでいる人間は、9割が聖王国騎士団の第一軍団であるが、勿論、物資は必要になるため、行商人の出入りはある。
むしろ、重要拠点のため、行商人にとってはリスクはあるが稼げるため、他の街より行商人が訪れているのが現状である。
「次の方。」
「はい。マルコ・ロンソでございます。」
マルコは、この世界の行商人の命。『行商許可証』を城門の兵士に見せる。
「マルコさんお通り下さい。はい!次の方。」
マルコの付き添いとして、簡単に検問を通過する一行。
「ハノファは、検問が厳重でな。『行商許可証』を持つ者か、聖王騎士団以外の人間は、長い取り調べを受ける。まあ、これで命を助けてもらった恩返しができたとは思ってはおらんが。」
マルコは、そう言うと手を上げて、商店街の方へと去っていった。
「ありがとうございます!」
五郎は、頭を下げてお礼を言う。そして、6人はハノファの街をひとまず散策する事にした。
ハノファの街は、聖王騎士団だらけであった。観光するような場所ではない。
ハノファは、要塞都市というより、大きな駐屯地と言った方がしっくりくる。
「とりあえず、宿でも探さない?宿....あるよね?」
「流石にあるわよ!あ、あるわよね?」
阿子とハトホルが通りに出ている看板を見回している。
すると、街の中央の大きな塔の前へと辿り着いた。鈍色一色の塔は、外壁から幾つもの投槍器が頭を覗かせていた。
投槍器とは、大きな弓矢をを放つ兵器である。もちろん、魔族や異世界人たちには効かないだろう。だが、大鬼たちであれば、一発で仕留められそうな大きさではあった。
城壁にも兵器やら罠などが元々の城壁の上に増築されているようだ。
やっとの事で宿屋を見つけ、6人は宿に荷物を置く。散策と魔王国の情報収集に街へ繰り出す事にした。
「本当に兵士ばかりだね...」
周りを見渡すと甲冑を着た兵士ばかりが目に入り、ポツリと呟く映太であった。すると、映太たちは、咄嗟に人混みから声を掛けられる。声のする方向をパッと振り向くと1人の聖王騎士団がこちらに手を振りながら近寄ってきた。
その男は、一見、陽気そうな外見と人懐っこそうな顔立ち。だが、体つきや甲冑に付いている無数の傷から戦場に何度も出ていると五郎や慶三郎は、感じた。
「お前ら、勇者様だろ?」
「あ、はい。勇者の天草五郎です。」
少し警戒しつつも、五郎は軽くお辞儀をして皆を紹介した。
「そんな警戒するなって!俺は、別に勇者が嫌いとかじゃねえからさ!お前ら、首都防衛戦戦ってくれたんだろ!礼を言うよ!」
男の言葉を聞き、警戒を解く勇者一行。改めて、五郎は、笑顔を浮かべて握手する。
「こちらも失礼しました。改めて、天草五郎と言います。」
「ああ!宜しく!俺は、聖王騎士団第1軍団所属ハノファ隊隊長“アルフォンス”って言う者だ。“アル”と呼んでくれていいぜ!」
「あ、あなたが、双壁の...失礼しました。首都にいる時、第3軍団の副団長にあなたの事を教えてもらっていたので。」
「そうか。でもそれは、騎士団内で勝手に呼んでるだけだからあんま好きじゃねーのさ。第3軍の副団長って事は、ダルシードのやつか!」
五郎たちは、首都を離れる際にダルシードから目の前の男“アルフォンス”の話を聞いていた。
「双壁.....ですか?」
「ああ。キールの“ゴドルフィン”とハノファの“アルフォンス”。聖王国の防衛拠点を守る第1軍団の隊長だ。キールのゴドルフィン隊長は、グランデンの時、グスタフ団長の隊の副隊長だった。わかると思うが、勇者や魔王軍への恨みが強い。だから、五郎たちが魔王国へ行くならハノファから入った方がいい。」
ダルシードの言葉をそのまま、アルフォンスへと伝える。
「まあ、そうだろうな。ゴドルフィンの爺さんは、お前らを街に入れないだろう。俺は、グランデンの時は、参戦していないからなぁ...まあ、参戦していても、裏切った勇者とお前たちは違うだろ?」
「は、はい!そうです!」
返事をした五郎だけでなく、映太たちもアルフォンスの言葉を嬉しく感じた。
「とりあえず、魔王国へ行きたいんだよな。それなら付いて来な!」
アルフォンスは、そう言うとどこかへと向かう。映太たち一行は、何も言わずにただ、アルフォンスの背中を追った。
アルフォンスは、城壁へと向かう。
「アルフォンス隊長お疲れ様です!」
「ああ。少し、こいつらを見学させたいから通してくれ。」
「かしこまりました!」
城壁の上へと上がる階段は、兵士によって厳重に監視されていた。アルフォンスがそう言うと道を開ける兵士たち。その間をお辞儀しながら通る映太たち。
「こっち来てくれ!」
アルフォンスが城壁から魔王国方面を指す。
すると、眼前には平野が広がり、魔王国とハノファの間に大きな岩山がどっしりと構えていた。そしてその岩山の真ん中に間道が見える。
その間道は、とても狭く、両側が切り立った岩山のため、その岩山を越えるのは、容易ではないだろう。
「あれが、ハノファが30年間一度も落とされなかった要因の一つだ。」
その間道の入口の両脇には、駐屯地のような建物が築かれている。ここが、防衛の要所“ローレライ間道”である。
「ローレライ間道が無けりゃ、ハノファはとっくに落とされてるよ。俺が双壁と呼ばれるのが嫌なのは、あれのおかげだからさ。」
映太たちは、眼前に広がる風景を見て、あそこからが魔王国だとは思えなかった。もちろん、30年前までは、聖王国の領地であったわけだが、それほど綺麗な風景であった。
「アルフォンスさん、魔王国に行くには、あそこを通る以外は、無いのでしょうか?」
官介が、地図を見ながら尋ねる。
「逆だよ。あそこを通って行った方がいい。あそこは、大軍が通れない。奴らの主力構成は、図体のでかい
「なるほど。ありがとうございます!」
映太たちは、話し合い、今夜はハノファで休息を取り、明日“ローレライ間道”から魔王国へと入ろうと決めた。
その夜は、アルフォンスが自分の隊を数十人集め、食事会を開いてくれた。リンベルの豪華な祝勝会とは、相対する荒くれ者が集まるような街のバー。そこでマナーなど皆無というような具合で、酒を飲み、歌い、そして大声で色々な話をした。
アルフォンスは、ダルシードが教えたくれた通り、勇者などに偏見はなく、とても人望高い隊長であった。部下からも慕われており、ハノファの強さは、ローレライ間道や城壁の強固さのみではなく、この隊長の力だろうと映太たちは、思った。
そして、翌日の朝。映太たち6人は、アルフォンスたちに見送られ、ついに魔王国領へと足を踏み入れるために“ローレライ間道”の入口へと赴いたのだった。
幼馴染達と異世界転移したら、自分だけ雑魚過ぎて劣等感がすごいんですが...... KOYASHIN @KOYASHIN
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