第24話 : 再出発

——— 街道を行く行商人と馬車。馬車には、アイテムや道具が積まれている。馬車の周りに2、3人の甲冑を着た兵士。甲冑は、聖王騎士団の物ではない様子から警護に雇われた傭兵だと予想される。


 遠くから地鳴りのような音が聞こえてくる。ウォーウルフの群れが平原を駆けている。


 「おい!ウォーウルフの群れが出たぞ!高い金払ってんだ!なんとかしろよ!」


 ふくよかな体の中年男性が、傭兵へと言葉を放つ。ウォーウルフは、灰色の狼の様な見た目だが、普通の狼より2倍ぐらい体が大きい。


 そんなウォーウルフが数十匹もの群れを作り、迫ってきている。傭兵たちは、今にも逃げ出したいといった表情である。


 「ボルテックスウォール!!」


 少し離れた場所から女性の声が聞こえたと思ったら電気の壁が音を立てて、行商人と傭兵の前に現れた。


 「えっ?な、なんだ??魔法か?」


 傭兵は、腰が抜けたようにその場に崩れた。


 電気の壁に衝突したウォーウルフは、痺れて動かなくなった。

 大剣を高速で操りながら、身動きが取れないウォーウルフを一刀両断する慶三郎。

 慶三郎に後ろから飛びかかろうとするウォーウルフを官介の弓矢が頭ごと吹き飛ばす。


 「な、なんだ...こいつら。異世界人...勇者か。」


 行商人は、数十匹のウォーウルフがどんどんと葬り去られていく光景を見ながら、呟いた。


 「よし!これで片付いたな!」


 慶三郎は、大剣を肩に担ぐとモンスターがまだいないかどうかを確認している。

 

 「大丈夫ですか。お怪我はありませんか。」


 五郎は、地面に腰を落とし、呆然としている傭兵に声を掛けて、手を差し伸べる。


 「君たち、見たところ勇者のようだが...この度は、助けていただき、感謝する。私は、行商人のマルコと申す。」


 行商人は、馬車を降り五郎たちの元へと歩み寄ってきた。


 「はい。私は、天草五郎と申します。マルコさんの見立て通り、勇者でございます。」


 「五郎君と言うのか。助かったよ。助けてもらってたばかりで失礼だと思うが、私たちは、“ハノファ”の街まで荷物を運んでおる。礼はする。ハノファまで護衛をしてもらえないだろうか。」


 行商人マルコは、自分が雇った傭兵たちに冷たい視線を送っている。


 「私たちもハノファに向かう途中でしたので、問題はありませんが。」


 「なんだかあの人態度悪くない?助けてあげたのに!」


 「勇者に対して批判的な人なのかもね...」


 「行商人は、態度悪い人多いのよねー!」


 五郎がマルコとこれからのルートなどについて話し合っている。それを阿子とハトホルが観察しながら会話のつまみにしていた。


 

 首都防衛戦から一ヶ月以上が経つも魔王軍に新たな動きは見られなかった。映太たちは、色々考えた結果、当初の目的である魔王国領へと向かうと決めたのだった。


 ハトホルが映太たちに付いていきたいと駄々をこね、メンフィスがそれを許可した事で映太たちのパーティーにハトホルが加わった。今まで紅一点だった阿子も女性の仲間ができて嬉しいのだろう。


 とても賑やかに魔王国の領地へと歩を進める一行。まずは、魔王国防衛拠点である要塞都市『ハノファ』へと向かう途中である。


 今回、魔王国へ行く理由は、勿論、魔王を討伐するという最終目標の遂行であったが、それよりも首都防衛戦の祝勝会の時、ナイルが織田川たちがグランデンの大虐殺の前に魔王国へと向かったという事が気になっていた事が大きい。


 織田川たちが自分たちと同じ境遇でこの世界に召喚されたのであれば、魔王国に行ったにも関わらず、。これが、映太たちには疑問であり、気に掛かっていたのだ。


 「さて、とりあえずマルコさんに付いて行く。ハノファには3日ほどで着くみたいだよ。」


 五郎は、地図を広げて皆に説明する。映太が地図を見ながらハトホルへと尋ねる。


「ハトホルは、ハノファには行ったことないの?」


「私は、東部にはあまり行ったことないんだよねー。」


 「要塞都市なんだよね?どんな感じなんだろう。」


 要塞都市『ハノファ』——キールと並ぶ聖王国きっての防衛拠点である。現在の魔王国との国境から数kmという場所に位置する。


 そこから、映太たちは、一気に魔王国へと入ろうと考えている。


 街道の端でテントを設置し、焚火の周りで夕食を取る。首都防衛戦から一ヶ月間、色々訓練した事や戦争を経験した事で、街道沿いに出るぐらいのモンスターでは、余裕を持って対処できるようになっていた映太たち一行。


 ハトホルも加わり、精神的にも安定したのか気楽にハノファへ進むことができていた。


 行商人マルコの馬車を護衛しながら、ハノファへ進む。途中、色々なモンスターが襲ってきたが、難なく葬り去る。


「五郎君。あれが『ハノファ』だよ。明日には到着できるな。」


 丘の上からマルコが指す方向に目を向ける。すると、まだ距離はあるにも関わらず、巨大な街....いや、街というよりも要塞が目に映った。


 鈍色の城壁が鈍色の建造物を取り囲んでいる。この世界の他の街や建物とは、全く違う建造物。木材や石、レンガが主流のこの世界。

異彩と威圧感を放つその要塞こそが、要塞都市『ハノファ』である。


 「ひえー!でけーな!リンベルも大きかったが、違う意味で大きいな!」


 「ちょっと怖いね。」


 「あれが、要塞都市『ハノファ』...」


 映太たちは、現実世界であるならば、観光スポットになるだろう自然豊かな風景の中の鈍色の塊を見て、物騒な...魔王国領が近いのでは、と感じた。











 

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