第23話 : 織田川とナイル

——— 首都攻防戦から一週間が経ち、祝勝会が首都『リンベル』の第四軍団支部で行われていた。


 映太たちの席に第一軍団団長”ナイル・ペンシルベニア“が訪れる。


 「やあ。君たちが勇者たちだね。どうも。私は、第一軍団団長ナイル・ペンシルベニアだ。」


 女性と見間違うほど美しい顔立ちに爽やかな笑顔を浮かべるナイル。

 

 「は、はい。僕は草映太と申します。それでこちらが——」


 映太が五郎たちを紹介し、一通り紹介が終わると、ナイルは話し始めた。


 「そうか。映太君。君たちは敵かい?それとも味方かい?ははは。まあ、そんな警戒しないで欲しい。君たちの今回の戦争での活躍は聞いているのでね。ただ...」


 映太たちは、頭の中でグスタフと初めて会った時を思い出した。この世界では、。という見解では無いことを知っていた。


 (この人も勇者を憎んでる側の人間なのかな....)


 映太は、少し構えたようにナイルの顔を見つめる。勿論、五郎たちも映太と同じように警戒をしていた。


 「ただ、織田川信オダガワシン。彼らには戦場で会ったと思うが、彼らも君たちと同じように魔王軍と戦っていたのだよ。だから、一緒に戦った....それが僕らの味方という証明にならない事は僕は、知っている。」


 ナイルは、先程の顔とは別人のような敵意を向けているように感じる。


 「え、えっと....」


 映太は、そんなナイルの敵意のような不快な何かに言葉を詰まらせる。


 「僕たちは、確かにあの織田川という奴らと同じ勇者であり、異世界人です。ですが、僕たちろ彼らは、なんの関係もありませんし、名前すら今初めてフルネームで知りました。」


 五郎が急に立ち上がり、そう言葉を吐く。

2人の間に居心地の悪い空気が漂い始める。そして、その空気を掻き消したのも当事者であるナイルであった。


 「あっははは!すまないね!そんな事はわかっているよ!彼らが召喚されたのは、30年も前だ。君たちは見たところ、20にもなっていない年齢だろ?ちょっと試したかっただけだよ!だが....もしあいつらと関係があるなど冗談でも言った時には、躊躇いなく斬るところだったよ。」


 言い切ると同時に凄まじい威圧感が映太たちにぶつかってくる。勿論、錯覚ではあるが、とても動けるものではなかった。


 「ナイル団長、あまり揶揄からかうものではありませんよ!この方々は、異世界人と言えど、今回ヘリーディンの戦い、首都防衛戦と2つの戦場で助力してくださったばかりなのですから!あなたって人は————」


 側近なのか映太たちより若いのではという見た目の小柄の剣士に説教をされているナイル。


 「すまない、すまない。お詫びになんでも君たちの質問に答えよう!」


 ナイルがそう言うと五郎が真っ直ぐにナイルの目を見て質問した。


 「ナイル団長は、織田川たちをよく知っているように感じるのですが、彼らの事を教えていただけないでしょうか?」


 「ふむ。まあ、良いだろう。僕が彼らについて知っている事を話すとしようか。」


 ナイルは、椅子に再び座り、映太たち、そして同席していたメンフィス、ハトホルとダルシードにも織田川の事を語り出した。


 「30年前、僕が9歳の時に彼らに出会った...そして、織田川信..彼は私の剣の師匠でもあった......」


 その後、ナイルは淡々と織田川たちとの出会いからグランデンの大虐殺までを話してくれた。


 織田川と出会い、剣を彼から学んだ事。話振りからとても信頼し、彼を好いていたのだと思う。また、彼の父親でもある2代前の第一軍団長ガンジス・ペンシルベニアは、グランデンの大虐殺で死んでしまった事。しかも、第1軍団は、勇者織田川と同じ戦場を担当していたらしく、ナイル自信、“裏切り”と“父親を殺された”という事から織田川たちに強い憎しみを持っている事が痛いほどわかった。


 また、彼らはグランデンの大虐殺以前に魔王国へと一度向かったらしい。


 そして、織田川信は、現在聖王騎士団で最強と呼ばれるナイルをしても、今まで出会った人間の中で一番強かったと言わせる実力を持つとの事だ。


 「まあ、僕が彼らについて知っているのはこれくらいだ。参考にでもなってくれたなら嬉しいよ。では、また会えたら宜しく頼むよ。」


 「ありがとうございます。」


 去っていくナイルに頭を下げる五郎。映太たちは、ナイルの話を聞き、なんとも言えない気持ちになった。


 織田川たちはなぜ、裏切ったのか。そこはわからなかった。だが、ナイルの話で前よりも織田川たちの情報を得る事もできた。


 こうして、首都防衛戦の祝勝会は、幕を閉じた。


 映太たちは、第四軍団の兵舎に泊まり、各々今までの事、これからの事、織田川の事を考えながら眠りについたのだった....














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