第22話 : ナイル・ペンシルベニア

———— 首都攻防戦から一週間が経ち、兵士たちの葬儀やグライフヴァルトの復興などが、一通り、終わっていた。首都攻防戦は、聖王国の勝利に終わったが...

 勝利と言えど、素直に喜べる勝利ではなく、相応の被害を受けた聖王国軍。


 しかし、そんな気分を晴らす役割も兼ねて、戦勝会が首都『リンベル』の第四軍騎士団本部で行われた。


 首都にリンベルに構えているだけあり、第四軍本部の敷地は広い。立派な大きな建物の中に、豪華に並べられたバイキング。そこで、今回の首都攻防戦の主戦を張った第四軍と援軍として、左側を守った第三軍の幹部、そして映太たち5人も招待されていた。


 「映太くん。どうだい調子は?」


 「よ!映太!官介!」


 映太たち5人は、隅のテーブルに座っている。兵士たちの笑い声、心地の良い音楽に包まれた中、取ってきたチキンやらサラダを頬張っていた。そこにメンフィスとハトホルが近寄ってきた。


 「メンフィスさん!ハトホル!僕は、何にも問題ないですよ!メンフィスさんたちこそ、大丈夫ですか?」


 「ああ!これぐらい何でもないよ!!」


 メンフィスは、まだ完治していない剣の傷が、肌が見えている前腕に痛々しく見えていた。


 「そうか!君たちが映太くんの仲間か!」


 メンフィスは、映太たちと座る五郎たちを見回す。


 「わたしは、第四軍ギーセン隊隊長メンフィス・ユーフラテスだ!こちらが姪の副隊長ハトホル・ユーフラテス」


 メンフィスの挨拶に五郎たちはお辞儀する。

すると、阿子が席を立ち、ハトホルへと駆け寄った。


 「あなたが、ヘリーディンで魔族を倒したって言うハトホルさんね!私、阿子!出雲阿子って言います!」


 「どうも阿子さん!ハトホルって呼んでください!」


 一週間前までは、考えられなかった微笑ましい光景。すると、また兵士が数人、映太たちの席に近づいてくるのがわかった。


 「お〜い。慶三郎たちぃ〜。飲んでるかぁー!」


 1人は、顔を赤くし千鳥足で近づいてくる。


 「師匠....飲み過ぎじゃないっすか!!」


 慶三郎が、ルーカスに肩を貸す。そして、その横を歩く精悍な兵士は、恐らくアルコールは飲んでいない。


 「やあ。五郎。調子はどうだ?」


 ダルシードは、そう言うとメンフィスに気がつく。


 「これは、メンフィス隊長ではないですか。お久しぶりです。」


 「頭なんて下げる必要はないですよ!ダルシード副団長!」


 五郎が心配そうな顔をして、ダルシードに尋ねた。


 「やっぱり、グスタフ団長は、まだ良くならないですか。」


 「ああ。少し負傷した箇所が悪かったらしいが、命には別状はないそうだ。」


ダルシードのルーカスも大怪我ではあったが、一週間で生活を送る上では、不自由ないほどに回復した。


 だが、グスタフは織田川との戦闘での負傷がまだ完治していないらしく、今日は欠席していた。


 映太たちは、メンフィス、ハトホルやダルシードたちと別れている時の思い出話に花を咲かせていた。


 すると、大きな笑い声とともに、偉丈夫な男性ととても知性的な男性が映太たちの元に歩いてきた。


 「ガハハハハッ!楽しんでいるようだのぉ!勇者どもぉ!」


 ティグリスの太い腕に太い足、身体のあちこちに包帯が巻かれている。


 「ティグリス様、あまり、歩き回らないでください。」


 横でため息を吐きながら呆れている様子のカルディア。


 メンフィスたちは、頭を下げる。


 「ダルシード!グスタフ殿にも酒でも持っていってやれ!ガハハッ!」


 「映太君。今回の戦争は、君...いや、君たちの功績が大きい。君たちがいなければ、負けていた。礼を言おう。」


 カルディアは、映太たちに向かい、頭を下げた。


 「いやいや、カ、カルディアさん!そんな頭なんて下げないでくださいよ!!カルディアさんの作戦あっての勝利です!」


 慌てて取り繕う映太。それを聞き、優しく微笑むカルディア。


 「お前ら、よくやったぞぉ!儂からも礼を言おう!」


 ティグリスも頭を下げて礼を映太たちにする。すると、五郎が少し思い詰めた様な顔でティグリスに尋ねた。


 「ティグリス団長。一個聞きたい事があるんですが。ティグリス団長は、あの異世界人と知り合いなんですか。」


 少し、空気が静まりかえるとティグリスは、近くにあった椅子を豪快に引き寄せ、座ると話始めた。


 「グスタフ殿から聞いとると思うがのぉ。30年前、あいつらはこの世界に召喚された勇者じゃ。儂ら世代の聖王騎士団員なら皆、あいつらと共に魔王軍と戦った経験を持っているはずじゃ。。」


 ティグリスは、そのあとも掻い摘んで10分ほど、織田川たちの話してくれた。


 当時は、映太たちと同じく聖王騎士団と共に、魔王軍と戦っていた事。当時は、とても騎士団から慕われた存在であった事。何故、”グランデンの大虐殺”で裏切ったのかは不明だという事。などなど......


「まあ、あいつらが何故ああいう事をやったかは、儂らにはわからん!残念ながら儂は、グランデンには参加しておらんからな!」


 ティグリスは、そう言うと椅子を立ち、カルディアとともに他の兵士たちを労いに向かった。


 その後も映太たちは、メンフィスやダルシードたちと談笑を楽しんだ。すると、突然、扉が開き、数人の兵士たちが会場へと入って来た。


 先頭の男は、女性かと見間違うような美しい顔立ちに銀髪の髪を靡かせている。しかし、肉体はとても鍛錬されている事が容易くわかるほどに、逞しい。

周りに連れている2名の兵士も逞しく、また雰囲気から死線をくぐり抜けてきた猛者だと感じた。


 「えっと....あの方たちは誰です?」


 ティグリスとカルディアと話し込んでいる男を見て、映太がメンフィスに尋ねる。


 「映太君たちは、まだ会ったことなかったか!あの銀髪の男が、第一軍団の団長だよ。」


 「第一軍団の団長....じゃあ、今回グライフヴァルトを奪還したっていうのがあの人なんですね!」


 「ああ!第一軍団は、聖王国東部の担当だからな。私もあまり会ったことはない!」


 ナイル・ペンシルベニアは、聖王国の三大名家の一つ、”ペンシルベニア家“の現当主である。年齢は、30代後半らしいが、見た目は20代と言われても疑う事はないだろう。


 一通り、幹部たちとの挨拶が終わったのか、ナイルは、映太たちの席へと向かい、歩いてきた。映太たちの席の前で止まる。この場に合わない鋭い雰囲気を漂わせてナイルは、口を開いた。


 「やあ。君たちが勇者たちだね。どうも。私は、第一軍団団長ナイル・ペンシルベニアだ。」


 

 












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