第18話 : 首都防衛戦〜幼馴染〜
———首都防衛戦2日目も半日を過ぎた。右側からの魔王軍の援軍およそ3万は、もうすぐ、聖王国軍の右翼へとぶつかる。
その中、数の優位を跳ね返そうと善戦する聖王国軍であったが、突如、五郎たちの前に1人の人間が....
そして中央で大鬼たちを薙ぎ倒し続けるティグリスの前にも1人の人間が姿を現した。
「小僧.....どこかで会った顔だなぁ?」
「ティグリス隊長....今は、第四軍団団長でしたか。」
男は、肌白く血の気のない顔にうすら笑みを浮かべている。
手には、金の奇妙な形の槍を持っており、槍先が、渦を描くように捻れている。
「ほぉお。わしの名前を知っているのか!どちらにしろ、そちらから現れたという事は、儂らの敵という事いいんじゃろぉ?」
「ふっ。もちろんです。お相手、宜しくお願い致します。」
「カルディア副官!ティグリス団長の相手、異世界人ですよね!?助けに行かせてください!」
「だめだ。確かに異世界人だが、ティグリス様にそんな事は関係ない!ティグリス様を信じよ!持ち場に戻れ!」
「か、かしこまりました。」
(あの顔は、確か30年前の“
「第四軍団兵士たちよ!異世界人は、ティグリス様に任せよ!!今、右側から敵の増援が来ておる!その間に周りの大鬼を排除せよ!」
カルディアの張り上げた声に兵士たちは、呼応し周りの大鬼たちへと切り掛かっていく。
「小僧、異世界人よな。一度戦ってみたかったんだ!感謝するぞぉ?」
ティグリスは、不気味な笑みを浮かべ、足を踏み出す。
槍使いとの距離を一瞬で埋めると勢いよく、大斧を振り下ろす。
大斧は、周りの空気を切り裂きながら槍使いの頭へと落下する。
槍使いは、怯む事なく、右へと避けると槍を突く。
その捻れた形状のせいか、並の速度ではない突き。
そんな突きを辛うじて避けるティグリス。
槍先が横腹を擦り、少量の血が飛び散る。
しかし、ティグリスは止まらない。避けたまま、大斧を横に振る。
槍使いは、後ろへと後退する。
「あなた今年で何歳ですか?」
槍使いは、警戒しながら槍を構える。その血色が悪い白い顔に冷や汗をかいている。
「ふんっ!今年でまだ55じゃ!若造、ここからじゃぞぉ?」
「若造とは心外です。あなたよりも実年齢は、年上ですよ。」
左側の戦場—— 五郎たちの前にも大鬼の群れから1人の人間が姿を現した。
眼鏡を掛け、短髪の金色に染まった髪。知性を感じるが、どこか悪を感じる表情。
決して大きくない身長、体格、そして杖を持っている事から魔法使いなのだろう。
「お前さんたち、勇者やろ?わいもそうなんやー。さて、戦うか?」
五郎たちは、剣を構え警戒する。顔立ちは、自分たちと同じ世界の同じ国であろう。
なぜ、この人間と戦わなければいけないのか。そんな疑問は、浮かびもしなかった。
「
阿子が、後方から槍状の雷魔法を放つ。
雷の槍は、轟音を立ててその人間へと向かって行く。
五郎と慶三郎は、左右に分かれて人間へと駆け寄り、首を狙う。
「マジックウォール!
その人間は、透明な障壁を自分の周りにドーム状に作り、阿子の雷の槍がその障壁に当たるとバチンッと音を立てて、消えてしまう。
魔法の障壁とほぼ同時に左右から迫る五郎と慶三郎へ氷の玉を打ち込む。
銃弾のような速さで飛んでくる氷を避ける五郎と慶三郎。だが、無理矢理に体勢を回避するために崩したので、そのまま地面へと倒れる。
「アースウォール!」
阿子が、五郎と慶三郎の前に地面を盛り上げて壁を作る。今、五郎たちが狙われたのなら、間違いなく致命傷になる。そう思っての判断だった。
しかし、人間は冷静に2人を狙わずに阿子を狙う。
「万雷の槍!」
阿子が先程放った物よりも大きく、周りへと放電する雷の槍。阿子へと真っ直ぐに飛んでいく。ダルシードとルーカスが、弾き返そうとするが、電気が2人の身体へと流れる。
槍は消えたが、ルーカスとダルシードは、全身が痙攣し、動けない。
「ほな、さいなら。
超高音の陽の玉を杖の先に生み出し、それを放つ。それを防ぐかのように、五郎と慶三郎が、阿子が作った地面の壁の横から飛びかかる。
「クソッタレ!!」
「
慶三郎が飛び込む裏を描き、低い姿勢で人間へと迫る五郎。
人間は、不気味な笑みを浮かべている。
「
慶三郎の身体を空気の刃が切り裂く。
慶三郎の胸に斜めに一文字状の切り傷ができる。
「くっ!」
五郎の方には、燃えた岩の塊が飛んできた。
スキルを使っている事で、なんとか避けたが、体勢を崩し攻撃へは、移れなかった。
「慶三郎!大丈夫か!?」
「ああ。なんとかな。」
五郎たち3人とダルシードとルーカス相手にしても全く平然としている人間。そのあとも5人で攻撃するも、傷さえつけられない。
「 あーあ、詰まらへんな。オノレさんたちほんまに異世界人かい?特にそこの魔法使いのお嬢さん。あんた魔法使い失格やな。」
杖を向けて、阿子を挑発しているのか、人を馬鹿にしたような表情を浮かべる。
「まあ、ええわ!勝手に潰れとけ。目の前の敵を凍りつかせろ。
突風が起き、風に乗って無数の氷の刃が阿子、ダルシード、ルーカスへと降り注ぐ。
「炎よ守れ!
火炎の柱が、地面から立ち登り、氷の刃を溶かし、風が消える。
「ほー!嬢ちゃんやるやん!火炎の柱を作り、上昇気流を生み、風と氷両方をガードか!よぉ一瞬で考えたな。」
人間は、顎に手を当て阿子へと感心している。
しかし、火炎魔法が間に合わず、前にいた兵士たちは、氷の刃に身体をズタズタに切り裂かれ、吹き飛んでいた。
その隙を突き、体勢を立て直した五郎が斬りかかる。
五郎は、とても低い体勢で膝が割れるような痛みを感じる。だが、ここでやらなければ、こいつには勝てない。そのまま、剣を地面から振り上げる。
「おっ!」
慌てて避けようとする人間の左腕を肩から切り落とす。そのまま、首を刎ねるように剣の軌道を変える。
「バシーンッ!」
五郎の目の前を何かが高速で通った。その瞬間で理解できたのは、それだけであった。
そして、剣を持ち、正に敵の首を落とす所であった右手が、右肩から無い事を理解した。
「五郎!離れろ!」
身体の傷で五郎のタイミングに出遅れた慶三郎が、左手を切り落とされた人間へと斬りかかる。
「慶三郎!!屈め!!!」
阿子の隣からルーカスが叫ぶ。すると、物凄い速さで矢が遠くから慶三郎の頭目掛けて飛んできた。
間一髪で交わす慶三郎。ルーカスの一声が無ければ、死んでいただろう。
その間にダルシードが五郎を抱え、距離を取った。
「ちょっと
「いやいや、感心しててん。っっちゅうか助けてくれたのは、オノレやのうて麗華ちゃんだろが!?」
その
「ほんで三成さんの方はどんな調子なん?」
「結構、苦戦してるみたいよ!ほら、昔さあ、
「まあ、いいか。三成さんにそっちは任せる。俺は、こいつらもう少し痛めつけとこうかなーってな。」
普通に笑いながら言う。狂気や不気味さは感じず、平然と言ってのけていると皆が感じた。
右側では、ついに魔王軍の援軍が聖王国軍の右翼と戦闘を開始しており、ティグリスが魔王軍の人間に足止めを食らっている事もあり、徐々に各方面で押されている状況であった。
「ハッハッハッ!!!強い!強いのぉー!お主はわしが戦った中でも2番目ぐらいには強いぞぉ!」
ティグリスは、久々に決着がつかない戦闘を楽しんでいた。
「そりゃどうも。」
槍先が捻れたような形状の槍を使い、高速の突きを出す槍使いの人間。
そして、それを回避しつつ、反撃をする総司令ティグリス。
それを見つめるカルディア副官は、歯軋りをしながら戦局を見極めていた。
(非常にまずい。まずいですぞ。ティグリス様!右は、このままでは壊滅するのは時間の問題。中央もティグリス様が止められているだけで勢いが落ちている。右が落ちれば、次は中央だ。それに左も急に止まった。あちらにも異世界人が出たという事で間違い無いだろう。)
「なるほどのぉ!お主、勇者
裏切り者かぁ!これは潰さんと父上に申し訳立たんの!“カース・オブ・アグレッシブ”!!」
ティグリスは、吠えると身体全体を黒い空気が覆い、眼光は魔族のように赤く鋭い物になった。
「いくぞぃ!いーせーかーいーじんっ!!!」
「!?」
ティグリスのスピードが上がり、一気に間合いまで移動する。
普通に武器を振っただけ.....それだけだが、風圧が凄まじい。その衝撃だけで身体が後ろに吹っ飛びそうであった。
「くっ!十分あなたも化け物ですよ!」
槍使いは、体勢を立て直し、突きを放つ。
だが、その槍を手で受け止めるティグリス。
驚きの表情を浮かべる槍使いは、そのまま槍ごと空中にぶん投げられる。
そしてティグリスは、そのまま大斧で槍使いを両断した。空中で回避体勢を取れず、切られる槍使い。
「あーあ、負けてしまったか。まあ、また会いましょう。」
そう言い残すと槍使いの体が白い光に包まれて消えていった。
カルディア副官がそれを見て声を張り上げる。
「ティグリス様!!近くの兵士よ!ティグリス様をこちらまで運べ!!」
「はっ!」
ティグリスは、巨体をだらりとさせ、息が荒い。
兵士の1人が、カルディアへと尋ねる。
「カルディア副官!ティグリス様は大丈夫なのでしょうか!?」
「ああ。戦闘に参加しなければ大丈夫だ。カース・オブ・アグレッシブは、5秒間だけ、力とスピードのステータスを十倍まで上げる。しかし、5秒間経つと、1日は瀕死状態になるというスキルだ。中央からティグリス様はいなくなる。だが、勝たねばならん!」
「そんなスキルを。」
——— 右の戦場でボロボロな慶三郎たちの前で
「三成さん負けたんか!?ありゃま!面白くなっとるやん!わいもこいつらと少し遊んだらそっちにいこかー!」
交信中に切り込むダルシード。しかし、遠くから高速の矢が飛んできて近づけない。
「くそ!あんな遠くからなのに正確に射ってきやがる!!」
慶三郎は、ボロボロになりながら、飛んでくる方向を確認している。
五郎は、右の胸筋付近からを丸ごと抉り取られており、いつ死亡してもおかしく無い状態であった。
「ウインドカッター!
阿子は、負けじと魔法を連発していく。
「さっきみたいに頭使えや。そんな程度のレベルやったら、わいは倒さへんぜ。」
ダルシードとルーカスも
(どうする....こいつを抜かない限り、我ら左側が前へと押し込まない限り、この戦争...負けるぞ...それに、こいつらがいるという事は、いずれ
グスタフは、冷静に装っていたが、焦りが募る。
すでに2日目も終盤を迎え、右腕のみの
慶三郎や阿子も疲弊しており、ダルシードとルーカスも正直、いつ倒れてもおかしくはない。
中央は、異世界人をティグリスが倒したとはいえ、ティグリス自体が戦闘不能の状態。押し込む事はできないものの、カルディア副官の好采配でなんとか拮抗状態を維持していたが、右からの魔王軍の援軍のせいで、中央、右と崩れるのは時間の問題であった。
「あんたら、ボロボロやがな。まあ、よぉ頑張ったで。」
「
炎、水、雷、風など、色々な物が、それぞれ槍状になり、慶三郎たちへと飛んでいく。
ダルシードもルーカスも動けない。
射線状にいる兵士たちは、どんどんと貫かれて行く。
だが、あまりに絶望的な状況、そして
だからこそ、そこにいる誰もが気づかなかった。
「マジックウォール!!」
「!?」
女性の声とともに、光の障壁が魔法の槍を防いでいく。
数十発の槍魔法を防ぎ、光の障壁は砕け散る。だが、まだ数発の槍魔法が慶三郎や阿子たちへと迫る。
それを金髪の髪を
「ふんっ!ふんっ!」
剣で槍魔法を弾く。その剣速は、五郎にも引けを取らない。
全ての槍魔法を弾き終えると、その男は、叫んだ。
「ビスク!兵士たちを左後方から突撃せよ!異世界人は相手にするな!
ハトホル!魔法の防御は任せた!
スミス!ティグリス団長へ伝令を!中央にだけ集中せよと伝えてくれ!」
戦場でも通る声。その声に応えるように皆が声を張り上げて返事をする。
「はっ!」
その男——“メンフィス・ユーフラテス“は、慶三郎たちの方へと振り返る。整った顔は、綺麗な褐色色をしており、精悍さが漂っている。
「君たち、映太くんたちの仲間だよね!!ここは、任せて後ろで休んでるといい!!」
「えっ!?映太を知っているんですか?」
「詳しい話は、あとだ!」
そう言うと、メンフィスは剣を構えて、
「新手かいっ!じゃんくさいなぁワレ!!」
メンフィスは、一気に
「ちっ!!おい!麗華ちゃんサポート頼むぞ!ガルシア、オノレもこっち来い!
高速の矢が飛んでくるもメンフィスは、それを避ける。
「うん!硬いな!」
メンフィスは、少し距離を後方に開くと後ろからハトホルの炎魔法が飛んでくる。
「ちっ!!しつこい言うとんねん!マジックウォール!」
もう一層の光の障壁が、
しかし、秀満はその瞬間、体が白く光り、五郎が切ったはずの左腕が元に戻っている。
「身代わり人形か!」
遠くで見ていた慶三郎が、映太を思い出す。
「全く厄介な相手だな!」
メンフィスの表情は、いつも通り明るい。
——— 中央司令部。カルディア副官が、危機迫る形相で戦場を見ている。
「ティグリス団長は、こちらにおりますでしょうか!」
「うん?」
右側から走ってきた伝令係が息を切らしながらカルディアの元へと来た。
「どうした?私が今ティグリス様の代わりに指揮しておる!」
「カルディア様!我が隊長第四軍ギーセン隊隊長メンフィス・ユーフラテスからでございます!」
「メンフィスは、確かヘリーディンへ派遣されていたはずだが。」
「はっ!ヘリーディン攻防戦終結後、こちらに援軍として馳せ参じました!合計五千人右側の戦場にて第三軍の加勢に入っております!ですので、中央は、中央へと集中するようにとの事でございます!」
「メンフィスは知らないだろうが、右側に敵の援軍三万がぶつかっておる!中央に集中できるもんなら、とっくにしてるわ!!」
そう一喝するカルディアだったが、伝令の真っ直ぐな目に何かを感じる。
「何か策があるのか?」
「は!詳細は後ほど!勇者様が右を抑えますので中央に全力で対応してくださいませ!」
頭を下げる伝令係のスミス。
(勇者だと?勇者は、確かグスタフ団長の方にいたはずだが....まあ、いい!どちらにしろ、このまま進めば敗戦は濃厚だ。)
「わかった!!シュールト!中央集中と兵士たちへ伝えろ!必ず前線を壊すぞ!右側に援軍に行く途中の者は、全部引き返し、中央へとも伝えろ!最速でだ!」
「はっ!承知いたしましたっ!」
右側は、実際の所、壊滅寸前であった。地面に横たわる無数の兵士の死体。それを見て、官介と映太は、お互いの顔を見合わせる。
「行くぞぉ。映太!」
「うん!みんな出てこいっ!!」
映太は、指輪を振りかざす。物凄い量の黒煙が津波のように向かってくる大鬼たちの眼前へと降り立つ。
「みんな、向かってくる魔王軍を排除するんだ!
「かしこまりました。ご主人様。」
映太に向かって、いつも通り頭を下げるカイセル。
映太は、総勢八千という骸骨軍団を召喚させた。これまでで最大の数だ。官介は、それを見てクスッと笑う。
「五郎たちの方は、メンフィスさんたちに任せて、うちらでこっちはやってやろう!」
「おう!!」
——— 首都攻防戦2日目も陽が沈むだろうという時刻。ここ、リンベルとグライフヴァルトの中間に位置する平野にて、数ヶ月振りに映太たち幼馴染が終結したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます