第19話 : 首都防衛戦〜決着【上】〜

 ———首都防衛戦2日目、陽が沈むと同時に両軍は、進軍を止め引いていく。途中まで敗戦濃厚だと思われた戦局は、第四軍団ギーセン隊五千人と映太、官介の援軍が来た事によって、一変した。


 右側を映太のアタッチスキル“幽霊王ゴーストマスター”によって八千もの、骸骨集団を召喚する事で抑えるどころか、押し込んでいた。


 左側は、異世界人の魔法使い、秀満ヒデミツとの戦いで、五郎が瀕死状態、慶三郎たちも疲弊状態であった。

 メンフィスとハトホルの加勢により、秀満ヒデミツを追い詰めるも決定打は打てず。ただ、左側の被害はそれ以降は少なく済んだ。


 中央は、1箇所に集中できる事でだいぶ押し返す事ができた。一番大きいのは、明日からティグリスが戦場に戻れる事だろう。


 「五郎!慶三郎!阿子!」


 「映太ーーー!!!」


 2日目の夜。あのハルツ迷宮での巨大亀戦以来、半年振りであろうか。映太たちは再会を果たした。

 久しぶりに話に花を咲かせる状況ではないのは、皆理解していた。


 「よく無事だったな。詳しい話は、この戦闘が終わってからにしよう!今は、あいつらを倒さないと。」


 五郎は、テントにグスタフをはじめ、メンフィスにハトホル、そしてカルディア副官、スキルの副作用から回復したティグリス総司令がぞろぞろと集まって来るのを確認し、映太たちとの会話を遮断した。


 「ハハハ!それにしても負けたと思ったぞ!よく来てくれたなぁ!メンフィスよ!」


 「はっ!」


 (そうか。メンフィスさんは、第四軍所属だから直属のボスは、あの強そうなおじさんになるのか。)


 映太は、ティグリスをその時初めて見たが、噂は来る途中で聞いていた。


 「さて、勇者よ!お主があの骸骨の軍勢を召喚したんじゃったな?」


 「は、はい!」


 「数はどれくらい出せる?」


 「え、えっと....多分八千ぐらいだと思います。」


 「ほぉ!十分じゃな!小僧、中央に入れ!メンフィスお前も中央じゃ!グスタフ殿、左側は頼みますぞ。」


 「承知した。ダルシード。そして勇者ども。こい。」


 グスタフは、第三軍の隊長たちを引き連れてテントを出ていく。そして、五郎たちも。


 「映太、また終わったら話そう!」


 五郎は、そう言うとグスタフの後を追ってテントを出た。慶三郎と阿子、官介も続いていく。


 「映太くん!また宜しくな!」


 「映太、やってやりましょ!」


 少し心細かったが、メンフィスとハトホルの声を聞いたおかげで少し落ち着く事ができた。


 「それにしても右は捨てるのでしょうか?」


 第四軍フライバーグ隊の隊長コーエンが尋ねる。

 カルディアが、ティグリスの代わりに説明をした。


 「そうだ。この作戦は————」



 翌日、太陽が初日、2日目と同じ場所から顔を出し始める。映太は、指示があるまで待機を命じられていた。正直、召喚ができなければ、無力の映太である。後方のカルディア副官の横で戦場を見ている。


 中央には、第四軍が2万弱。先頭には、ティグリスが今日も兵士たちを背中で鼓舞している。


 左側には、第三軍4千ほどと、五郎たち4人。五郎も慶三郎も阿子も、昨日の怪我などは回復している。だが、あまりにも中央に比べて戦力は少なかった。


 逆に中央は、メンフィスたちギーセン隊が入り、昨日よりも厚い戦力である。これは、戦略に浅い映太でも理解できた。


 しかし、グスタフはこれを一言も言わずに“承知した”のだ。

 

 きっとカルディアが昨夜説明した作戦をグスタフは、知っているのだろうと思った。


 首都防衛戦3日目も、ティグリスの突撃で幕を開けた。


 相変わらずの破壊力、そして突破力。大鬼たちを薙ぎ倒していく。兵士たちもそれに続き、奮戦する。


 そして、昨日とは違い、ギーセン隊もティグリスの突進に続いている。昨日、異世界人の魔法使い秀満ヒデミツ相手に互角以上に戦い、先日のヘリーディンを制した立役者メンフィスとハトホルもいるのだ。


 中央の前線は、あっという間に崩れていく。


 しかし、その分左右へと分かれている魔王軍は、前進している。やがて、中央の軍を挟み込んでしまうだろう。


 左側第三軍も奮戦している。五郎たちもスキルを駆使しつつ、大鬼たちを倒していく。

 しかし、元々兵力差が大きい左側。そこに現れた魔族。そして、異世界人。


 「五郎。来たぞ。」


 ダルシードがその姿を確認した。


 「はい。打ち合わせ通りに。」


 五郎は、ダルシードにそう言うとスキルで加速し、魔族の方に向かっていく。


 「阿子、官介!打ち合わせ通りだ!五郎に任せてウチらは、あっちにいくぞ!」


 「了解!」


 慶三郎たちは、異世界人の方へと向かう。金髪に眼鏡を掛け、何かを企んでいる。そんな表情を浮かべている魔法使い秀満ヒデミツだ。


 「伝令!魔法使いの異世界人と魔族が一体。カルディアに早急に伝えろ!」


 「はっ!承知いたしました。」


 グスタフが、魔族と異世界人の姿を確認するとすぐに伝令を送った。


 「あの、魔法使い野郎!ぜってえ今日は倒してやる!」


 慶三郎が意気込んで駆けていく。そんな慶三郎の横をルーカスも付いていく。


 「慶三郎。それにしても、魔族の方は、五郎くん一人で良いのかい?」


 「師匠、ご心配なく!五郎の”オリジナルスキル”は、やばいっすから!」


 3日目、戦闘開始前....魔族と異世界人が出た時の作戦を立てた五郎たちと第三軍団。


 もし、異世界人と魔族が出た場合、魔族は五郎のみが対処すると決めていた。


 「五郎のスキルは、発動条件があるんで時間が掛かるんっす!でも、発動すると広範囲の敵をなぎ倒せる!」


 「朝の説明だと確かに、強力だよな。まあ、異世界人を万が一、倒せたとしても”身代わり人形”持ってたり、どうせどこかで復活するからな!そんだけとっておきなら魔族に使った方がリスクが小さいな。で、発動条件は何なんだ?」


 「五郎のステータスにだけ、”瀕死メーター”って項目があって、ダメージを受けるとそれが溜まっていくんですよ!テレビゲームみたいな感じに!」


 「テレビゲーム?」


 「あ、うちらの世界にあるもんです!それでその瀕死メーターが溜まりにくいらしんすよ!でも、昨日のダメージでやっと溜まったらしいっす!!」


 「なるほどね~。じゃあ、とりあえず、うちらはあの性格悪そうな魔法使いを倒せばいいわけだ!」


 「そういうことっすね!!」


 慶三郎とルーカスは、話しながら大鬼たちを斬り捨てていく。秀満ヒデミツのところまで、もうちょいで抜けられる。そんな時に、秀満は、杖を構えた。



「いきんなよぉ!あほども。帯電雨サンダラレイン!!」


 電流を帯びた雨が慶三郎たちへと降りかかる。大鬼たちも巻き添えになっていた。

 ダメージ自体は、そこまで大きくなかったが、体に電気が流れ、身動きが取れない状態であった。


 「マジックウォール!!」


 光の障壁が慶三郎たちの真上に広がり、秀満の魔法を防いでいる。

 

 「阿子!!サンキューなっ!」


 阿子は、コクリと頷く。少し、よそ見をした瞬間に慶三郎へと矢が飛んでくる。

 しかし、その矢がパシンッと音を立てて、弾かれる。


 「慶三郎。よそ見しない。」


 阿子の隣から弓を引いた官介が呆れた顔している。


 その瞬間、慶三郎たちの少し右側から、まばゆい光の柱が天へと立つ。


「!?]


 その場にいた者、敵も味方もを見たことがない者たちは、動きを止める。


勇者の一撃!!!!バンプ・オブ・ブレイブ


 五郎の剣から一直線に伸びる光の柱.....いや、巨大な光の剣は、五郎が剣を振り下ろす動作と連動し、天空から一直線に地面へと振り下ろされる。


 とてつもない衝撃波が辺りを襲う。まだ、間合いではなかった魔族。そして、その先の先、昨日から姿は見えないが矢を射ってくる者がいるであろう場所を地面ごと削り取った。その場所にいた魔族や空を飛ぶ怪鳥、大鬼、一ツ目巨魔サイクロプスも光の剣が消えると姿が無くなっている。


 「す、すごいね!さすが五郎のスキル....」


 「ああ。チートすぎ。」


 阿子と官介がいる位置からだと削り取られた大地がよく見えた。第三軍や、慶三郎には、防護壁を魔法で阿子が張っていたので飛ばされる事はなかったが、もしなければ、魔王軍と同じく吹き飛ばされていただろう。


 「ちっ!!どいつもこいつも、勇者いうやつは、チートすぎんねんっ!」


 吹き飛んでくれれば、最高ではあったが、秀満は自分に防護壁を掛けていたため、無傷ではあった。


 「火炎波フレイムウェーブ!!」


 秀満は、魔法を放つ。だが、今の五郎のスキルの衝撃の中、がいた。


 ダルシードは、スキルがどういうものか、五郎から聞いており、防護壁で守られながらに足を秀満へと進めていた。


 秀満の魔法が炎の波を起こし、慶三郎たちへと迫っていく。だが、ダルシードはすでに炎の波よりも内側にいた。そして、秀満へと槍を突き刺す。


 「くっ!!ワレ、いつの間にそこにっ...」


 秀満の防護壁を砕き、そのまま身体へと槍を突き刺す。槍を抜かずにそのまま上へと振り上げる。赤い血を周囲に散らしながら、

 秀満の体は、真っ二つになる。


 白い光が秀満の体を覆う。


 「かっ!!」


 ダルシードは、返す刀でもう一撃、二撃と突き刺していく。そのたびに、秀満の体を白い光が包む。秀満も1秒1秒意識が飛びながらも後退するようにダルシードの間合いから逃れようとしている。


 しかし、遠くからとてつもない速度で矢がダルシードへと飛んでくる。

 それを間一髪で避けるダルシード。その隙に秀満は、間合いを抜けていた。


 「惜しかったな!あんさん!次はこうはならんからな!」


 秀満は、そう捨て吐くと魔王軍陣営へと逃げていった。


(まあ、ええわ。最終的にこの戦争に勝とうが負けようが....せいぜい、夢でも見てればいい...)



 五郎のスキル、そしてダルシードの活躍もあり、左側は聖王国軍が押し込んでいる。相乗効果で中央の方も徐々に前線を崩している。

 ただ、右側から想定通り、魔王軍が回り込んで来ており、時間との勝負であることは、間違いなかった。


 そして、中央の先頭を今日も走るティグリス、そしてメンフィスとハトホルの前に姿を現す異世界人と魔族。

 

 異世界人は、短髪の女性。快活そうな顔つきで屈伸をしてティグリスたちを待っている。見たところ、武器らしい武器は、持っていないようだが....


 そして、隣に立つ魔族は、一本の捻じれた角が前頭部から生えている。

 ”今まで見た魔族よりもなにやら雰囲気が違う。”そう3人は感じた。



 「ほお!お前は覚えとるぞぉ!!」


 「あら!それは嬉しいな!ティグリス隊長は、ずいぶん老けたねぇ~」


 女の異世界人は、不気味に笑う.....






 



 














 

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