第5話 : 商業都市

——————洋城探索が終わり、Sランクアイテム『幽霊王ゴーストマスター』を手に入れてしまった映太。

 そこから本来の目的地、商業都市『アズブルグ』に歩を進める映太達5人は、緑生い茂る森林の中を進んでいた。


 

 現実世界では、見たことのないほど巨大な樹木に昆虫系、植物系のモンスターが多く生息する森林。


 太陽の光は、僅かに枝葉の間から差し込んでいる程度で、昼間でも薄暗い。


 洋城を出てから4日が経ったが、そのほとんどをこの森林の中で過ごしている一行。


 しかし、阿子以外のメンバーの顔には、疲れは全く見えない。


 「どりゃ!どりゃ!うりゃーーーーー!」


 慶三郎は、前にも増して剣速が鋭くなっている。

足運びも今までの豪快さの中に洗練さが出てきたように感じる。


 人ほどの大きさがあるカブトムシのようなモンスター、バッタのようなモンスターを一刀両断。


 官介も蝶のモンスターを木々の枝を上手く避け、命中させていく。


 五郎は、相変わらず涼しい顔をして、モンスターを切り刻んでいく。


 「炎の刃フレイムカッター炎の刃フレイムカッター炎の刃フレイムカッター炎の刃フレイムカッター!!!!!」


 虫嫌いな阿子は、現実世界では見た事ない大きさの虫のモンスター達に向け、炎を刃状にして無作為に放ち続けている。


 映太は、いつもの映太シフトの真ん中でそんな彼らを観察していた。


 木々の密集地帯を抜けると森林の真ん中に小さな湖が現れ、視界が開けた。


 この森林には、開けた場所が何箇所かあり、森林に入ってから映太達は、こういう場所で休憩していた。

 時には、一夜を過ごしながら商業都市『アズブルグ』に向けて歩を進めていた。


 「今日は、ここで休もうか」


 五郎はそう言い、アイテムポシェットから簡易テントを出す。組み立てられたまま、テントが2つ現れる。


 「了解。阿子、水汲んできて。」


 官介もアイテムポシェットから、キャンプで使うようなテーブル、薪、食器などを出している。


 「映太!そろそろカイセル師匠を出してくれ!」

 「う、うん!わかった」


 慶三郎の問いに映太は、洋城で手に入れた指輪を付けた左手の人差し指を上に向ける。


 何かを頭でイメージする。

指輪から黒い煙がモクモクと出てきた。


 黒煙は、映太の前の地面へと降りてくると、

そこには洋城で慶三郎と戦った“ワイトキング”と

3体の“骸骨騎士ワイトナイト“が姿を現した。


 「ご主人様、このカイセル御身の前に参上致しました。」


 そう言うと“ワイトキング”カイセルと“骸骨騎士ワイトナイト“3体が映太に向かって膝をつき頭を下げる。


 「やあ、カイセル。今日も悪いけど慶三郎の稽古に付き合ってくれ」


 照れ臭そうに、不慣れな様子で映太は、そう指示する。


「かしこまりました。そのように遠慮せずとも映太様のご指示とあれば」


 そう言い、顔を上げるカイセル。


 洋城で手に入れたアイテム幽霊王ゴーストマスターを使って、カイセル達を初めて出したのが、3日前。


 最初は、怯えながら使用していた映太だったが、今では慣れたように使えるようになった。


 事の発端は、慶三郎が映太に戦ったワイトキングと勝負をしたいから出せないか?とお願いをした事に始まる。


 1番最初は、加減などが分からず、数百体のガイコツやゴーストを出してしまった。


 この幽霊達を統率するカイセルことワイトキングは、元々あの城の領主であったらしい。


 人間の時の記憶は無いものの、幾多の魔王軍との戦争を指揮し、剣技にも秀でた名君だったらしい。


 官介の調べた情報により、当時の名前がカイセル3世だった事から『カイセル』と映太が命名した。


 洋城の時とは、雰囲気は全く変わり、口調も人間のように話す。

 骸骨であるはずだが、どこか表情があるように見えるような気がする雰囲気にも変わり、今では、映太の忠実なしもべそして、慶三郎の剣の師匠と化している。

 

 3日前から慶三郎に剣術を教えており、慶三郎に洗練さが出てきたのは、間違いなくカイセルのおかげであった。


「映太様、私達はいつも通り周りの警戒で宜しいでしょうか?」


 1体の“骸骨騎士ワイトナイト“がそう尋ねる。

 「う、うん。リマド頼むよ!」

 「かしこまりました!」


 3体の中で1番小さい骸骨は、そう頭を下げると他の2体こちらは、とても大きな骨格をしており、カイセルほどではないが、高そうな武具を身につけている。


この3体は、『カバリオン3兄弟』と言い、人間時代は、カイセルの近衛隊を務めていたという事を官介が洋城にあった日誌から見つけた。 


 本当にこの3人がそうなのかは、確信はなかったが、特徴が合っていたのでとりあえずそう呼んでいる。


 小さな骸骨が長男の“リマド”

 身体が大きく骨格が太い、大斧を携えているのが次男の”ルマド“

 スラッとしているがルマドぐらいの背丈があるのが三男の”レマド“である。


 3体は、森林の中に消え、不審な者やモンスターがくれば、容赦なく排除してくれている。


 まだ扱いには慣れていないようで、映太は、ため息を吐き、腰を下ろす。


 「すっかり王様だね。映太」


 五郎が意地悪い顔で映太の隣に座り言う。


 「結構、慣れてきたけどねー。」

 

 映太自身の力ではないが、正直な所、このアイテムはチート級の力を秘めている。


 それを手に入れることができ、映太は内心嬉しくも思っていたが、自分が無力である事に変わりはない。

 

 その事に悩んでもいた。


 「数とかは、調整できるようになったの??」


 手に紅茶の入ったコップを持ちながら、阿子が映太の前に座る。


 「うん。頭でイメージすれば、まだ誤差は出るけど.........大体たくさん出すか、数体出すぐらいならできるようにはなってきたよ」


 「でも、実際1番多くてどれくらい出せるんだろうね?」


 「カイセルの話だと洋城には、1万ぐらいいたから、それぐらいは出せる可能性があるって......」


 「い、一万!?そ、それは凄いね.....」


 阿子は、紅茶を吹き出しそうになるぐらい驚いた様子だった。


 「数もそうだけど彼ら強いよね。あの3体の骸骨騎士もだけど、やっぱりカイセルさんは、抜けているよ」


 五郎が涼しい顔で慶三郎の方を見て言う。


 少し皆と離れた湖岸で、剣を打ち合う慶三郎とカイセル。


 剣と剣が弾き合い、風が起きている。

地面の砂がそのたびに巻き上がっていた。


「慶三郎殿、そんな事では映太様は守れませんぞ!」


「どりゃー!」


 慶三郎も十分強いのだが、歴戦の猛者であるカイセルには届かない。


 速さやパワーは、慶三郎の方が上だが、それを上回る技術で、慶三郎の大剣を受け流すカイセル。


 「あれで魔法も使えるんだから、恐ろしいね」


 夕食を調理していた官介が、言う。


  ワイトキングとは、かなり上位のモンスターらしく、本来なら完璧人間4人でも討伐できるか難しい。


 1日に一度の召喚とはいえ、MPを使わずに召喚できるのだから、映太にとっては願ってもいないアイテムである。


 慶三郎達は稽古を終えたようで、慶三郎は肩で息をしながら頭を下げ、映太達の方へ歩いてきた。


 「カイセルさん、今日もありがとうございました!また宜しくお願いします!」


 慶三郎は、頭を上げるとカイセルは笑っているかのように言う。


 「いえいえ。映太様のお頼みとあればいつでも。

それに大分、強くなっておりますよ。あなたも機会があれば是非。」


 カイセルは、五郎にチラッと顔を向ける。

五郎は、いつも通り涼しい顔でニコッと返すだけであった。


 「では、映太様。またご指示があれば、何なりとお申し付け下さいませ。では失礼致します。」


 カイセルは、深々と映太にお辞儀すると煙のように指輪に吸い込まれていった。


 『幽霊王ゴーストマスター』で呼び出したモンスターには、呼び出しに対して、一度映太が指示を出せる。

 

 その指示が完了すると指示を受けたモンスターは指輪に戻るのだ。


 この場合、カイセルは『慶三郎との稽古』が指示だったため、稽古が終了したので指輪に戻っていった。


 3体の骸骨騎士“カバリオン3兄弟”は、『周囲の監視と警戒』が今回の指示のため、効果が切れる1日経つと指輪に戻るわけだ。


 まだ、確認できていない部分も多いが、強力なアイテムには違わない。


 (こっちのアイテムがもっと使えればなぁー)


 映太は、右手に装備された漆黒の小手に目をやる。


 『盗賊の写身小手スキルコピーハンド』。映太が持つもう一つのSランクアイテム。


 触れた者を自分と同じステータスとスキルに変化させるという物だ。


 能力が変化しない映太は、映太自身が装備した方が良いという事になり、映太が身につける事になった。


 映太が触る事ができれば、超強力なアイテムである。

 触ることができればだ..........


 映太において、この“触れる”というのが不可能に近い。


 森林でも何度か試したが、身代わり人形を15個使って、蟻のモンスターに近づいたが、そこからもう一度間合いを取られ断念した。


 遠距離から攻撃できるモンスターであれば、さらに難易度を増す。


 阿子が、氷の魔法で動きを封じるも触れるまでに速度が遅すぎる。


 そもそも、そのレベルの敵であれば、映太が触るより五郎達が直に倒した方が早いと官介が結論付けた。


 完全に陽が落ち、森林は暗闇に包まれる。

テントで就寝に入る5人。


 周りには、骸骨騎士カバリオン3兄弟が見張っている。


 この森林を抜ければ、商業都市は、あと一歩である。


 翌朝、陽の光がテントの中に差し込んでくる。

5人は、パンの上に目玉焼きを乗せた簡単な朝食を取ると、準備を済まして、商業都市を目指して歩き出した。


 「あと少しで着くから頑張れー」


 官介が地図を確認しながら、肩で息をしている映太に言う。


 現れるモンスターの数も次第に減ってきており、

樹木の隙間から差し込んでくる陽光を段々と光量を増している。


 そして、5日間の森林行進を経て、ついに映太達は森を抜けた。


 すると、丘の上に出た一行の目の前にとても高い円形の壁に囲まれた都市が姿を現した。


 リュンフェンの3倍ぐらいあるだろう広さ。街の中には、一際大きく立派な白城が建っており、赤茶色を基調した色で統一された城下町の町並みが広がっている。


———商業都市『アズブルグ』。この聖王国で第三の都市であり、色々な都市から行商人が集まる。映太達一行は、この世界に来て初めて見た大都市に胸躍らせて、都市に入るのであった。

 


 

 

 



 

 













 

 

 






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