第4話 : 幽霊王《ゴーストマスター》

—————まだ陽が昇ったばかり。

草原を明るく照らす朝焼け。鮮やかな草緑色の葉が、黄金に光っている。


 リュンフェンの街の東門の前に5人は準備を済ませて集まっている。

 

 街道が草原の真ん中を東に伸びていて、この道を進み続ければ、目的の商業都市『アズブルグ』に着く。


 「さあーて、いきますかぁー!」


 背伸びをしながら、地平線を眺め阿子が言うと、5人は歩き出した。


 街道を歩いていると自然とモンスターとは遭遇率が低くなる。


 理由はわからないが、ゲームと同じ感覚で特に気にも留めない5人。

 

 街道沿いの休憩所で休み休み足を進めていく。

休憩所は、小さな木の小屋であるが、旅人のために設置しているのか、ベッドやトイレなどが付いている。


 たまに、アイテム屋や食堂がある少し大きな休憩所もあり、現実世界でいう高速道路のサービスエリアのような間隔で配置されていた。


 道中、出会いも多くあり、旅人や商人などの姿を見るたびに官介が情報収集に勤しんでいた。


 リュンフェンの街を出発してから2日ほど経つと今まで地平線まで続くかのように1本の街道を歩いてきたが、初めて2本の分かれ道が出てきた。


 今までは、草緑色の草原、山脈や丘を遠くに見る景色がひたすら続いていた。


 2本の分かれ道の右側は、深緑色の木々が生い茂る森へと続いている。


 左側は、小さな丘へと続いており、遠くからとても大きな洋城が目に見えていた。

 

 「どうせ左に行くんだよね.....」


 映太は、出発前夜の会話を思い出し、ため息と同時に言葉を出した。


 「おう!当たり前だろ。大丈夫だよ!」


 慶三郎が無邪気な笑顔を向けながら、映太の肩をポンっと手を置く。

 

 「この城は、昔はこの辺りの領主が住んでいたらしいよ。

 だけど、数十年前に戦争があって、魔王軍にここの領主の軍は、全滅されたらしい。

 だから、戦争に行ったあと誰も帰って来なくて、そのまま放置されたらしい。」


 道中、商人や旅人に聞き込んで得た情報をスラスラと説明する官介。


 「じゃあ、ー」

 声を揃えて慶三郎と阿子が口を開くが、それを遮るように官介が声を大にして言った。


 「でも、財宝関係はほとんど無いらしいよ。その後管理者が居なくなった城の財宝は、使用人や盗賊などがゴッソリ持っていったそうだから。

 領主には、結婚はしていたけど、子供もいなかったみたいでね。」


 「それは残念だな.....でも一回行ってみようぜ!!」

 慶三郎は、一度残念そうな顔をしたと思えば、一瞬にして明るい顔で言った。


 「そうだね。予定よりも進んでいるし、せっかくだから行ってみようか」


 あまりこういう話には、口を出さない五郎が珍しく爽やかに通った声で言う。


 これには、行きたくなかった映太も思わず頷いてしまった。


 昔から五郎は、映太達のリーダーだった。

別に特別リーダーを決めたわけではないが、自然とだ。


 文武両道、容姿端麗の完璧人間。

いつもクールで口数は決して多くはない。

だが、五郎が意見を言えば、自然とみんなそうしていた。

 

 道を左に選ぶと洋城までの坂道を歩き出す5人。


 洋城は、近づくに連れてとても大きく、立派な城である事がわかる。


 城の窓は、所々割れていて、城の外壁には、蔦が絡み付いている。


 城の上空に灰色の雲が停滞しており、黒い霧のようなモヤが城の周りを漂っている。


 「これ本当に行くのか?」

 映太は、いかにもな雰囲気しかしない洋城に入るのを躊躇うも、他4人は足を止める気配すらしない。


 立派な装飾が施されている正面扉。

上部には、蜘蛛の巣が張っている。


 しばらく、誰も開けていなかったのだろう。

ギィーーーーーと音を立てて開く扉。


 慶三郎は、構わずに扉を押し、それに続いて一行は、洋城の中に足を踏み入れた。


 エントランスには、とても広く、正面に大きな階段、天井に大きなシャンデリアといかにも貴族の住んでいた城という作りだ。


 足を進めるたびに埃が立ち、足音がエントランスに響く。


 「広いね。二手に別れようか。」


 官介が辺りを見回しながらそう言う。


 「じゃあ、うちらが2階回るから、五郎達は一階を探索して、一通り回ったらここで集合しようぜ!」


 慶三郎がそう提案し、先頭を歩いていた官介と慶三郎は、階段を登って上へ向かった。


 「じゃあ、僕らは右側から順々に回って行こうか」


 五郎は、階段の右側の通路を指差し、映太と阿子は五郎の後に続くように進んだ。


 空気は重く阿子が明かりを放つ球を魔法で空中に漂わせる。廊下は奥まで円を描く様に続いている。


 無数の部屋があり、とりあえず手前から順番に見ていく事にした。


 部屋は、ホテルの客室のような作りで、ベッドが一つ、洋箪笥が一つだけある。


 きっと昔は、色々あったのだろうが、官介の集めた情報通り、誰かが漁り尽くしたのだろう。


 ゴミが散乱していて、使えそうな物は見つからない。


 「うーーーん、何もないねー」


 箪笥を開けながら、阿子が残念そうに言う。

その後も順番に部屋を調べて行くが特にアイテム品などは、見つからなかった。


 2階を回る官介と慶三郎も同じく部屋を探索しているが特に何も見つからずであった。


 映太達、一階組は食堂に入った。食堂は、とても広く、長机が雑に並べられていている。


 探索し終えた部屋と同じく、食器類が散らかって

いるだけで何も見つからなかった。


 映太達が机の下などを覗き、アイテム類が無いかどうか確認していると、

「コツンコツンコツン」


 足音のような音。食堂の先の廊下から聞こえた気がする。

「コツンコツンコツンコツンコツン」

 すると今度は、同様な音が、来た方向の廊下からも聞こえ出す。


 「え?なになになになに?」


 映太は、両側から迫ってくるような音に顔を青ざめる。

 徐々に近づくに連れて、この足音は単体の物ではなく、複数.....それもかなり多い数だとわかってきた。


 「映太、真ん中に。阿子は後ろを頼む」


五郎は、即座に2人に指示する。


 剣を構える五郎、杖を構える阿子。

 

 真ん中で怯えた顔で前と後ろを振り向き続ける映太。


 「ゔぅーーーーー」


 すごい唸り声と共に、無数のガイコツが食堂に入ってきた。しかも、すごい数である。


 「火炎の波フレイムウェーブ


 阿子は、広範囲に火炎を発生させる。火炎の波に飲み込まれる無数のガイコツ。


 五郎は、風を纏うかのように流麗な動きと剣技で次々とガイコツを切っていく。


 しかし、ガイコツ達は、溢れるように窓、扉から入ってくる。

 

 さすがの五郎、阿子でも捌き切れてず、数体が映太に迫ってきた。


「やばい!映太!!」

「くっ!間に合わない」


 阿子と五郎が気付くが、ガイコツが多すぎて間に合わない。


 (もう...もうだめだーーーーー)


 映太は、身体を丸くし小刻みに震えている。


 「オーーー、アナタサマハ」


 映太に迫ったガイコツが低い声でそう呟く。

ガイコツが、骨をガクガク音を鳴らすと他のガイコツ達も互いに顔を見合わせる。


 すると、続々とガイコツ達が煙のように消えていく。


 「なになになに?どうしたの?」


 阿子は、消えていくガイコツ達を見ながらどうしてかわからず、戸惑っている。


 五郎も慌てる様子は見せないものの、ガイコツ達を見回して何が起きたのかを確認している。


 映太は、まだ目を瞑って怯えている。


 ガイコツ達が消え去り、阿子が映太に大丈夫だと言う事を告げるも、映太は変わらず、目を力一杯瞑って、両手で耳を塞いでいた。


 五郎が優しく映太の肩を叩くと、映太は、目を開け周りを見回す。


 「へ?2人ともあの数を全部倒したの???」


 さすがに2人でもあの数をこの短時間で全部倒したとは信じられなかったが、2人ならあり得るのではとも思った。


 「いや、倒してない。途中で何故か消えたんだよ。」


 五郎がそう説明するが、映太は理解できない様子。


 「そ、そうなの?ま、まあいいか。2人ともありがとう」


 考える事を止め、無事何事もなかった事実で十分だと映太は思った。


 「モンスターがいるとは思わなかったね。慶三郎達と合流しよう」


 五郎は、状況的に合流した方が良いと思い、3人は一旦戻り、慶三郎達を探す事にした。


 その頃、慶三郎と官介は、他の部屋とは違う立派な扉の目の前にいた。


 「この部屋が怪しいよな!」


 慶三郎達もアイテムなど何一つ見つける事ができていなかった。

 だが、他の部屋の扉とは違う作り、大きさからここに何かあるはずと考え、扉を開く。


 すると、他の部屋の数倍広い部屋であった。

部屋の奥には、立派な椅子が一脚。


 雰囲気からして、ここの領主のが座るイスのような。


 部屋もよくアニメなどで見る王の間といった印象である。


 部屋の真ん中ほどに差し掛かった時、急に人間とは思えないような声色。冷たく、憎しみの感情を感じる声が聞こえた。


 「ナニシニキタ.....」


 すると部屋の奥にある椅子に何者かが座っている。

 兵士の装備を纏ったガイコツであった。

装備品はとても立派で身分が高い者なのだろう。


 剣と盾を携えており、ランクも高そうである。慶三郎はそれを貰おうと意気込み、声を張り上げる。


「しゃー!ガイコツそれを頂くぜ!!」


 そう言葉を放ち、踏み込む慶三郎。一気にガイコツとの間合いを詰める。

 大剣を横一閃に振るう慶三郎の剣を潜って反撃をしようとするガイコツ。


 まさか避けられて、その上反撃してくるとは考えていなかったのは慶三郎だけではなかった。


 官介は、即座にガイコツを狙い矢を放つが、それを剣で弾くと一瞬にして慶三郎と間合いを取る。


 一瞬、戸惑ったが慶三郎は、開いた間合いを再び、一気に詰めると物凄い勢いで大剣を叩き込む。


 だが、ガイコツはそれを躱し、盾で防ぎ、慶三郎と競り合っていく。


 ガイコツの動きは、とても洗練されている動きであり、官介の弓矢にも常に警戒している。


 「やるじゃねーか!ガイコツ!」


 楽し気に言葉を飛ばす慶三郎。


 「ワレハガイコツデハナイ。ナハ.....」


 ガイコツは、言葉を詰まらせる。

だが、その一瞬の隙を突き、慶三郎は、一気にたたみ掛けるように大剣を上下左右に振るう。


 防ぎ切るも慶三郎の膂力に押し負けて後方に吹っ飛ばされるガイコツ。


 「ナカナカ.....ナハワスレタガ、ワレハココノアルジ...」


 体勢を立て直すガイコツ。

右手を上げると、部屋に無数のガイコツの兵士や紫色のような霧状のモンスター、ゴーストなどのモンスターが何処からともなく現れた。

 

 「まずいよ。これは」


 官介は、少し焦ったように周りに集まってきたモンスター達を見回す。


 しかし、慶三郎は、戦いを楽しんでいるようで逃げようなどとは考えていない様子である。


 「マダヤルキカ....」


 ここの主であろうガイコツは、手で剣を撫でる。


 すると、剣の周りに黒紫色のモヤモヤが纏わりつく。


 「慶三郎、気をつけて!」


 官介が焦ったように慶三郎に注意する。


 そんな時、扉が勢いよく開き、五郎達3人が部屋に入ってきた。


 ガイコツの主、慶三郎、官介、周りにいる無数のモンスターが皆、五郎達に目を向ける。


 「アナタサマハ.........ソンナコトガ」


 ガイコツの主は、五郎達を見ると剣を下ろし、剣を纏うモヤが消える。


 「ん?」


 慶三郎は、ガイコツの主から戦意が消えた様に感じ、剣を握る力を緩めた。


 ガイコツの主は、一瞬にして姿を消し、扉の前でどういう状況なのか見極めていた五郎達の前に姿を表す。


 すると、ガイコツの主は、膝を床につく。それと同時にモンスター達も膝をついた。


 「アナタサマノオナマエハ......」


 そう聞く目線の先は、五郎でも阿子でもない、映太の姿であった。

 

 「えっ?おおお、俺?」


 自分なのかどうかを改めて確認しつつ、理解不能といった様子の映太。


幽霊王ゴーストマスターヨ。ワレワレノアルジニ...」


 懇願するガイコツの主の言葉に、映太達5人は、目を丸くし、驚いている。


 「お、俺が主になるの?えっ?なんで?えっ?

主っていうのは、どういう....」


 映太の質問に対して、ガイコツの主は説明する。


 「ワタシハ“ワイトキング”...ナマエデハアリマセンガ。ソウオヨビクダサイ。

 アナタサマハヲ、チョウエツシテイルオカタ。

ワタシタチノアルジニフサワシイ。

 コレヲオウケトリクダサイ。」


 そう言うと紫色をした指輪を映太の前に差し出す“ワイトキング”。


 禍々しいオーラを纏うその指輪を躊躇いつつも受け取る映太。


 「イツデモソレデ、ワレワレヲオヨビクダサイ。」


 そうワイトキングが言うと、ワイトキング、周りのモンスターの姿が黒色の煙となり、映太が受け取った指輪に吸い込まれていった。



 『幽霊王ゴーストマスター Sランク 効果 : 1時間、無数の幽霊モンスターをMPを使わずに召喚可能である。1日に一度だけ使用可能」

 

 5人は、映太の周りに集まり、アイテムのウインドウを見て、声を上げる。


「映太やったじゃねーーーーか!!!」


 先程までワイトキングと闘い合っていた慶三郎が嬉しそうに言う。

 

 「このアイテムめっちゃ凄いよね?映太すごーい」


 阿子も嬉しそうに映太の肩をパシパシ叩いている。


 「でもなんでだろーね?」


 何故、映太なのだろうかと疑問を口にする阿子。


 それに官介が説明する。


「多分だけど、死んだ回数とかが関係するんじゃないかな。

 ワイトキングが映太に死を超越しているみたいな事言ってたじゃん?

 映太のこの世界に来て死んだ回数って相当な数だと思うんだよね」


 「あーなるほどー」


 映太も含め、官介の説明に皆が納得した。


——何はともあれ、2つ目のSランクアイテムを獲得した映太。洋城を後にし、本来の目的であった商業都市『アズブルグ』を目指し、街道を再び進みだした。




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