第39話
「違うんです!」
咄嗟に、そう言っていた。
全身に汗をかいている。
女性客に言われた『犯罪者』という言葉。
蔑んだ視線が刃となって突き刺さっている。
「あたしはただ、今日1日手伝いで来ただけで……。雇ってもらっているワケじゃないんです」
言いながら、自分の声がだんだん小さくなっていく。
ここにいちゃいけない。
迷惑をかけてしまう。
「あらそう? それなら良かった。もう二度とこのコンビニに来られないかと思った」
女性は大きなお腹を揺らして笑う。
本当に楽しそうな声を上げて笑う女性を見て、あたしはバックルームへと逃げ込んでしまったのだった。
☆☆☆
なんの事情も知らない人が、知ったように言っただけだ。
あの女性はちょっと常識に欠けていたから。
そんな言葉を裕子おばちゃんは何度もあたしにかけてくれた。
裕子おばあちゃんの気持ちは痛いほど理解できたし、このくらいのことを気にしていたら社会復帰なんてできないことも、理解していた。
でも……。
あたしは世間で認識されているよりも、もっとヒドイことをしてきたのだ。
咲紀イジメのリーダーで、明日香への暴行を指示し、そして健太郎を殺した。
その事実を知ったとき、あの客はどうするだろう?
あたしだけじゃなく、この店ごと放火してしまうかもしれなかった。
そのくらいの恐怖と威圧感があったのだ。
「人の言葉は人を殺す」
私服に着替えてコンビニを出たあたしは、そう呟いた。
あたしが咲紀に吐いて来た暴言も、咲紀の心の突き刺さったのだろう。
それは抜けることなく刺さり続け、咲紀の限界を超えてしまった。
だからこそ、咲紀は言葉の呪いを残したのだ。
言葉は人を殺す狂気になる。
それを、あたしに教えるために……。
パァー!と音がして、あたしは我に返って立ち止まった。
今日の出来事や咲紀のことを思い出してボーっとしていたため、気が付けば横断歩道の真ん中に立っていた。
信号機は赤になっている。
「あ……」
渡るか、戻るかしないと。
そう思うのに、あたしの足は一歩も動かない。
渡り切った場所に咲紀が立っていて、振り向くとそっちには健太郎が立っているのが見えたのだ。
2人とも青白い顔で、こっちこっちと手招きをしている。
「あぁ……」
こんなの幻覚だ。
実際には咲紀も健太郎もここにはいない。
早く、早く決めないと。
それらはほんの数秒間の出来事だった。
クラクションを鳴らした車が急ブレーキをかける音が聞こえてくる。
あたしは驚いて視線を向ける。
一瞬運転手の男性と目が会った気がしたけれど……次の瞬間、あたしの体は大きく跳ねあげられていたのだった。
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