第34話

咲紀の家は変わらずそこにあった。



駐車場に車はなく、家の中に人の気配も感じられなかった。



和人は堂々と玄関前まで歩いて行くと、チャイムを鳴らした。



中からチャイムの音は聞こえてくるものの、はやり人はいないようだ。



それを確認した後、すぐに玄関の鍵を取り出した。



あたしはつい周囲を見回してしまうが、こういう場合は堂々としていたほうが怪しまれなくていいのだ。



もしこんな所で見つかってしまえば、あたしの執行猶予は台無しになってしまう。



「行くぞ」



その声にハッとして、あたしは和人と共に家の中へと急いだのだった。


☆☆☆


咲紀の家は広くて掃除の行き届いた綺麗なものだった。



玄関先で靴を脱ぎ、その靴を持って家に上がる。



「咲紀の部屋はどこだろう?」



そう言うあたしに、和人が先に立って歩き出した。



「こっちが先の部屋になってた」



階段を上がりながらそう答える和人。



階段を上り切ると、目の前に1つ、左手に2つのドアが見えた。



逆側は行き止まりだ。



試に一番奥の部屋を開いてみると、そこはガランとした何もない部屋だった。



以前は誰かがつかっていたのか、壁にはポスターが張られたままになっている。



次に1つ手前のドアを開く。



その瞬間「あっ」と、声を上げていた。



白い壁に白いテーブル。



本棚の色も白い。



白は、咲紀の好きな色だった。



「ここだ、早く入って」



後ろから和人がそう言ったので、あたしは頷いて部屋に足を踏み入れた。



本当に本が好きだったようで、本棚に入りきらなかった小説が床に積まれている。



その中でも一際目立つのがタイトルに〘言霊〙と文字が入った本だった。



言霊という文字が入った作品は本棚にも、本棚の外にも置かれていて、ザッと数えても50冊はありそうなのだ。



「これだ……」



あたしはそう呟いて言霊の本を手に取った。



言霊の本はすべてに付箋紙が貼られていて、開いてみると黄色い蛍光ペンで線が引かれているものもある。



咲紀が相当読み込んでいたことが伺われた。



「咲紀は言霊の存在を信じて、日記を書いたんだ」



思っていた通り、あの日記には強い怨念が込められていたということだ。



「念のために、パソコンも調べておくか」



和人はそう言って咲紀のノートパソコンを開いた。



「パソコンの中にはなにもなかったんだじゃないの?」



1度この家に入った時に、確認しているはずだ。



「あの時は遺書を探したんだ。でも今回は違う」



そう言い、和人はネットにつなげてお気に入りを開いた。



一覧に出て来たのは咲紀のブログやSNSだった。



「咲紀もこんなことしてたの?」



あたしは和人の横から画面を確認して目を見開いた。



咲紀はほとんどネットをしていないと思っていた。



咲紀をイジメている時に、咲紀の個人的なサイトがないか散々調べたけれど、結局見つけることができなかったことがある。



「ペンネームも変えてるし、個人が特定されないように気をつけてたんだろうな」



和人はそう言いながら咲紀のSNSを開いた。



出て来たのは真っ暗なアイコンで、書かれている内容は死ね、殺すと言った単語ばかりだ。



しかし、それがズラリと並んでいるのを見ると、異様な光景だった。



死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。



死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。



死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。



死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。



死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。死ね。殺す。



単調な言葉のはずが、どんどん脳内に入り込んでくる。



あたしは強く頭を振って「消して」と、言った。

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