第35話
「ブログも似たような感じだ。死ね。殺す。の連投を毎日してる」
和人の言葉にあたしは息を吐きだした。
死ね。殺す。
それが誰に向けられている言葉なのか、聞かなくても理解できた。
これは文芸部の全員へ当てた怨みだ。
あの日記程度で終わるような苦しみではなかった。という意味なのだろう。
「ブログやSNSを削除できないの?」
「わからない。でも、後で削除要請を出してみよう。そうすれば咲紀の呪いの効力は弱まるかもしれない」
早口にそう言い和人はパソコンの電源を落とした。
咲紀のアカウントがわかっただけでも、今日の進歩だ。
あたしは積み重ねられている言霊の本たちを見つけて、そう感じたのだった。
☆☆☆
入ってきた時と同じように堂々と咲紀の家を出て、少し離れた公園に来ていた。
ベンチに座って冷たい缶ジュースをひと口飲むと、ようやく気持ちが落ち着いた。
和人はあたしの隣に座り、スマホをイジっている。
「見つけた」
そう言って画面を見せて来る。
そこには、つい先ほど見た咲紀のブログが表示されていた。
「今、ホームページの管理者に削除要請を出したから、今日中には消してもらえるはずだ。後は……」
和人はそこまで言い、震え始めたスマホを見つめた。
「電話?」
そう聞いて画面を覗き見ると、それは和人の家からの着信だった。
なぜか和人は青ざめた顔をして、電話に出ようとしない。
「出ないの?」
「鍵を持ち出したのがバレたのかもしれない」
そう言われてハッとした。
もしバレていれば、その使い道だって問い詰められるだろう。
なにせ鍵は咲紀の家のものなのだ。
もう、誤魔化しはきかないかもしれない。
「出ないと余計に怪しまれるかも」
あたしがそう言うと、和人は渋々電話に出た。
「もしもし?」
その声だけで緊張しているのがわかった。
あたしは缶ジュースを両手で包んで、和人の声に耳を傾ける。
微かにだけど、電話の向こうの声も聞こえてきていた。
「え? どういうこと――嘘だろ、まさか――」
徐々に和人の声が上ずって行く。
あたしは不安に押しつぶされそうになりながら、和人の電話が終るのを待つしかなかった。
「わかった。それじゃ」
たった2分ほどの通話時間が、永遠のように長く感じられた。
「どうだった?」
和人が電話を切ると同時に、あたしはそう聞いて来た。
緊張で背中に汗が流れていた。
「修人が死んだ」
「え?」
それは全く予想外の言葉で、あたしはポカンと口を開いて和人を見つめた。
「少年院で火事があったらしいんだ。修人1人だけ逃げ遅れて巻き込まれた」
「ちょっと待って、修人が死んだって本当に?」
「あぁ」
和人は短く返事をして、俯いた。
「嘘……」
しかも、火事が原因だ。
咲紀の日記に書いてあったことと一致している。
途端に全身が寒くなって、あたしは缶ジュースを地面に落としてしまった。
クリーム色の土の色に甘いジュースが広がり、黒っぽく色を変えていく。
まさに、今のあたしの心の中と同じだった。
咲紀の呪いから逃れるために少し前進したと思っていたのに、そんなの大間違いだ。
あたしたちはまだ、咲紀の手の中で踊らされているのだ。
あたしに書かれていて《自殺》という二文字が思い出される。
あれも、まだ終わりにはなっていないのかもしれない。
「和人、ちょっと書店に行かない?」
あたしはそう言い立ち上がった。
「書店?」
「そう。本当は図書館がいいけど、ちょっと遠いから」
図書館まで行くにはバスに乗らないといけない。
だけど、書店までなら歩いて3分ほどの距離だった。
できるだけ時間を使いたくないし、バスなど人が多い乗り物に乗るのも嫌だった。
「いいけど、どうして?」
「咲紀が読んでいた本を探すの。その中にきっとなにかヒントがある」
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