第33話
あたしに下された判決は執行猶予付きの刑罰だった。
主犯格が修人であること。
修人への恐怖心に支配され、正常な判断ができない状態であったことが考慮された。
和人の場合は学校の退学後、保護観察処分となった。
いずれも、修人よりも軽い刑罰だ。
修人の罪は凶悪犯罪と認定され、執行猶予もつかず少年院に入れられている。
これでしばらく自分の身は安全そうだ。
あたしは手の甲で涙をぬぐい、久しぶりの家に上がったのだった。
☆☆☆
和人に自由に動けるようになったことを伝えると、自分のことのように喜んでくれた。
周囲はあたしのことを腫れ物のように扱うけれど、和人だけは違う。
家の近くのファミレスで待ち合わせをして久しぶりに和人に会うと、少し痩せているのがわかった。
あたしと同じで、深く帽子を被っている。
「久しぶりだね……」
人目を気にしながら、和人の前の席に座ってそう声をかけた。
「あぁ。愛菜はちょっと痩せた?」
「和人も痩せたよ」
そう言いあって小さな声で笑う。
どこにいても、なにをしていても、誰かに見られているような気がしてならない。
「今は何してるの?」
あたしはオレンジジュースをひと口飲んでそう聞いた。
今は和人も家にいるはずだった。
「引っ越す事になった」
和人の言葉にあたしは顔を上げた。
「……そっか」
あんな大きな事件があったのだから、それも当然の結果かもしれななかった。
もう、この街にはいられない。
あたしだって、今は被害者になっているからいいけれど、いつ引っ越す必要がでてくるかもしれなかった。
「その前にもう1度咲紀の家に行こうと思うんだ」
「え?」
あたしは眉を寄せてそう聞き返した。
正直、もう咲紀と関わり合うつもりはなかった。
日記の通りに死ぬこともなくなったのだから、それでいいはずだ。
「なぁ、咲紀の呪いは本当にこれで終わると思うか?」
「どういう意味?」
「ここまで人を左右するほどの呪いが、タバコを捨てただけで変わると思うか?」
そう聞かれると、返事ができなかった。
日記に書いてあったのはタバコのせいで火事になるということだった。
でも、それだけで終わるとは思えない。
あたしを水中に引きずり込もうとした咲紀の顔を思い出し、身震いをした。
咲紀はあの時笑ったのだ。
楽しそうに。
それは、簡単には咲紀の呪いが終らないことを差しているのかもしれない。
「また鍵を使うの?」
そう聞くと、和人は頷いてズボンのポケットから1つの鍵を取り出した。
「持って来たの?」
驚いてそう聞く。
「やるなら早い方がいい。こんな事件が起こって、親父の会社ももうダメになりそうなんだ」
この機会を逃したら、もう咲紀の家に入る事はできないだろう。
イジメのことまで発覚した今、あたしたちは門前払いされるのは目に見えていた。
それに、セキュリティー会社の息子が絡んでいたと知れば、契約を解除されて鍵は手に入らなくなってしまうのだ。
「どうする? 行くか?」
和人にそう聞かれて、あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
正直心の準備は全然できていなかった。
それでも、今日やるしかなさそうだった。
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