第29話
咲紀をイジメて文芸部から追い出すことができればそれで良かったはずなのに……!
今さら悔やんでも、どうしようもないことだった。
あたしは手の甲で涙をぬぐい、もう1度パソコンの前に座った。
今はとにかく、咲紀の呪いを解く事だった。
なにか方法があるはずだ。
どれだけ強い言霊でも、消す事ができるはずだ。
そう思っていた時だった。
突然ガラッと音が響き渡り、部室の窓が開いたのだ。
あたしは咄嗟にパソコンデスクの下へと身を滑らせた。
一体誰!?
心臓は早鐘を打ち、額に汗が流れて行くのを感じる。
息をひそめていると、2人分の声が聞こえて来た。
「愛奈、いるのか?」
その声は修太だ。
「俺たちだ。安心して出てこいよ」
こっちは和人。
本当に、安心してもいいんだろうか?
警察などを連れてきているのではないだろうか?
そんな不安が過り、声を上げることができなかった。
「俺たちは明日香殺しの共犯だ。お前を警察に突き出したりしない」
和人がこちらの不安をくみ取るように、そう声をかけて来た。
あたしは大きく息を吸い込み、意を決して机から出た。
立ち上がると同時に、2人の持っていたライトで照らし出され、目を細める。
「やっぱりここにいたのか」
和人が安堵したようにそう言い、ライトを消す。
修人もライトを消し、部室内は再び暗闇に包まれた。
でも、そっちの方が今は安心できた。
「2人とも……どうして?」
「事件を知って愛菜のことを探してたんだ」
修人の言葉に、2人からも何度も電話が入っていたことを思い出した。
もちろん、取ったりはできなかったけれど。
「生きててよかった」
和人がホッとしたように呟く。
あたしはその言葉を敏感に聞き取った。
「なにそれ、どういう意味?」
そう聞くと、和人はバツが悪そうに一旦あたしから視線を逸らせた。
「こんな状況で隠してても仕方ないよな。俺も読んだんだ、咲紀の日記を」
和人の言葉にあたしは目を見開いた。
「読んだって、いつ!?」
「愛奈がトイレに行ってる隙に、少しだけ。偶然健太郎と絞め殺すって書かれてるシーンを読んでだんだ。だから今回の事件が起こって驚いたよ。咲紀が書いたことが、そのまま現実になってるんだから」
和人の言葉にあたしは何度も頷いた。
「そう……。美春と明日香のことも書いてあった」
あたしが言うと、和人は目を丸くしてあたしを見つめた。
「それ、本当か?」
「うん。書かれてたのと同じ結果になってる」
「アジかよ……」
仮に、あたしが先に日記をすべて読んでいたとしても、結果は変わっていなかったかもしれない。
咲紀の呪いは、それほどまで強力だ。
「俺はその日記を読んでないからわからないけど、この後俺たちはどうなるんだ?」
修人の言葉にあたしは日記の続きを思い出した。
「日記の通りなら、あたしはこの後自殺する」
そう言うと、修人は言葉を失ってしまったように、ポカンと口を開けた。
「だけどあたしは自殺なんてしない。絶対に!」
あたしは強い口調でそう言い切った。
このまま咲紀の思い通りになるなんて、絶対に嫌だった。
なにがなんでも、この決められたストーリーを変えてやるのだ。
「俺たちのことは?」
修人にそう聞かれて、あたしは左右に首を振った。
「ごめん。日記はまだ最後まで読めてないの」
「日記はどこにある?」
「川に捨てて来た」
「捨てた!? なんでそんなことするんだよ!」
声を荒げる修人を、和人がなだめている。
「だって怖かったんだから仕方ないでしょ。1度燃やして灰にしたのに、またあたしの前に現れたんだから」
早口でそう言ってから、身震いをした。
咲紀の呪いがどこまでもあたしを追いかけてきているような気がした。
「川ってこど? まさか明日香を鎮めた川じゃないだろうな?」
和人にそう聞かれてあたしは左右に首を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます