第28話
どこへ行くこともできないまま、夜が来ていた。
時折聞こえて来るサイレンの音に気が付く度、あたしは草木の陰に隠れてやり過ごした。
スマホを確認するとクラスメートや両親からの着信が複数入っていることに気が付いた。
だけど、こちらから連絡することなんてできなかった。
もしかしたら、警察はもうあたしの家にいるかもしれないのだから。
そう考えると全身が重たくなって、もう一歩も動けないような気がした。
「どこか、眠れる場所を探さないと……」
そう呟き、河川敷の周辺を見回した。
夜になると気温は下がり、さすがに制服姿のまま眠ることは困難そうだ。
せめて室内がいいけれど……。
そう考えた時、部室を思い出していた。
確か、窓の鍵の1つが壊れていて、来週業者に取り換えにきてもらう予定にしていたはずだ。
ということは、今日はまだ鍵が開いていると言うことだ。
それを思い出したあたしはすぐに動き出していた。
部室内なら、外よりも随分とマシだ。
学校内へ入れたらトイレもあるし、部室棟へ移動すればシャワーも借りることができる。
これほどいい場所は他にはないだろう。
足早に階段を駆け上がったとき、近くの大通りをパトカー数台が駆け抜けて行った。
身を縮め、街灯の少ない狭い道を選んで学校へと向かう。
こんな深夜にこそこそと学校まで行くことになるなんて、思ってもいなかった。
でも、文芸部にはパソコンも置いてあるから、事件について調べることもできる。
あたしにとっては好条件だった。
どうにか人と会うことなく、校門をくぐっていた。
毎日通っている場所なのに、夜中に見るととても不気味だ。
その気味悪さに身震いをしながら部室の窓へと走った。
確か、右から2番目の窓だったっけ。
記憶を呼び起こしながら窓に手をかけて、力を込めた。
ガラッと音がして予想通り窓は開いた。
その瞬間、笑みがこぼれる。
よかった!
これで今日はどうにか夜を超すことができそうだ。
右足を窓枠にかけて全身を持ち上げ、部室内へと侵入した。
すぐに窓とカーテンを閉めて、ようやくホッと息をつくことができた。
ここまでほとんど走って来たから、肺が痛い。
床に座りこんだまま大きく深呼吸を繰り返して、どうにか落ち着く事ができた。
月明かりで見える文芸部の中は、今日の放課後見たのと全く同じ状態だった。
あたしは靴をぬぎ、パソコンを立ち上げた。
2台しかないパソコンは資料集めのために使っている。
1台の電源を入れると画面がパッと明るくなった。
その光が外へ漏れるのではと心配になり、制服の上着を脱ぐとパソコンの上にかぶせた。
そしてようやく、事件について検索をする。
この街の名前をデパート名を入力すると、すぐに何件かのニュースが出て来た。
トップで出て来たのは屋上で死体が発見されたというものだった。
被害者である健太郎の名前と年齢も、すでに出ている。
それを確認したあたしは絶望的な気分になっていた。
どうしよう。
もうテレビニュースでもやっていることだろう。
両親も、そして友達も健太郎が死んだことを知っている。
そしてあたしと連絡が取れないことも……。
更にニュースの記事を読み進めて行こうと思ったが、強い吐き気を感じてその場に倒れ込んでいた。
今日1日張っていた気持ちが、ここにきて少し緩んでしまったのだろう。
あたしはゴミ箱を引き寄せてその中に嘔吐した。
パソコンは消して置いた方がいいとわかっているのに、全身がダルくて起き上がる事も困難だった。
SNSなどではあたしの名前や顔写真がすでに出ているかもしれない。
そうなれば、もう逃げ道はどこにもないようなものだった。
全国の人があたしの顔を知り、あたしを追いかけて来るだろう。
そう思うと、自然と涙があふれて来ていた。
こんなハズじゃなかった。
健太郎を殺すつもりなんてなかった。
あたしが逮捕されれば、咲紀イジメや明日香殺害についてもバレてしまうかもしれない。
そうなれば、もう終わりだ。
コンテストなんて、プロデビューなんて、今後一切できなくなるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます