第30話
「まだその川にあるかもしれない。探しに行こう」
「今から?」
あたしは驚いて和人に聞き返した。
「昼間探すわけにはいかないだろ? 幸いライト持ってるし3人いれば見つかるかもしれない」
そうかもしれないけれど、川に投げ捨ててからもう何時間も経っている。
まだ川に残っている可能性は低かった。
「案内してくれるよな?」
和人の言葉にあたしは頷いたのだった。
☆☆☆
それから20分後。
あたしたち3人は昼間の河川敷へと戻ってきていた。
昼間でも人がいないこの場所は夜でも街灯がなくて、とても暗い場所だった。
「確か、あの変から投げたかな」
昼間は混乱していたからあまりよく覚えていなかったけれど、記憶をたどってその場所へと向かう。
修人がライトで川を照らし出すと、今も流れが穏やかなのがわかった。
これなら、もしかしたら流されていないかもしれない。
そんな期待が膨らんでいく。
「よし、手分けをして探そう」
和人にそう言われ、あたしは靴と靴下を脱いだ。
夜の川は想像以上に冷たくて、足を付けた瞬間身震いをした。
でも、そんなことを気にしている暇はない。
今はあの日記を見つけ出して、次の未来を確認しなきゃいけなかった。
そして、変えるのだ。
これ以上悪くならないように、自分たちの手で。
両手を川に入れて探るように日記を探す。
冷たい川の流れによって、体温が徐々に奪われて行くのを感じる。
手に何かが揺れたと思って引き揚げて見ても、それは投げ捨てられたゴミだったり、絡み付いた藻だったりした。
「あったか?」
修人のそんな声にも「ない」と、返事をするしかない。
30分ほど両手をつけたまま探していた時だった。
不意に足元が深くなり、あたしは胸まで浸かってしまった。
「おい、大丈夫か?」
和人の声に答えようとしたとき、何かがあたしの足に絡み付いていた。
そのままグッと引き寄せられて、頭まで川に使ってしまう。
バシャンッと激しい水音を立てながら、あたしは必死に水面に顔を出そうとした。
けれど、足を引っ張るソレが許さない。
両手をばたつかせながら水中に目を凝らすと、2つの目と視線があった。
驚きのあまりハッとして、ガボガボと空気が口から抜けていく。
空気を吸い込もうとした口の中に水が大量に入り込んで来た。
咲紀……!
あたしの足首を掴み、引っ張っているのは間違いなく咲紀だった。
咲紀は無表情でこちらを見つめ、あたしを溺れさせようとしている。
和人と修人の2人が異変に気が付いて、こちらへ向かってくるのがわかった。
けれど息を止めるのも限界で、何度も何度も空気を吐き出してしまう。
その度に体内の酸素は失われ、苦しさが加速していく。
そんな中だった。
あたしは咲紀の隣に日記があることに気が付いたのだ。
日記は岩と岩の間に挟まった状態で、流れていなかったのだ。
けれど、それを手にしようとするには咲紀に近づかなければならない。
咲紀に近づくとどうなるのか、考えなくても理解できた。
とにかく空気を取り入れなければ……!
必死の思いで水面を求め、両手を動かす。
もがけばもがくほど、咲紀の手の力は強まってあたしは川の底へと引き込まれて行く。
酸素が足りず、頭がボーッとしてきた。
体中が重たくて、手を動かすのもしんどいくらいだ。
やがて視界が真っ白に変わる瞬間、咲紀の笑顔を見た気がした……。
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