第23話

目が覚めた時、外はもう明るくなっていた。



ベッドから起き上がると、全身に汗をかいていた。



久しぶりに朝までゆっくり眠れたと思ったら、このざまだ。



あたしはそのままお風呂へ向かい、熱いシャワーを頭からかぶった。



目を閉じるとブヨブヨの明日香の顔が思い浮かんでくる。



咲紀も、あたしを憎んで夢に出て来たのだろう。



簡単に汗を流したあたしは自室へ戻り、制服に着替えてからスマホを取り出した。



このままじゃいけない。



このままじゃ、いつまで経ってもあいつらに引きずられてしまうだろう。



そう思ったあたしは、呪いの解き方について調べ始めた。



悪夢や幻覚から逃れるために、嘘でもいいからわかりやすい方法で悪い物を追い払うのだ。



そうすれば自分の心は納得し、解放されると考えたのだ。



呪いを解く方法としては、まず自分がどんな呪いにかかっているか知る必要があるらしかった。



「あたしの場合は……日記」



たどりついたのは咲紀の日記だった。



缶の中に入れてお札を貼ってから、1度も外へ出していない。



でも、あれこそ呪いの現況だと思えた。



それを元に調べ直してみると、出て来たのは言霊という単語だった。



人の言った言葉や、書いた言葉には魂が宿ると昔から言われているようだ。



咲紀の書いていた日記には、当初考えていた通り強い怨念が籠っていそうだ。



それが言霊となり、あたしたちに襲い掛かってきているのだ。



そう理解したあたしは舌なめずりをして、ベッドの下から缶を取り出した。



お札を引きはがし、日記を取り出す。



日記に触れた瞬間、全身に寒気が走った。



この日記を捨ててしまうのはもったいなかったけれど、言霊を消すためには、書かれているものを抹消してしまうのが一番だった。



あたしは咲紀の日記を片手に、もう片手にマッチを持って庭へ出てきていた。



空を見上げると今日もとてもいい天気だった。



風もないから、火が燃え移る心配もない。



あたしはノートをコンクリートの上に置き、躊躇することなく火をつけたのだった。



咲紀の日記はあっという間に燃えて言った。



白い煙を上げながら、黒い隅に変化していく。



咲紀の書いた言葉たちは数分後には全く読むことができなくなっていた。



「これで終わりだね」



あたしは灰になった先の日記を踏みつけて、そう言ったのだった。


☆☆☆


咲紀の日記を燃やしてしまったあたしは、また創作活動に専念していた。



咲紀の日記を元にしているから進みが遅かったけれど、それも今では気にならないくらいになっていた。



「もうすぐ書き上げか?」



部室内で修人がそう声をかけて来たので「うん」と、頷いた。



咲紀の日記に惑わされることなく、ちゃんと自分の文章を書けていると感じられた。



「最近調子よさそうだな」



そう言ってため息を吐き出した修人に、あたしは顔をあげた。



あまり顔色がよくないようだ。



「俺、ちっとも進まなくなった……」



そう言って机の上に置いてある原稿用紙を見つめている。



その原稿用紙は見事に真っ白だ。



「仕方ないよ。色々あったんだから」



「お前だって同じだろ」



「あたしは、呪縛から解放されたからいいの」



咲紀の日記をこの世から消した時、あたしの心は確かに解放されたのだ。



単純だけど、絶大な効果があった。



これこそプラシーボ効果だった。



「女って強ぇな……」



修人が呆れたようにそう言った時、あたしのスマホが震えた。



確認すると健太郎からメッセージが届いている。



《健太郎:門のところで待ってるよ》



その文面にあたしはそそくさと帰る準備を始めた。



もうすぐで作品は完成するけれど、家に持って帰って続きを書くつもりだった。



「なんだよ、もう帰るのか?」



黙って作品を書いていた和人がそう声をかけて来たので「今日はデートなの」と、返事をして教室を出たのだった。

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