第24話
☆☆☆
メッセージにあった通り、健太郎は校門の前で待っていてくれた。
「ごめん、ちょっと遅れちゃった」
「全然待ってないから大丈夫」
2人で歩き出すと、すぐに手が繋がれた。
日記を燃やしてしまってから、健太郎の顔が明日香に見えるようなこともなくなった。
今日は遊園地であまり楽しめなかったから、埋め合わせとしてのデートだった。
「駅前に新しいクレープ屋ができたらしいな」
「うん。よく知ってるね」
「昨日母親が言ってたから」
そんな他愛のない会話をしながら、お目当てのクレープ屋に到着すると、女の子たちで溢れていた。
オープンして間もないし、大盛況だ。
「あ、あんなところに観覧車があるな」
クレープを買うために並んでいると、健太郎がそう言って上空を指さした。
視線を向けると、デパートの屋上に小さな観覧車が見えた。
「本当だ。屋上遊園地ってやつかな?」
最近ではほとんどみかけなくなったけれど、昔はデパートの屋上に遊具があったらしい。
「あんな場所にあったっけ……?」
この辺りにはよく遊びにくるけれど、観覧車を見たのは初めてだった。
「クレープを食べたら行ってみようか」
「そうだね」
この前は観覧車に乗れなかったし、ちょうどいいかもしれない。
☆☆☆
そのデパートはあたしたちが産れる前から建っている、古いものだった。
内装もどこか古臭い色合いで、エスカレーターに乗るとギシギシと嫌な音を立てた。
店内にいるお客さんも年配の人が多くて、あたしたちはあまり見る物もなさそうだ。
エスカレーターで屋上までやって来たあたしたちは、ガラス張りのドアを開けて外へ出た。
店内にはそんなにお客さんがいる様子じゃなかったけれど、屋上遊園地には沢山の子供たちがいた。
動物の形をした乗り物に乗っていたり、着ぐるみが風船を配っていたりする。
その一番奥に、観覧車はあった。
「すごーい。結構賑やかだね」
観覧車に近づきながらあたしは言った。
「本当だな。こういう場所ってあまり来ないけど、今でも人気なんだな」
健太郎も物珍しそうに辺りを見回している。
観覧車の前まで来ると、それはすごく寂れていることがわかった。
回ってはいるが、風が吹くだけでゴンドラが左右に揺れている。
「これ、大丈夫かな……」
思わずそう呟いた。
観覧車が途中で止まったり、落下したりするとシャレにならない。
「さすがに点検くらいしてるだろうから、大丈夫だろ」
そう言い、健太郎は躊躇することなく観覧車に乗り込んでいく。
料金はどこで支払うのだろう?
料金を支払うような場所もないし、観覧車の近くに係員の姿もなかった。
「どうしたんだよ愛菜。早くおいで」
健太郎に手招きをされ、疑問を感じながらあたしは観覧車へ近づいたのだった。
「勝手に乗ってよかったのかな」
観覧車に乗り込んで、あたしはそう呟いた。
「大丈夫だろ。ドアだって自動でしまったし、誰かに何か言われたらその時にお金を払えばいいだろ」
「うん……そうだよね?」
古いと思っていた観覧車のドアは、意外にも自動で開閉したのだ。
外観よりも新しいものなのかもしれない。
「意外と揺れないね」
乗っていると、ゴンドラの揺れはそれほど強くないことがわかり、安心できた。
窓から外を眺めてみると、普段大きく感じるビル群が小さく立ち並んでいる。
少しの敷地内にひしめき合って建っているのがよくわかった。
その時、あたしはある違和感に気が付いて眉を寄せた。
さっきまであたしたちがいた屋上遊園地に、今は誰の姿も見えなかったのだ。
姿が見えないだけじゃない。
あったはずの遊具まで見当たらなくなっていた。
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