第4話
☆☆☆
咲紀の家は学校からバスで10分ほど行った場所にあった。
閑静な住宅街の一角へ視線を向けると、沢山の人が行き来しているのがわかった。
この家の中で人が1人死んだのだ。
そう思うと、なんだか不思議な気分になった。
「あの、すみません」
丁度家から出て来た男性に、あたしは声をかけた。
見たことのない男性だけど、よく見ると目元が咲紀に似ている。
「え、なに?」
止まった男性は驚いた様子であたしたちへ視線を向ける。
しかし、制服姿だったのが良かったようで、すぐに咲紀の友人だと気が付いてくれた。
「咲紀が亡くなったって聞いて。でも信じられなくて……」
「そうか。それでわざわざ家まで来てくれたのか」
男性はそう言い、疲れた笑顔を浮かべた。
「今はまだ葬儀の準備とかで忙しくて、詳しくはわからないままなんだ」
男性の言葉にあたしと明日香は顔を見合わせた。
詳しくわからないと言う事は、ちゃんとした遺書は存在していないのかもしれない。
「あの……自殺、だったんですか?」
「……そうだね。たぶん、そうなんだと思う」
何度も頷いてそう答える男性。
自分の中でもまだ整理がついていない状態なのだろう。
あたしたちと話をしながらも、男性は上の空だった。
「どうして自殺なんか……」
美春が呟くように言う。
「そうなんだ。原因が全然わからない。咲紀は昨日怪我をして救急車で運ばれたけど、それ以外に変わったことなんてなにもなかったんだ」
やっぱり。
咲紀は遺書も用意せずに死んだようだ。
そうわかると、一気に気分が楽になっていく。
これで、あたしたちのしたことがバレる心配はなくなった。
「そうですか……。忙しい中失礼しました。また、葬儀の時にきます」
「あぁ。わざわざ来てくれてありがとう」
あたしたちは男性へ向けて頭を下げ、その場を後にしたのだった。
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