第3話
翌日の朝、慌ただしい足音が聞こえてきてあたしは目を覚ました。
窓の外からは朝日が差し込んできている。
ナイトテーブルに置いてあるスマホで時間を確認すると、朝の6時半だった。
あと30分は眠れる。
そう思って再び目を閉じた時、部屋にノック音が聞こえて来た。
閉じた目を開けて「なに?」と、ドアの向こうへと声をかける。
「愛奈、起きてるの?」
母親の声に、あたしはリモコンで電気をつけた。
「起きてるよ、どうしたの?」
「入るわよ」
そう言ってドアを開けて入って来た母親は、どこか青ざめた顔をしている。
「なに?」
こんな時間に、青ざめた顔で部屋に入ってこられたら、嫌でもなにかあったのだと気が付いてしまう。
あたしはベッドから下りた。
「今、学校から連絡網が回って来たの」
「連絡網?」
そう聞き返しながら、あたしはスマホを手に取った。
連絡網のほとんどは家の電話ではなく、クラスメッセージで送られてくるようになっている。
しかし、確認してみてもなんの通知も来ていなかった。
「2年生の久林咲紀ちゃんって知ってる?」
そう聞かれてあたしはピクリと反応した。
昨日の放課後、階段から突き落としたときの感触を思い出す。
「知ってる。文芸部で一緒だから」
あたしはそう答えながら母親から視線を外した。
「そう。その久林さんが、今朝亡くなったって連絡が来たの」
「え?」
一瞬目の前が真っ白になり、全身が凍り付いた。
まさか、階段から落ちてそのまま死んでしまったんだろうか?
ちゃんと救急車で運ばれて行くのを確認したけれど、その後咲紀がどうなったのか、まだ連絡が来ていない状態だった。
「死んだって、なんで?」
あの時咲紀を殺してしまったかもしれない。
そう思うと、自然と声が震えた。
「家のお風呂で亡くなっていたらしいわ」
「お風呂?」
「そう……手首を切って」
言いにくそうにそう言う母親。
自殺。の、二文字が脳裏に浮かんだ。
自殺ならそれでいい。
問題は遺書などが残されていたかどうかだった。
「他には、なにかわかってるの?」
そう聞くと、母親は左右に首を振った。
連絡網じゃ、詳しい内容までは回って来ないだろう。
「わかった。文芸部の子にも知らせとくね」
あたしはそう言ったのだった。
☆☆☆
咲紀が自殺するなんて完全に想定外だった。
足早に学校へ向かいながら舌打ちをする。
一応、文芸部のメンバーにはメッセージを送っておいたけれど、これからどうなるかわからない。
部活内でのイジメが発覚すれば最悪退学になってしまうかもしれない。
そう考えると気が気じゃなかった。
この前のコンテストで、あたしはようやく一次審査を通過することができたんだ。
まだまだ、これから沢山のコンテストに参加して華々しくデビューする予定だ。
それが、こんな所で躓くなんてありえなかった。
学校に到着したあたしは、教室へは向かわずに文芸部の部室へ向かった。
メッセージを送っておいたから、きっと誰かがいるはずだ。
そう思って部室の前までやってくると、部屋の中から話声が聞こえてきた。
軽くノックをしてドアを開くと、昨日いた明日香と美春の2人がいた。
2人の姿にホッと胸をなで下ろす。
「愛奈。咲紀が自殺したって本当?」
明日香にそう聞かれて、あたしは頷いた。
「どうしよう。あたしたちのせいだよね」
そう言った美春をあたしは睨み付けた。
「あたしたちがやっていたことは、まだバレてない。咲紀が遺書を残していなければ、隠し通すことができる」
あたしは早口で2人へ向けてそう説明をした。
「遺書があったかどうか、わかるの?」
明日香にそう聞かれて、あたしは左右に首を振った。
もしも咲紀が遺書を準備していて、それが人目に触れていたらあたしたちはもう終わりだ。
「あたしたちは文芸部で咲紀と仲が良かった。だから、今から家に行っても怪しまれないと思う」
あたしは2人へ向けてそう言った。
「今から咲紀の家に行くの?」
美春の言葉に、あたしは頷く。
「家の人の反応を見れば、なにかわかるかもしれない」
本当は直接遺書があったかどうか聞きたい。
けれど、そんなことを質問するとあたしたちは余計に怪しまれてしまうだろう。
「そうだね。行こう」
青ざめた顔の明日香が、そう言ってすぐに立ち上がった。
居てもたってもいられない状態みたいだ。
あたしも、明日香と同じ気持ちだった。
早く対処しないといけないと、気持ちが焦っている。
「美春も一緒に来るよね?」
あたしがそう聞くと、美春は頷いたのだった。
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