第45話 マエ川での取材
取材は先日70センチの鯉を釣ったワニ川水門から始まった。
あの鯉を今日釣ったことにして、小鳥遊は記事を書くと言う。
美沙希は嘘をつくのが嫌だったが、いい記事にするためだと強く言われて、結局は同意した。
7月20日。曇天だった。
「水郷釣具店、雇ってくれることになった。明日から働くよ」とカズミは言った。
「そう。よかったね」と美沙希は答えたが、目に見えて元気がなくなった。自分だけ取り残されてしまったように感じたのだ。
ワニ川水門からマエ川に移動したが、美沙希の釣りは精彩を欠いた。
スピナーベイトを投げていたが、木の枝に引っ掛けて、ルアーをロストするなど冴えなかった。
カズミはノーシンカーリグで35センチと27センチのバスを釣って、ノルマを果たした。
しかし美沙希はついにノーフィッシュに終わった。日没までバスを手にすることができなかった。
「約束の報酬はカズミくんにしか渡せない。美沙希くんはノーフィッシュ。ノルマ未達成のため、5千円は払えない。鯉の報酬は先日渡した3千円だけだ」
「明日、取材してもらえませんか」
「だめだよ。おれも忙しいんだ」
小鳥遊はにべもなく断り、車に乗って帰った。
美沙希は落ち込んでいた。
「バイトもだめ。釣りもだめ。私はもうだめ……」
「そんなに思いつめないでよ。1日釣れなかっただけじゃない。来月がんばろうよ」
「何をやってもだめなの……」
ひどい鬱になっていた。
どう慰めればよいのだろう?
パートナーを元気づけたい。
「今日はあたしがおごるよ。ラーメン食べに行こ」
「うん。ありがとう……」
純樹でラーメンを食べたが、美沙希は落ち込んだままだった。
釣りの失敗は釣りで取り返すしかないか、とカズミは思った。
来月の取材、必ず美沙希に釣ってもらわなければならない。
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