第46話 川村美沙希の憂鬱
美沙希は鬱々としていた。
ルアーを買いたいが、水郷釣具店には行きたくない。
カズミがいきいきとバイトしている姿を見たら、きっと落ち込む。
自分との落差を見たくない。
もちろんカズミが上で、美沙希が下だ。
彼女が住むイタコ市には他にも釣具店がある。
ルアーショップ51というバス釣り専門店があり、品揃えが豊富だ。
美沙希はカズミと会うのを避け、ルアーショップ51を訪れた。
次の取材ではぶざまなノーフィッシュをくり返すわけにはいかない。
美沙希は確実にバスを獲るため、ワーム(ソフトルアー)のライトリグを使おうと考えていた。
ライトリグとは軽いおもりを使った仕掛けのことである。
スローな釣り方であるため、広範囲を探る場合には向いていないが、魚がほぼ確実にいるポイントでは効果的で、高い確率で釣ることができる。
軽いガン玉を使ったスプリットショットリグやダウンショットリグは代表的なライトリグ。
おもりをまったく使わないノーシンカーリグは究極のライトリグだ。
美沙希はノーシンカーの釣りをするとき、常にラインを見ていて、ラインの変化で魚がルアーに食いついた瞬間を察知している。
ラインが急にたるんだり、張ったりしたら、魚のあたりだ。
ロッドを鋭く立てて、あわせる。
たいてい魚を釣ることができる。
カズミはまだこの域には達しておらず、竿に反応があってからあわせている。これでも釣れるが、このときバスがすでにルアーを吐き出していることがあり、そんなときは空振りに終わる。
美沙希の技量はカズミより遥かな高みにある。
しかし彼女は元気がない。
ルアーショップ51で2インチヤマセンコー、3インチヤマセンコー、3インチカットテールワーム、4インチカットテールワーム、マス針、オフセットフック、4ポンドフロロカーボンラインを購入し、ノーシンカーリグの準備を整えたが、気分は晴れない。
8月の取材はどこで受けるか考えた。
バスが濃いポイントがいい。
どこの川と限定せず、水郷をランアンドガンする。
「釣りガールズ 水郷を行く ランガンの巻」というタイトルにしてもらえばいい。
キタトネ川ウリボリ
キタトネ川・ヨロコシ川合流部
キタトネ川・マエ川合流部
キタトネ川・ヨコトネ川合流部
ヨコトネ川・ヤスジ川合流部
49センチ水路
これらの場所をランガンすれば、ノーフィッシュはないだろう。
美沙希にはライトリグはせこい釣りとの認識がある。
そう考えているバサーは少なくない。
しかしなりふりかまってはいられなかった。
彼女は小鳥遊のスマホに電話し、次の取材では各地をランガンしたいと伝えた。
彼はその方針を了承した。
集合場所はウリボリと決めた。
日時は追って連絡する、と釣り雑誌の編集者は言った。
はあ……。
いまごろ、カズミははりきってバイトしているんだろうな。
私はまったく前進していない……。
美沙希は憂鬱だった。
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