第26話 49センチ水路
美沙希とカズミはコンビニに寄った。
美沙希はホットコーヒーを買い、カズミはカレーパンとチョココロネとペットボトルのスポーツドリンクを買った。
「これから行くところは、個人的に49センチ水路って呼んでいるの」と美沙希が言った。
カズミは朝食のパンをはむはむと食べながら聞いている。
「49センチのバスを釣ったから、49センチ水路。私が釣った最大のブラックバス」
「すごいねー。49センチなんて、超大型じゃん」
「まぁ、大きいことは大きいんだけど、超大型ではないわ」
美沙希は紙コップのコーヒーをゆっくりと味わって飲んでいる。
「50センチ以上のバスが、ランカーと呼ばれるサイズなの。私はそのランカーを釣ったことがない」
「美沙希が釣ったことがないなら、よほど珍しいんだね」
カズミの言葉に、美沙希は首を振った。
「多くはないけれど、長くバス釣りをやっていたら、たまには釣れるサイズのはずなの。小学生がランカーを釣っているのを見たこともある。私は今日にでもランカーを釣りたいと思ってる。そして、49センチ水路をランカー水路って名前に変えたい!」
「49センチも50センチも同じようなものじゃない?」
「全然ちがうわ!」
「たった1センチのちがいでしょ?」
「その1センチを超えたかどうかが、バサーにとっては大問題なの。ランカーを釣ったことがあるかどうかが! 早くランカーバサーになりたい……!」
美沙希には50センチのバスに並々ならぬこだわりがあるらしい。カズミにはよくわからないこだわりだった。
コンビニを出て、水路に向かう。
イタコ大橋を渡り、ヨタウラ橋を越え、ヤスジ川沿いを走って、ヨコトネ大橋を渡る。
さらにぐんぐんと西へ走り、イナシキ大橋を越えた。
「ここまで来るのは初めてだね」
「もうすぐだよ」
1車線の荒れたアスファルトの道に入った。
周囲には蓮畑や田植えを済ませたばかりの田んぼが広がっていて、建物はほとんどない。
大きなカーブを曲がると、1車線道路の横に農業用水路が伸びていた。
その水路にかかっている小さな橋を越え、美沙希は自転車を止めた。
「ここが49センチ水路だよ!」
水路の幅は4メートルほどで、片側は護岸工事されていて、片側には自然の葦が生えている。ふたりのバサーが護岸側に立って、すでに釣りを始めていた。
「秘密の水路って言ってたけど、バサーがちらほらいるね」
「私が秘密にしているだけで、知っている人は知っているポイントなの。ポッパー川って呼んでいる人もいるわ。ポッパーで釣ったんでしょうね」
「美沙希が秘密にしている意味ないね。そもそも美沙希って、友だちいないから、教える人もいないし」
「それを言わないでー!」
「あたしには教えてしまったし」
「カズミは特別なのよー!」
「わかった、わかったわ、ありがとう!」
美沙希はちょっと恨めしそうにカズミを見やり、それから釣りの準備を始めた。
カズミはスピニングリールとはちがう構造のベイトリールを見て、どうしてよいかわからず、首を傾げた。
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