第25話 釣り人の朝
美沙希は午前3時25分に目覚めた。
目覚まし時計は3時30分にしかけていたのだが、ベルが鳴る前に目が覚めた。
起きようと思っている時間の少し前に起きるのは、美沙希にとって珍しいことではなかった。釣りの日は特に。
パジャマを脱いで、アウトドアルックで身を包む。
お父さんを起こさないように静かに階段を下り、洗面所で顔を洗う。
200gのパックご飯をレンジでチンして、卵と醤油をかけて食べた。卵かけご飯は究極のメニューのひとつだと思う。
歯を磨き、トイレに入って用を足した。
この時点で4時15分。余裕がある。
美沙希は音を立てないよう気をつけて階段を上り、釣り部屋に入った。
カズミの分のタックルも用意する約束だ。
今日は水路で葦撃ちをする予定。
テキサスリグで撃ちまくろう。
大小いくつかのオフセットフック、重軽各種のタングステンバレットシンカーをウエストバッグに収納。
ワームは信頼するゲーリーヤマモト社のものをいくつかチョイスした。4インチグラブ、6インチジャンボグラブ、4インチカットテール、4インチヤマセンコー、6インチヤマセンコー。カラーはウォーターメロンとスモーク。全10袋をバッグに入れた。
ロッドは6フィート(約180センチ)のツーピースのベイトロッドを2本。6フィートは使いやすい長さだ。そして3フィートに分割できるので、自転車の前カゴに入れて移動できる。
そして15000円で買ったダイワのベイトリールをふたつ、カラーボックスから取り出した。
今日の釣りはベイトリールの使い方をカズミに教えることから開始かな。
美沙希は準備万端整えて、4時55分に玄関を出て、カズミを待った。
カズミは午前4時20分に目覚めた。
目覚まし時計は3時30分にセットしておいたのだが、二度寝してしまったのだ。
ヤバい!
彼女は跳ね起きた。
寝巻きを脱いで、昨日お母さんに買ってもらったホットピンクの長袖Tシャツとダメージデニムを着る。
顔を洗って、髪に櫛を入れる。カズミの髪は少しカールしたくせ毛で、整えるのに時間がかかる。
朝ご飯をちゃんと食べて出発するつもりだったが、その時間はなさそうだ。美沙希にコンビニに寄ってもらうよう頼もう。朝食はそこで。
歯を磨き、トイレに行き、サイフとスマホをリュックに入れて、カズミは玄関を出た。今日はロッドとリールは持って行かなくていい。美沙希が貸してくれることになっている。
このとき、4時50分。
カズミの家はひので町にある。
美沙希の家ほど大きくはないが、瓦屋根の一軒家だ。
あやめ町の美沙希の家まで、自転車を飛ばせば10分で着くはずだ。
遅刻したくない。
美沙希からだらしない子だと思われたくない。
カズミは自転車を立ち漕ぎして、ダッシュした。
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