第24話 ひとりきりの釣り
翌日、ゴールデンウイークの中日、美沙希はひとりでフィールドに出た。
朝イチでやってきたのは、キタトネ川のウシボリ地区。
この川岸には、約1キロメートルに渡ってテトラポッドが沈められている。有名なバス釣りスポットで、テトラの際に魚が着いている。
すでにたくさんのバサーが釣りを始めている。
美沙希はその中に割って入り、スピナーベイトを投げた。
スピナーベイトとは、金属のブレードと小魚を模したヘッドをワイヤーで組み合わせたルアーだ。トラウト狙いや海では使うことのないバス釣り専用のルアー。リールを巻いていると、ブルブルとしたルアーの振動が手に伝わってきて心地よい。根がかりも少ないハードルアーで、美沙希は朝イチにこのルアーを使うことが多い。
移動しながら10分ほどスピナーベイトを投げたが、バイトはなかった。
足を使って移動しながら魚を探すのは、ランアンドガンと呼ばれる釣り方で、バス釣りの基本だ。
美沙希はスピナーベイトをクランクベイトに変えた。
釣れなければ別のルアーに変えて、当たりのルアーを探すのも、バス釣りのセオリーである。
クランクベイトは丸っこい形をした小魚型のルアーだ。
先端に付いているリップの大きさで潜る深度が変わってくる。シャロークランク、ミッドクランク、ディープクランクなどと呼ばれる。
美沙希は1.5メートルほど潜るミッドクランクをチョイスして、ランアンドガンを続けた。
ヒット!
美沙希はクランクベイトで35センチのバスを釣り上げた。
うれしい。
でも何か物足りない。
この魚をカズミにも見てもらいたかった。
釣れた喜びを共有できる仲間が今日はいない。
約1時間、ウシボリでハードルアーを投げまくったが、釣れたのは1匹だけだった。
まぁ、1匹釣れただけでもいい。
今日はもうノーフィッシュはない。
美沙希は小河川のマエ川に移動し、バイブレーションを投げた。
バイブレーションはリップがないタイプの小魚型ルアーだ。バイブレーション、スピナーベイト、クランクベイトは巻物とも呼ばれるルアーで、ひたすら投げては巻くをくり返す。
ブルブルとした振動を感じながら巻き、突如としてバスがルアーに食いつき、ガツッとあたりが来る。
そのとき、釣り人の脳内に快楽物質が分泌されるのだ。
マエ川屈指の好ポイント、オオス地区で美沙希は巻物を投げ続けた。
オオス地区は川幅が広くて、ハードルアーを投げ倒すのに向いている。
美沙希はここで、シャロークランクを使ってバスを1匹追加した。20センチほどの小バスだった。
この日、美沙希はキタトネ川、マエ川、ヤスジ川、ヨコトネ川をランガンし、3匹のバスをゲットした。
ひたすらハードルアーを投げまくって、いい釣りができた。いつもなら、大満足しているはずだ。
しかし、美沙希は一抹の寂しさを感じていた。
やはり何か物足りない。
カズミがいたら、もっと楽しかっただろうな……。
美沙希は仲間がいる釣りの楽しさを知ってしまった。
もうひとりぼっちには戻りたくない。
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