第27話 ベイトリールと葦撃ち
「じゃーん。ベイトリールのメリットその1、カッコいい!」
美沙希が自分のベイトタックルを右手で持って言った。
カズミは苦笑いしている。
スピニングリールだって十分カッコいいと思う。ベイトリールの方がカッコいいと断言するほどちがうとは思えなかった。
「ベイトリールのメリットその2、サミングでラインの出をストップさせることにより、狙ったところに投げられる!」
「コントロールがつけやすいってことね。それはいいわね」
「ベイトリールのメリットその3、太いラインや重いルアーを使いやすい。今日やろうとしているヘビーカバーの葦撃ちはベイトしかないって感じ。その反面なんだけど、細いラインや軽いルアーは扱えない。これはデメリットその1だね。ノーシンカーやダウンショットなんかのライトリグはスピニングリールを使うしかないの」
「美沙希がたくさんのロッドやリールを持っている理由が少しわかったよ」
「ベイトリールのデメリットその2、ルアーの飛んでいる速度とスプールの回転が一致しない場合にバックラッシュしちゃう」
「バックラッシュ?」
「ライントラブルのことだと思っておけばいいよ。防止するには、ルアーの着水直前にサミングすること。これを忘れると、ほぼ確実にバックラッシュしちゃうんだなぁ」
「なんかむずかしそうね」
「やりながら覚えていこう。葦撃ちはピッチングという下手投げのキャスティングをするんだよ。こんなふうに」
美沙希が4インチヤマセンコーのテキサスリグを投げた。水路の対岸の葦際ギリギリにスパッとルアーが着水した。ルアーの軌道は低く、着水直前にサミングして、着水音は極めて静かだった。
「おおーっ、カッコいい!」
「でしょ」
カズミが賞賛し、美沙希がにこっと笑った。
「釣り方はこのピッチングで葦際を狙ってひたすら撃つこと。着底したらいったん止める。30センチだけズル引きして、また止める。あたりがあったら、思いっきりあわせて。反応がなかったらルアーをピックアップして少しだけ移動し、30センチ横の葦際にぶち込む。このくり返しだよ。やってみて」
「うん、やってみる」
1時間ほどはバックラッシュの連続で、ほとんど釣りにならなかった。
カズミがライントラブルを起こすたびに、美沙希がていねいにそれをほどき、元に戻した。
「ごめん、美沙希」
「気にしないで。初めてベイトリールを使ったときは、こんなものだよ。練習、練習!」
だんだんとサミングのコツがわかってきて、バックラッシュしないようになってきた。
2時間後、葦際にポチャッとルアーが落ちた。
3時間後には、スパッ、スパッとテンポよくルアーが投げられるようになっていた。カズミの葦撃ちがさまになっている。
「この釣り、気持ちいいかも」
「でしょ。すごくうまくなってきたね。そろそろ来ると思うよ」
「何が? って、うおっ!」
コッという違和感を感じ、カズミは反射的にあわせを入れた。
ロッドが弓なりに曲がる。
「ほんとに来たっ! 魚だよっ!」
「14ポンドラインだから、強引に巻いてだいじょうぶだよ! 葦に逃げ込まれないように、どんどん巻いて!」
「うおーっ! すごい引く、重い!」
「負けるな、カズミ!」
カズミはバスを水面から引っこ抜いた。その瞬間、ものすごい快感を覚えて、あ、ヤバい、と思った。
計測したら、39センチのバスだった。
「えーっ、40アップじゃないのぉ? 1センチおまけしてよ」
「だめよ。誇りあるバサーはズルはしないの」
誇りあるバサーかぁ。
カズミは、美沙希が49センチを超え、50センチを釣りたいと言った理由がわかった気がした。
あと1センチが、ものすごく欲しい。
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