第19話 キャットフィッシュ

「うわー、なんだこいつー!」

 仕掛けを投げて30秒もしないうちに、ゴツンという強いあたりがあった。そして、リールからどんどん糸を出して、魚が疾走し始めた。


「キャットの大物がかかったのよ、がんばって、カズミ!」

「40アップのバスよりすごいよー。なんなのこの魚ー!」

 リールをジジジーと鳴らして、魚は沖へと泳いでいく。竿が持っていかれそうになって、カズミは慌てた。


「こんなの、どうすればいいのかわからないよー!」

「しっかりと竿を立てて、耐えるのよ! 魚との戦いだから! 相手も必死なのよ。へばるのを待って!」

「ひゃー、すごいパワーだよぉ!」

「負けずにリールを巻いて! 魚も疲れてくるはずだから!」

「ひーっ!」

 カズミは左手でロッドを立て、右手でリールを巻いた。魚は弱るどころか、右へ左へと元気に泳ぎまくっている。100メートル巻いてあるリールの糸が、あっという間に半分ほど引き出された。


 カズミは慌てふためいているが、美沙希は冷静だった。この場所で何度も大型のキャットフィッシュを釣り上げている。耐えていれば、やがて魚が疲れてくるのを知っている。

 カズミに釣らせたい、その一心でサポートしている。

「そのまま、そのまま我慢して! 竿を立てて、弾力を使ってね。魚に負けて、竿を寝かしたらだめだよ。竿とラインが直線になったら、あっという間にラインが切れるからね!」

「重い、重いよー。腕が震えてきたー!」


 カズミはぎゃーぎゃーわめいていたが、魚は少しずつ弱ってきて、近づいてきた。

 ついに水面に現れた魚を見て、カズミは驚いた。黒々とした巨大な魚体。大きな頭。化け物みたいだった。 

「軽く50センチはあるわね。寄せて、カズミ!」

 美沙希がランディングネットを構えた。

 カズミがリールを巻くと、魚はさらに抵抗し、テトラポッドの下に潜り込もうとした。


「テトラに行かせないで! ラインが切れちゃう!」

「どうすればいいのぉ?」

「竿を高く上げて!」

「折れる! 竿が折れちゃう!」

 カズミのロッドは限界まで曲がって、なおもぐんぐんと引っ張られていた。

 魚は最後の抵抗をして、テトラポッドの際で暴れ回っている。

 美沙希はネットを魚の頭へ向けて伸ばした。

 それを嫌って、魚は抵抗し続ける。

「重い! 強い!」

「そのまま耐えていて! 獲れるよ、この魚!」

「ううーっ」


 美沙希のランディングネットが魚を捕らえた。

「よし、獲ったわよ、カズミ!」

 美沙希はテトラポッドの上から、防波堤へと移動した。

 キャットフィッシュをコンクリートの上に置いて、メジャーで体長を測る。

 カズミは肩で息をしながら、そのようすを見つめていた。

「55、いや56センチはあるわね。おめでとう、カズミ。なかなかの大物よ」

「これがアメリカナマズ。不気味ね……」

「迫力あるでしょ。大物ほど頭がでかいのよ。ヒゲも太いわ。ヒレに尖ったトゲがあるから気をつけてね」

「1匹釣っただけで疲れた……」

「楽しかった?」

 美沙希がカズミを見つめた。

「そうね……」カズミは笑った。

「サイコーに気持ちよかった!」

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