第20話 ハグ

 美沙希とカズミは港でキャットフィッシュ釣りを楽しんだ。

 カズミが最初に釣った56センチより大きな型は釣れなかったが、ふたりとも30から40センチほどの魚を2、3匹ずつ追加した。


「そろそろお腹が空いてきたわ」と美沙希が言った。

「そうね。何食べようか?」

「ラーメン、好き?」

「ふつうに好きって言ったよね。また純樹に行く?」

 美沙希がラーメン食べる気満々なのを見て取って、カズミは笑った。

「もちもちの樹っていうラーメン屋さんがあるんだよねー。そこも美味しいんだー」

「はいはい。そこに行きましょ」

「えへへ。カズミ大好きー」

 美沙希が軽くハグしてきたので、カズミはびっくりした。


 彼女の両腕がカズミの首に回されている。一瞬だけ頬がふれあう。美沙希の腕はひんやりとして、心地よかった。


 美沙希はすぐに離れてなんでもないように自転車にまたがったが、カズミはしばらく動悸が止まらなかった。

 ドッドッドッと心臓が鳴っている。


 この子、あたしを殺す気なの?


 美沙希は涼しい顔で自転車を走らせ始めた。カズミは慌ててあとを追った。

「ねえ、今のハグはなんなの?」

「えっ、大好きのハグだよ」

「いや、大好きって……」

「カズミが大好きだから、思わずしちゃった。ごめん、嫌だった?」

「嫌じゃない。全然嫌じゃない。むしろうれしいんだけど……」

「よかった。カズミは私のたったひとりの友だちだから、嫌わないでね!」

 嫌うはずがない。

 そんなこと、絶対にない。


 たぶん美沙希の好きより、あたしの好きの方が大きい、とカズミは思った。

 あたしは気楽にあの子を抱いたりできない。

 きっと抱きしめたら、強く強く抱いて、離したくなくなる。


 カズミはハグされた多幸感でいっぱいだった。

 でも少し切ない。

 あたしの好きと彼女の好きはきっとちがうんだよね……。


 美沙希が力強く自転車を漕ぐ。

 カズミはそのあとを懸命に追った。

 いつまでも一緒にいたいよ。

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