第10話 琵琶カズミという少女

「起きなさい、カズミ! 遅刻するわよ!」

「うう……。眠いよぉ、あと24時間寝させて……」

「莫迦言ってないで、起きなさい! 朝ごはんできてるから!」

「ふわーい」


 琵琶家の今日の朝食は、ごはんと鯵の干物とワカメのお味噌汁だった。

「いただきます」

 お母さんがつくってくれたごはんをカズミは食べはじめる。食卓にいるのは、母ひとり子ひとり。

 カズミの父親は彼女が物心つく前に、山で遭難して亡くなっていた。お父さんがどういうものなのか、彼女は知らない。

「カッコいいひとだったのよ〜。まだあの人が好きだから、お母さん再婚できないのよね」などとのたまうお母さんは地方公務員で、収入は安定している。

 この母が明るい人なので、カズミは母子家庭で寂しいと思ったことがない。


「最近楽しそうね、カズミ。何かいいことでもあったの?」

「でへへ、わかる?」

「あ、彼氏ができたの? お母さんに紹介しなさいよ!」

「いや〜、彼氏というより、彼女ができた、みたいな」

「彼女?」

「きれいでさぁ、かわいくてさぁ、冷たそうに見えて、実はやさしいの。サイコーの彼女なんだ!」

「いい友だちができたってこと???」

「うん。まぁそんなとこ……」

 

 琵琶カズミの初恋は小学5年生のときで、相手は女の子だった。転校生の女の子が気になって気になって、これが恋かと思ったときに、彼女は愕然とした。 


 あたしって、もしかして、そういうひと?


 告白なんてできなかったし、お母さんにも相談できなかった。中学生のときも、気になる人は女性だった。カズミは男の子に恋をした経験がない。

  

 そして高校1年生。いままた恋をしている自覚がある。一緒に釣りをする仲になった同級生のことを考えると、カズミの胸はキュンとするのだ。

 でもこの気持ちは絶対に明かせない……。

「いってきまーす!」

 元気いっぱいに学校に向かって出発するカズミ。彼女もまた悩み多き乙女なのである。

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