日常17 婚姻届受理。話し合いからの……

 まさかの婚姻届を書かされるという事態が発生した儂。


 十六歳にして、まさかの結婚するとか言う、頭のおかしい状況になってしまった。


 書いてしまったものはもう仕方がないとして、じゃ。


「一つ質問なんじゃが……よいか?」

「ええ、いいわよ」

「どうぞ」

「……これ、誰が嫁なんじゃ?」


 ここである。


 少し前に、儂を幸せにする、とか言われたのでなんとなーく察してはいるのじゃが、訊かずにはいられない。


「そんなの決まってるじゃない」

「はい、決まっています」

「「まひろ(ちゃん)よ(です)」」

「……いや、儂元男なんじゃが……」

「そんなの関係ないわよ。この中で嫁力が高いの、あんただし」

「嫁力ってなんじゃ!? 儂、そんなもん持っとらんぞ!?」


 女子力とは違うのか!?


「いやほら、あんたって家事万能だし」

「面倒見がいいですし」

「あと、可愛いし」

「ちっちゃいですし」

「それ関係あるか!?」


 こやつらの基準、どうなっとんのじゃ!?


 家事ができるからと言って嫁とは限らんぞ!? 世の中、男でも家事出来る奴がおるし!


「はぁ……なんか、こんなやり取りを死ぬまで続けると思うと、結構あれじゃなぁ……」


 儂、その内ツッコミによる過労で死ぬんじゃなかろうか。


 ……なんて、ないな。さすがに。


「そう言えば、今って何の時間なんじゃ? 少なくとも、入学式だったような気がするのじゃが……」

「入学式よ。と言っても、もう終盤でしょうけどね」

「それはまずくないか? ここで油を売っていたら怒られるような気がするのじゃが……」

「大丈夫です。先生方には伝えてありますから」


 ……なんじゃ。そこはかとなく、嫌~な予感がするんじゃが……。


「一応訊こう。……何を、伝えたのじゃ?」

「『逆プロポーズしてきます!』と伝えてあります」

「ドストレートすぎじゃろ!? と言うか、よく許可したな、教師!」


 プロポーズしに行くので、入学式を欠席します! とかいう理由で欠席する奴、儂初めて見たぞ!? とんでもなくプライベートな理由じゃし、そもそも高校生で使う欠席理由じゃない気がするのじゃが!?


「ちなみに、四方木先生を始め、多くの教師の方が応援してくださいました。それからほとんどの方が、『何それ面白! どんどんやれ!』と言っていました」

「教師ノリノリすぎるじゃろ!?」


 許可するどころか、ノリノリで応援するとか頭おかしいじゃろ!


 この学園、割と優秀な人材がいるにはいるが、性格の方面で癖があるものばかりじゃから、マジで酷い時は酷い。


 それが今じゃ!


 まさか教師の方がノリノリとか……絶対『格好のネタを見つけたぜ!』みたいな感じじゃろ、これ!


「あとはあれね、『婚姻届を書かせたら、すぐに提出してこい。なんだったら、今日は出席扱いにしておくから、そのまま直帰してもいいぞ!』だそうよ」

「ダメじゃ! まともな人間がおらぬぅっ!」


 どこの世界に、生徒の結婚を押してくる教師がおるのじゃ! いや、この学園にいるけど!


「というわけですので、早速行きましょうか」

「い、行くって……どこへ?」

「市役所です♪」

「……マジ?」

「「マジよ(です)」」

「…………はい」


 そんなこんなで、儂らは学園を抜け出して市役所へ向かうことになった。



 市役所に到着。


「……そう言えば、戸籍謄本とかあるのか? あと、印鑑とか……本人確認書類とか……」

「大丈夫です。わたしの家の力を使って、取り寄せましたから!」

「うわー、何とも言えんご都合展開……」


 さすが、金持ちは違うのう……。


「すみません」

『はい、何か御用でしょうか?』

「あの、婚姻届を提出したいのですけど……いいでしょうか?」

『かしこまりました。それでは、婚姻届と戸籍謄本、本人確認書類の提出をお願いします」


 ……うわー、マジで提出が始まってしもうた……。


「……あら、性別が『TS』……人数が三人で、婚姻届が二枚ということは……もしかして、多重婚でしょうか?」

「そうです」

「はい」

『十年間ここの窓口を担当していましたが、初めて見ました。本当にいるのですね。それも、女性同士で……』

「は、はははは……」


 受付の女性は、珍獣を見たかのような反応をしていた。


 物珍しいんじゃろうなぁ……儂ら。


『…………不備はないですね。それでは、受理させていただきます。これで、晴れて入籍したことになり、事実上の夫婦となりました。おめでとうございます!』


 とにっこりと笑って言うと、周囲からなんか拍手が起こった。


『すげぇ、ガチモンのTS百合じゃねえか!』

『いるんだなー、現実に』

『女性同士で結婚できるって、やっぱり羨ましいなぁ、あの病気……』

『美幼女と美少女二人の組み合わせとか……やっべ、すっげえいいもん見ちまった気分!』


 ……あ、はい。そうか。


 割と浮くのでは? と思っておったが……そもそも、日本じゃったわ。日本と言えば、割と差別が少ない国であるのと同時に、同性愛を題材とした娯楽が多いしなぁ……。受け入れられても不思議じゃないわな。


『ってか、あの幼女、歳いくつだよ?』

『結婚できるってことは、絶対十六歳は行ってるって』

『どう見ても、あの幼女だろうなぁ、『TSF症候群』を発症させたのって』

『くっ、百合ハーレムとか羨ましい!』


 ……呑気なもんじゃなぁ……他人は。


 桜花まひろ、十六歳。高校二年生にして、嫁が二人できた。



 さて、マジで入籍したところで、色々と話し合わなければいけないことがある。


 と言うのは……


「これ、住む場所はどうするのじゃ?」


 これである。


 儂らは結婚したわけじゃ。


 となると、色々と決めねばならぬことがある。


 ちなみに、場所は儂の家じゃ。近いし、誰もおらんからな。


「そうね……よくよく考えたら、その辺り何も考えてなかったわ」

「わたしもです」

「……普通、そっちが先のような気がするのじゃが……」


 なんでこう、この二人は先を見ないんじゃろうか。


「そもそも、おぬしらの両親にだって、挨拶をしたわけでもないと言うのに……」

「大丈夫よ。うちの親、『あぁ、一年の時からずっとぞっこんだったまひろ君と結婚するのね!? OK!』だそうだから」

「おぬしの恋心親にバレておるが!?」

「なんか、私ってわかりやすいらしいわよ? 笹西ですら気づいていたのに、あんたは気づかなかったんだけどね」

「なんっ……じゃとっ……?」


 わ、儂は、健吾に負けたというのか……!

 な、なんたる屈辱! 健吾に負けるとか、微妙に悔しいのじゃが!


「わたしのお父様も特には。ただ、『絶対に会わせに来なさい』とは言われています」

「……その辺りは知っておる。儂の両親から伝えられておるからな……」


 行かなかったら儂殺されるじゃろ、絶対。


 結婚を断っても、殺されておったと思うがな……。


「はぁ……まさか、二年生に進級した初日に、結婚するとはのう……。おぬしら、アグレッシブすぎないか?」

「いいじゃない。あんたが好きなんだし」

「はい。わたしも、まひろちゃんが好きだったので、結婚したのです」

「お、おぬしら、よくもまあそうほいほいと恥ずかしいセリフを言えるのう……。儂、照れてしまうぞ?」

「実際照れてるじゃない。顔、赤いわよ」

「むぅ……」


 どうにも調子狂うのう。


 儂はもっとこう……だらーっとしていて、マイペースに過ごしている人間だったはず……。


 なのに、なぜ今日はツッコミっぱなしなんじゃろうなぁ。


「それにしても、住む場所ね……。何かいい案はない?」

「むぅ、そう言われてものう……。如何せん突然すぎて、考える余裕などなかったからな。儂は何も思い浮かばん」


 と言うか、本来ならばこの二人が考えるものではなかろうか。


 儂、強制的に結婚させられたようなもんじゃし。


 ……いやまあ、好きではあるので、後悔はないが……。


「そうですね……。私の家から家を用意してもらうことは可能だと思います」

「おぬし、金の使い方が豪快じゃな。いくらすると思っておるんじゃ、家一軒」

「ですが、それくらいはしないといけないのではないでしょうか? いくらなんでも、どなたかのお家に住む、というのはどうかと思いますし……」

「だったらなぜ、このタイミングで結婚をしたんじゃ……。それならば、高校卒業後でもよかったろうに……」

「その場の勢いよ」

「その場の勢いで結婚するとか、普通はおかしいからな? 本来ならば、恋人になり、絆を深めてからするものじゃからな? 間違っても、告白したその日に入籍する、なんてことはせんからな?」


 苦い顔をしながら美穂の言葉にツッコミ入れる。


 なんと言うか、強すぎるわ、この二人。


「でも、あんただって了承したじゃない」

「……おぬしらが儂を脅して書かせた様なものじゃろうが……まあ、もう今更じゃし、別に構わんがな」


 あれ、儂が断れると思うか?


 無理に決まっておるじゃろう……。


「……とりあえず、儂の家はどうじゃ? 今の所、両親は共に仕事で家を空けておるし」

「「それはダメ(です)」」

「な、なぜじゃ? 儂は構わんぞ?」

「だってそれ、実家暮らしってことでしょ? 旦那? 嫁? の。さすがにそれは何と言うか……違うでしょ。新婚生活が実家って、どう思う?」

「……いや、儂は構わないんじゃが。引っ越すのめんどくさいし」

「……まさかあんた、単純に動くのがめんどくさいから、何て言う理由でこの家に住めば、なんて言い出したんじゃないでしょうね」

「……ち、違うぞ?」


 すいーっと視線を逸らす。


 口元は少し歪んでいる。


「……はぁ。まったく、そんなことだろうと思ったわよ」


 くそぅ、やはり見抜かれておったか……。


 まあ、一年も過ごしておれば、わかるか。


「しかし、そうなるとどうするのじゃ? さすがにこれは問題じゃろ」

「……仕方ありません。お父様に相談してみます」

「なんか、おぬしにばかり負担を強いているようで心苦しいのじゃが……」

「いえいえ。もとはと言えば、わたしと美穂さんで迫ったのが原因なのですから。まひろちゃんが気にすることはないですよ。それに、言ったじゃないですか。幸せにする、と」

「――っ! そ、そうか」


 くそぅ、面と面向かって微笑みながら言われると、こう……ドキッとするのう……。


 卑怯じゃろ。


「あんたでも照れるのね」

「……やっぱおぬし、儂を馬鹿にしておるじゃろ」

「してないわよ。……それで、瑞姫、どうするの?」

「はい。わたしの所持金でどこまでできるか尋ねてみるつもりです」

「「……所持金?」」


 なんじゃ、今すごく気になるワードが出て気負ったんじゃが……どういうことじゃろうか。


「では、少々お待ちください」


 そう言うと、瑞姫は少し離れた位置で通話を始めた。


「もしもし、お父様でしょうか? はい。婚姻届の方は受理してもらいました。……はい、はい。それで、なんですが、今どこに住むか、ということを相談し合っておりまして……わたしの所持金で――え、お父様がご用意してくれるのですか? で、ですが、それは申し訳ないと言いますか……い、いえ、その、さすがに……はぁ、そ、そう、ですか? わかりました。それでは、お願いします。はい、近々そちらに行きますので、その時は仲良くしていただけると嬉しいです。はい、失礼します」


 なんじゃろう、瑞姫の通話中のセリフから、なんとなーくどういったことを話したのかがわかってしまうんじゃが……。


 美穂も同じ事を思ったらしく、『んー?』みたいな表情を浮かべておった。


「お待たせしました。お父様に相談した結果、お父様が用意していただける、とのことでした」

「「なんで(じゃ)!?」」


 にっこりと笑みを浮かべながら告げた瑞姫に、儂と美穂は揃ってツッコミを入れていた。


 いや、これはツッコミを入れるじゃろ!?


「なんでも『なに? 自慢の愛娘が稼いだお金で家を買うだと? そんなことをせずとも、この私が用意しようではないか! 瑞姫が惚れたという相手がどのような者であれ、娘が支払う必要ない! 待っていなさい。私が素晴らしい新居を用意しようではないか!』だそうでして……」

「「えぇぇぇぇ……」」

「それから、そのセリフの後『おい、私の部下たち! 水無月学園からなるべく近い位置で、地盤や地質が良く、広い敷地を探せ! 金に糸目は付けん! いいか、これは羽衣梓グループ始まって以来の大仕事とも言えるものだ! なので、何としても最高の環境を見つけるのだ! 総動員でな!』とも言っておりました」

「……瑞姫の父親、相当な親バカじゃな」

「そうね。そこまでするとは思わなかったわー……」


 しかも、金に糸目は付けないと言っているところを聞くと、さすが羽衣梓グループの社長と言ったところか。……いや、会長だったか? まあいい。似たようなもんじゃな。儂知らんし、その辺のことは。


 あと、会社の人間をほとんど使うとか、馬鹿じゃろ、絶対。


「……しかし、あれじゃな。瑞姫に全て用意してもらう、と言うのは本当に申し訳ないような……」

「いえいえ、お気になさらず。わたしがしたくてしていることですから。それに……まひろちゃんと結婚できただけで、わたしは満足です。むしろ、それが一番のご褒美と言いますか……」


 顔を赤くさせ、微笑みながら、手の指を合わせては離すという仕草をする瑞姫。

 か、可愛いな、こやつ……。


「私も厄介になるのは申し訳ないわね」

「美穂さんも気にしないでください。将来のことが早まっただけですから」

「……いや、それで済ませていいような事柄じゃないような気がするのだけど、私」

「そんなことを言ったら、高校生で結婚しておるぞ? 儂ら。その方がもっとやばいじゃろ」

「……それもそうね。まあ、いっか。三人で仲良く暮らせるのなら、それで」

「うむうむ。……して、大体の家の方は瑞姫の父上に任せるとして、じゃ。家が決まる間はどうする?」


 羽衣梓グループが探すと言うのじゃ、そう時間はかからんじゃろうが、その間の住む場所は必要じゃろう。


「うーん……その間、普通に別々で暮らしてもいいと思うけど」

「ま、それもそうじゃな。結婚したその日にいきなり一緒に住む、というのも面倒じゃし。瑞姫、それでよいか?」

「そうですね。おそらく、新居の方は新築の一戸建てになる可能性が高いですけど、その場合でも一週間足らずで完成すると思いますので、それでいいと思います」

「……ちょっと待て。今、一週間で家が建つ、とか言っておらんかったか?」

「はい、言いましたが……」

「普通なら、おかしいからな? 本来ならば、平均8~15ヵ月くらいのはずじゃぞ?」


 それを一週間で建てるのは絶対おかしい!


 そう思ってのセリフだったのじゃが、瑞姫の方はいつも通りの微笑みを浮かべているだけで、すぐに説明してくれた。


「もちろん、知っていますよ。実は、お父様の会社で懇意にしている建築会社に、建築関係の能力を所持した発症者の方がいるのですよ」

「そんな能力まであるのか」


 もう、なんでもありなんじゃなかろうか、能力。


「あるんです。何でも、『加工』と『軽量化』、『強度向上』の三つを保持しているとかで」

「それ、どういう能力なの?」

「『加工』はその名の通り、資材を加工する能力ですね。例えば切り倒したばかりの丸太などを角材にする、と言った感じですね。『軽量化』は、触った生物以外の物の重さを一定時間軽くするといったものだそうですよ。そして、『強度向上』は資材の強度を上げたり、組み立てた際にくっつけた場所が崩れにくくするような物だそうです。なんでも、分子レベルで結合させて強化するそうです」

「なんじゃ、その建築するためだけにあるような能力は……」


 地味に便利すぎないか? それは。


 しかし、『軽量化』が一番便利そうじゃな。


 生物には不可能だとしても、物を運ぶことが楽になりそうじゃし、引っ越しとかに便利そうじゃな。


「その方は女性だったそうなのですけど、『TSF症候群』を発症させて男性となり、その能力を使って建築のお仕事に就いたみたいですね。ちなみに、元々の夢が建築士だったそうなので、とても喜んでいたそうです」

「ということは、元女の男ということか……。やっぱりいるのね、そう言う人って。性転換って聞くと、どうしても女から男、というより男から女、の方がイメージしやすいから」

「そうじゃな。今でこそ、女から男になる、というようなTS作品は増えてはおるが、この病が発生する前までは、男から女になる、というような物の方が多かったしの」


 病気のおかげでそう言う風になったわけじゃからな。


 しかし、建築士が夢で、病を発症させて得た能力が建築関連……そうなると、能力と言うのはその人物が心から望む能力だったりするのかのう?


 しかし儂、そんなこと考えたか?


 ……ま、よいか。


「というわけですので、新居の方は心配いりません。気長に待ちましょう」

「じゃな」

「ええ」

「それでは、新しいお家が完成するまでは、この家に住みましょうか」

「うむ……って、ちょい待て。え? なんで儂の家? と言うかさっき、別々で暮らすことを了承してはおらんかったか?」

「よくよく考えてみたのですけど、結婚したのに別々で暮らすと言うのはおかしな話だなと」

「……たしかにそうだけど、私、思うのよ」


 うっすらと笑みを浮かべながら、美穂が言う。


「何がじゃ?」

「……いや、その、何て言うか……一緒に暮らしていて、襲わない自信がないな、と」

「襲うって、何をじゃ?」

「まひろを」

「あー……なるほど。たしかに、それはあるかもしれません」

「おい待て。おぬしら、儂を襲うつもりじゃったのか?」

「いやだって……」

「まひろちゃん……」

「「すごく可愛いから、襲いたくなるし(なりますし)」」


 息ぴったりにそう口にする二人。いい笑顔もセットで。


 別に襲われてもいい、とは考えておったが、いきなり自分の嫁二人に襲われるとか地味に嫌…………では、ないな。よくよく考えてみたら、抵抗するのも面倒じゃし、そもそも抵抗する意味はないし、儂から誘う手間もないと考えれば……それはそれでありなのでは?


 ふむ……。


「まぁ、儂は別に気にせんよ。好きな相手じゃからな。それに、結婚しておるわけじゃし、男でもない。とんでも事態には陥らんじゃろうからな。二人の好きにすればよい」


 そう考えたら、女同士での結婚と言うのは、ある意味ベストなのかもしれぬな。


 子供ができることがないからな。


 なんて、そう言ったのが間違いだったのじゃろう。


「……本当に? 本当に何でもしていいの?」

「む? まあ、構わんが……」

「で、では、色々としてもいいということですか?」

「そう言っておるつもりじゃぞ、儂。嫁の願いを聞き入れるのも、旦那の甲斐性と言うものじゃ」


 まあ儂、今女じゃけどな。しかも、幼女。


 だとしても、旦那で問題なかろう。二人的には、どうやら儂が嫁側の認識らしいが。


 ふっ、さすが儂じゃ。


 と、心の中でドヤ顔をしていたら、


「ふゃぁんっ!」


 むにっといきなり胸を揉まれた。


 な、なんじゃ? い、今変な声が……。


 あと、揉まれた場所から甘い痺れが発生したような……。


「何今の声。すっごく可愛いわね」

「ええ、ええ! まひろちゃん、今のはすっごく可愛らしかったですよ!」

「そ、そうか……」


 なんじゃったんじゃろうか、今のは。


 女の体はまだよくわかってはおらんからな。その内知っておいた方がいいかもしれぬ。うむ。


 そう思い、一人でうんうんと頷いていると、


「ふぅ~~~……」

「んひゃぅ!?」


 いきなり美穂が耳に息を吹きかけて来た。


 ゾクゾク! っと背中に寒気に似た何かが走り、へなへなと床に座り込んでしまった。


「な、なぜ儂の弱点を……!」

「笹西から聞いた」

「あ、あのやろぉ~~~~~!」


 なんてことを教えておるのじゃ!?


 儂の弱点を教えるとか、正気か!?


「では、へたりこんだところで、連れて行きましょうか」


 にっこりと微笑みながら瑞姫がそう言うと、儂を抱っこ――お姫様抱っこで持ち上げた。


「……つ、連れて行く、とは?」

「まひろちゃんのお部屋です」

「さ、行くわよ。今夜は寝かさないぞ?」


 茶目っ気たっぷりなセリフを吐く美穂。


 普段とのギャップがあって可愛い……って、そうではなく!


「は、離すのじゃ! まだ心の準備ができておらん!」

「大丈夫です。女性歴が長いわたしたちが、しっかりとレクチャーしてあげますので」

「そう言う問題ではないわ!?」

「大丈夫よ。まあ、女の快感って男性よりもヤバい、なんて話があるけど、大丈夫でしょう。頭がパーになることはないわ。多分」

「最後の! 最後の一言が一番不安なんじゃが!?」


 多分じゃダメじゃろ!


 って、こやつら全然止まらぬ!


 儂がジタバタと暴れるものの、先ほど耳に息を吹きかけられた影響で、上手く力が入らない。


 くそぅ……健吾め、恨むぞ! こんちくしょー!


「それでは、服を脱ぎ脱ぎしましょうか!」

「なんで幼児に向ける言い回しなんじゃ!? って、おい! 本当に脱がすな!」


 そう叫ぶものの、二対一では分が悪く、あっという間にすっぽんぽん。


 うぅ、な、なぜじゃ、羞恥心がほぼないとまで言われたこの儂が、なぜか恥ずかしさを覚えておるぞ……!


 やはり、自分で見せるのと、無理やり見られるのとでは訳が違う、ということか……!


「あ、あの~……は、恥ずかしい、のじゃが……」

「なに今更恥ずかしがってるのよ。さぁ、楽しい時間の始まりよ」

「いや、儂としては全然楽しい時間に思え――んむぅ!?」


 最後まで言葉を言い終えることはなかった。

 理由は、瑞姫に口を塞がれたから。


 ……儂、今日だけで三回目なんじゃが、キス……。


「お、おい、瑞姫? 何をしておるのじゃ? その手はどこへ向かっておるのじゃ?」

「大事なところです♥」

「いやそれはわかっておる。わかっておるが……って、待て待て待て! いきなりそれは無理! 無理じゃからぁ! せ、せめて、少しだけ心の準備を……準備を――ひにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 この後、すごく百合百合した。

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