日常16 ヒロイン”s暴走。婚姻届を書かされる(割と強制)
前回のあらすじ。
儂(女)に友人二人(女)から桃色の紙(婚姻届)を渡された。
……いや、なんじゃこれ。
どういう状況なん?
なんで目が覚めたら、大半が記入済みの婚姻届を二枚渡されるのじゃ? え? え?
「……とりあえず、訊こう。いや、なんとなくわからんでもないが……。おぬしら、なぜ、婚姻届を持っているんじゃ? あと、なんでほぼ記入済み?」
「あ、はい。書きました」
「書きました。じゃなくてじゃな……なんで持っとるのじゃ!? おかしいじゃろ!? 普通、婚姻届を持ってくる時間とかないよな!? なのに、なんで二枚もあるのじゃ!? と言うか、なんで血縁者の部分が記入済みになっておるのじゃ!? おかしいじゃろ!?」
いくらめんどくさがり、睡眠魔王とも呼ばれた儂とて、こればかりはツッコまずにはいられんぞ!?
「……ん? なんかよく見たら……って! 儂の家のハンコ!? なぜ押されておるのじゃ!? 儂の両親は今、仕事でこの辺りにはいないはずじゃぞ!?」
桜花ってハンコが押されておるよ!?
なんでじゃ!?
「あ、そこの部分はお父様が用意してくださいました」
「しゃ、社長!?」
「なんでも、お知り合いだそうで」
「なんで!? なんで儂の両親、おぬしの社長と知り合いなのじゃ!?」
「聞いても教えてくれなかったので、わたしもなぜお知り合いなのかは……すみません」
「そこは別によい……いや、よくない! おいこれ、親公認ということか!?」
「「その通り(です)!」」
「なんでじゃ―――――――――――――――っっ!」
あ、あの馬鹿親ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!
ど、どうなっておるんじゃ、これは!?
こ、こうなったら……!
「…………あ、もしもし!? 父上!?」
電凸じゃぁ!
『おー、どうしたまひろ。お前から電話かけて来るなんてめずら――』
「何を考えておるんじゃ、おぬしら!? なんで婚姻届にうちのハンコが押されておるんじゃ!?」
『あれか! いやー、実は三十分前に来たんだよ』
「来たって、何が」
『羽衣梓さんのとこの人』
「……なんで!?」
『んー、ま、知り合いだからだな! はっはっは!』
「笑い事じゃないわ!」
『フハハハハハ! いやー、さっき婚姻届二枚持ってきた時はマジでびっくりしたね! まさか、お前が結婚を申し込まれるほどお前のことが好きな人がいたとは……それも、二人も。聞けば、美穂ちゃんと羽衣梓さんの娘だと聞く。いやー、昔からモテるモテるとは思っていたが、まさかここまでとはな! 父さんびっくり! フハハハハハ!』
「ちょい待て。え? 何? まさかとは思うんじゃが……ノータイムでハンコを押したのか!?」
『Yes!』
「Yesじゃないわ、馬鹿父上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」
な、なんてことじゃ……!
いつもバカだバカだと思っておったが、まさかここまでのバカじゃったとは……。
娘の将来、ノータイムで許容するとか、さすがにバカすぎる! 今世紀最大どころか、マジでビッグバン起こって以来のバカじゃろ!?
いや、さすがにそれは言いすぎじゃな!
あぁ、駄目じゃ! 混乱しておる!
『ちなみに、母さんもノリノリだった』
「ちくしょーめっ!」
味方がいない!
儂に味方がいない!
外堀が一瞬で埋められておるんじゃが! なにこれ、え、儂結婚しないといけない流れなの!?
『あと、式場は抑えたと』
「了承前にどこまで進んでおるんじゃ!? というか、一時間の間にとんとん拍子に進み過ぎじゃろ!? 儂、完全に断れない流れじゃよね!? 断ったら、何があるかわからないんじゃが!?」
『さぁ? まあ、羽衣梓さんとこの娘がここまでやるくらいだからなー。断ったら、お前の人生がとんでもないことになる、とだけ言っておこう』
「もうすでにとんでもないことになっておるよ!? C4爆弾かと思ったら、核爆弾くらいの状況じゃよ!?」
『よくわからん例えだな。面白くない』
「儂は別にボケているわけでもなければ、面白さを求めているわけでもないわ―――――――!」
あぁぁぁぁぁ! 儂、どうなっておるの!?
新学期早々、なんで儂、求婚されておるの!? しかも、親公認で!
もっとこう……あるじゃろ!? 恋人になってからー、とか!
なんでその段階飛び越えて、結婚なんじゃ!?
どこのラブコメじゃ! あれか、これはあれなのか!? 『結婚から始まる恋もあるよね!』みたいな、昨今割とよく見る話なのか!?
現実でそれを持ち込まれても困るどころか、処理追いつかなくなって失踪するぞ!? 主に儂が!
『ま、いいじゃないか。ハーレムだぞ、ハーレム』
「そのセリフは既に朝聞いた! 神の奴も同じこと言った!」
『あ、そうなん? つまらんなぁ』
「つまらん言うなぁ!」
『……え? 変われ? 了解了解。じゃ、まひろ。母さんと変わるな』
「は、ちょ、話はまだ――」
『もしもしー、まひろ? お母さんよー』
くそぅ、本当に変わりおった!
……し、仕方ない。
「母上よ! これはどういうことじゃ!?」
『どういうことも何も……結婚でしょ?』
「そう言うことではなく、なぜ儂が結婚させられそうになっておる!?」
『美穂ちゃんや瑞姫ちゃんがあなたと結婚したいって言うから』
「なぜ普通に許可しておるんじゃ!? 儂、まだ十六!」
『そんなことを言ったら、二人も十六よ?』
「いやそうじゃけども!」
『というかあなた、女になったことで十六歳での結婚が可能なんだし、何も問題はないでしょう?』
「いや問題あるぞ!? 儂、まだ学生じゃよ!?」
『そんなこと言ったって、別に在学に結婚するなんてよくある話じゃない』
「それは大学! 大学の話!」
高校在学中に結婚した人もおるかもしれんが、だとしてもそうそういないと思うんじゃが!? いても、大学生ぐらいじゃろ!
そこそこ見かけるもん!
『まあいいじゃない。お嫁さんが二人もできるのよ? 何か問題でもあるの? 二人とも美少女だし』
「そう言う問題か!? というか、今の儂も結婚したら嫁じゃよ!?」
『ああそっか』
「よ、ようやくきづい――」
『となると、お嫁さん三人の結婚式になっちゃうのね。……ありね!』
「どうしてそうなるのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」
なんなんじゃ、儂の親二人!
どこをどうしたらそう言う発想に行きつくのじゃ!?
儂、何か悪いことした!?
『別に、二人に対して恋愛感情が一欠けらもないって言うなら仕方ないけど。そこんとこどうなのよ』
「うぐっ、そ、それは……」
『ほらみなさい。別に結婚ぐらいいいじゃない』
「いや、そうほいほいと決めていいような物じゃないじゃろ。一生一緒にいることを決めるような物じゃぞ? 仮に離婚したら、バツが付くし……」
『あの二人、なんか一生あなたと添い遂げるとか言ってるけど?』
「マジで!?」
覚悟ガンギマリすぎるじゃろ!?
美穂はともかくとして、瑞姫の方が一番ヤバいぞ!?
出会って一週間ちょっとでそこまで想えるとか、色んな意味で強すぎる!
『ま、あなたも勘弁して、書いちゃいなさいよ。大丈夫、二人とも完全にあなたを養う気満々だから』
「それ儂ヒモじゃん!?」
『あとは、羽衣梓さんが最大限のバックアップをしてくれるらしいわよ?』
「これ以上ないくらい安心できるバックアップ!」
『あ、そうそう。瑞姫ちゃんのお父さんから伝言』
「……なんじゃ?」
『『今度、私の所に来なさい。お話をしようじゃないか(にこ)』だそうよ』
「儂……死んだ……!」
『あと、『ここで娘の求婚と、娘意外に君を好きになった娘の求婚を断ったら……わかってるね?(満点スマイル)』だそうよ』
「……あれ、儂、断れなくね?」
羽衣梓グループの社長にそこまで言われたら、儂、断れなくね?
断ったら、死ぬような気がするぞ? 儂。
東京湾に沈められる? 沈される?
『よかったわね。新学期早々、お嫁さんができて』
「あれ!? 儂、もう結婚する流れなの!?」
『そりゃそうでしょ。二人が勇気を出して、婚姻届を書いたのよ? ここで書かないとか、男じゃないわよ』
「いや儂、女なんじゃが……」
と言うかなんじゃ、勇気出して婚姻届書いたって。
これがもし、恋人に対するあれだったのならば、素晴らしいものだろう。
しかし……現実はそうではない。
儂に対して婚姻届を手渡してきたのは、恋人関係ですらない、もっと言えば告白した日じゃぞ?
「別にいいじゃない。あなたを養ってくれるのよ? すきなだけぐーたらできるし、なんだったら生活の心配をしなくてもいいレベルよ?」
「……」
言われてみれば、そうか。
すきなだけぐーたらできるのか……。
……って!
「そ、その手には乗らんぞ!? 儂を頷かせるような言葉で誘惑したって、そうはいかんからな!」
『チッ……』
「舌打ち!? 今、舌打ちしたじゃろ!?」
もう嫌じゃ! この両親!
というか、もうツッコミが多すぎて追いつかないんじゃが! 儂、ツッコミキャラじゃないぞ!? どっちかと言えば、ボケなんじゃが!
『ま、いいじゃないの。それじゃ、お母さんそろそろ仕事に戻らないといけないから、後は頑張ってね。それじゃ! 頑張ってね!』
「は、母上!? 母上―――――――――!?」
ツー……ツー……。
「き、切りおった……」
爆弾を落とすだけ落として去って行ったんじゃが!
電話をかけたのは儂じゃけど、明らかに問題じゃろ!
なに? 儂、婚姻届書かないといけないの? 二人分?
「あ、あの、じゃな……」
頬を引き攣らせながら、儂は二人の方を見ながら声をかける。
「とりあえず、早く書いて?」
「え、ま、マジ――」
「書いてください」
「いや、あの、せめて少し時間を――」
「「書いてください(にこっ)」」
「……………はい」
「「やった!」」
パンッ! と二人がとても嬉しそうにハイタッチをした。
……ふふ、ふふふふふ……妻帯者……儂、この年で妻帯者……。
「……のう、そんなに儂のこと、好きなのか? それから、さすがに性急すぎると思うんじゃが……」
「私は大好きね」
「わたしもです」
「……じゃ、じゃが」
「いい? まひろ。あんたは元男の女なわけだけど……こうして、女の子が勇気を出して告白したんだから、ビシッとしなさい、ビシッと」
「儂、告白からそう時間が経過していない状況で、婚姻届を書かされておるんじゃが……」
「まひろちゃん。わたしたちはあなたのことが好きなのです。それに、まひろさんはめんどくさがりだと思いますが、もし嫌であればハッキリというはずです」
「あれ、儂のセリフ無視?」
もしかしてこれ、儂の意見とか反映されないのか?
……も、もしや、これはあれかの、尻に敷かれる、みたいな。
「なので、返事を下さい」
「……すでに、婚姻届を書かされている状況なのにか?」
「私は……まあ、すでにあんたの気持ちは知ってるけど……」
ぷいっとそっぽを向き、頬を赤く染めながらそう言う美穂。
……あ、そういや儂、告白紛いの事をしていたのう……。
…………え、じゃあなにか? 儂、こやつと両思いだったのか!?
な、なんてこったい。
「あ、それはずるいのです! まひろちゃん! わたしにも! わたしにもお気持ちを教えてください!」
「……い、言わないとダメ、かの?」
「ダメです! 言わないと言うのなら……一生抱きしめたまま過ごします!」
「それは勘弁!?」
儂の自由がなくなる!
楽できるかもしれないが、それと同時に儂の人としての尊厳とか失いそうじゃから!
「……残念です」
「なんで残念がるのじゃ!?」
こやつがよくわからん!?
「……まあ、その……あれじゃ。なんか、妙に儂に優しいし、世話してくれるし、あとその……可愛いし……一緒にいるとこう、落ち着くと言うか……まあ、あれじゃ……! その、す、好き、じゃよ……会って間もないが……」
「~~~~~っ!」
儂が告白(?)をしたら、瑞姫が口元を手で覆うと、そのままぽろぽろと涙をこぼし始めた。
……おかしいのう……。儂、こやつとは会って間もないのに、なんで結婚することになっておるんじゃろうなぁ……。
それに儂、惚れっぽいの?
そんなバカな……。
「ねぇ、まひろ。わ、私は?」
「え、美穂にも言うのか? あの時言ったはずじゃろ……?」
「そ、それはそれよ! 何度言われたって嬉しいの!」
「……わかったのじゃ。じゃあ、言うぞ……?」
「ばっちこいよ!」
「……美穂は、たまに儂に理不尽に怒ってきたり、たまに叩いてきたりするが……なんというか、こう、男友達みたいな感じで気楽に接することができて……それで、その、抱っこしてもらった時とか、手を繋いだ時はその……リラックスできたというか……実家のような安心感? というものがあってじゃな……その、好き、じゃよ……」
うぅぅぅぅぅぅ~~~~~っ……!
は、恥ずかしい! 恥ずかしすぎるのじゃ~~~~……!
なんで儂、二人に告白しておるのじゃ……?
くそぅ、顔が熱い……今にも火を噴きそうじゃ……。喉もカラカラじゃし……。
こ、告白とは、こうも勇気がいるものじゃったのか……!
「「まひろ(ちゃん)!」」
「うわわっ!」
二人に飛びつかれ、儂は思わずベッドに押し倒されてしもうた。
というかこやつら、今儂を持ち上げてベッドに押し倒したよな!?
どんだけじゃ!
「婚姻届も書きましたので、これでわたしたちは恋人を超えて、夫婦ですね!」
「その……これからよろしく、ね?」
「あんたのことは――」
「まひろちゃんのことは――」
「「絶対幸せにするから(しますからね)!」
「……あれ? それ儂のセリフじゃね!?」
もしかして、儂が嫁側なの!? 夫側、こっちの二人なのか―――――――――!?
この後、マジで婚姻届を出しに行く羽目になった。
……十六歳で、結婚……しかも……二人……百合結婚…………はは。
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