日常9 悪魔みたいな女子二人
「う、羽衣梓さん? どうしてここに? と言うか……あなた、一人で出歩いてていいの?」
「ふふっ、問題はありませんよ。監視カメラを通して、しっかり護衛されていますから」
「金持ちはやっぱり違うわー……」
と、美穂と目の前の女がそんなやり取りを交わす。
羽衣梓、と呼ばれた目の前の女は、儂らが通っている学園――水無月学園に在籍する生徒で、同時に学園で最も有名な生徒、という肩書を持つ女じゃ。
名前は羽衣梓瑞姫。
艶艶の腰元ほどまで伸ばした黒髪に、夜空みたいな印象を受ける黒い瞳。
顔立ちは綺麗系であり、微笑むだけで男を魅了する、などと言われておる。
あとはまあ、スタイルがいい、ということかの。
噂によると、Fらしい。
身長は160センチで、体重は不明。
ボンキュッボンみたいなスタイルらしいな。儂は知らんが。興味なかったしの。
ちなみに、羽衣梓グループというグループ会社の社長令嬢でもある。
なぜ、うちの学園にいるのかが不明なくらい、肩書がとんでもない奴じゃな。
年齢は儂と同じく一年。四月から二年生じゃな。
今年はクラスが違かったので、接点はなかったんじゃが……
「美穂、おぬし、こやつと知り合いか?」
「……あんたって、相手がとんでもない人物なのに、よく平気でそんな言葉遣いできるわよね」
「いやなに。面倒なだけじゃ。そもそも、同い年に敬語を使ったりだとか、相手が金持ちだからと言ってこびへつらうのは変じゃろ? 人間的にどうかと思うぞ、儂は」
「……珍しく正論ね」
「珍しくとはなんじゃ。儂だって言う時は言うぞ」
たまに失礼じゃな、美穂。
まあ、こう言う関係だからこそ、付き合いやすいわけではあるのじゃがな。
「で、どういう関係なんじゃ?」
「んー、まあ、委員会よ。ほら、私ってクラス委員でしょ? 羽衣梓さんもそうなのよ」
「ふむ、なるほどな。それならばたしかに、知り合いでも不思議ではないじゃろうな」
そもそも、どうやったら接点ができるのかわからん奴じゃ。同じクラスであるか、部活や委員会が同じでない限り、接点を持つことはないじゃろう。
「……お、音田さん。こ、こちらの可愛らしい女の子は……」
む? 少し震えておるな。風邪か? どことなく、顔が赤いように見えるが……。
「あぁ、ごめんなさい。こいつは私の友達で、桜花まひろよ。別段有名ではないけど」
「そりゃ、儂は普通の生徒じゃからな」
「普通、ねぇ……?」
なんじゃ、その何か言いたげな顔は。
儂、普通じゃろ?
「お、桜花まひろちゃん、ですか……? そのお名前は……もしかして、一年四組五番で、身長は169センチ、体重は48キロの桜花まひろさん、でしょうか?」
「うむ、そうじゃ……って、ちょっと待て。なぜ、儂のプロフィールをそんなに知っておる。儂とおぬしの接点は無いはずじゃろ?」
今、サラッと儂のプロフィールを言いおったんじゃが、こやつ。
「あ、す、すみません。わたしが一方的に知っているだけです」
「なんじゃ、そう言うことか。なら構わん」
「いや、構いなさいよ。普通、今のは構うところでしょうが」
「別に儂のプロフィールくらい、どうということもない。基本情報だけじゃからな」
調べれば知ることのできる情報ばかりじゃしな。
問題など、全くない。
「……ですが、変ですね。桜花さんと言えば、黒髪黒目で、女性のような顔立ちで、髪の毛が腰元まで長くて、いつも寝ているような男性の方だと聞き及んでいたのですが……」
「……羽衣梓さん。なんで、こいつのことそんなに詳しいのよ?」
それは儂も思った。
なぜ、日常的な部分も知っているのだ?
「桜花さんはよく見かけますから。ほら、学年どころか、学園でただ一人じゃないですか、男性の方なのに髪の毛を腰元まで伸ばしているのは」
「あー、そう言えばそうね。こいつ、小学六年生の時から切ってないって言うし。こいつだけだわ」
なるほど、たしかに目立つかもな。
しかしそうか……あの紙にはそう言うデメリットもあったのか。
これは失敗した。
「なるほど、それであそこまで長く……」
「でも、それだけで知る理由にはならない気がするんだけど……」
「え、えーっと、その辺りはまあ、色々と……」
美穂のセリフを聞いて、羽衣梓がしどろもどろになりながらもそう答える。
どうしたんじゃろうか?
「そ、それにしても、その……もしかして、『TSF症候群』ですか?」
「うむ、その通りじゃ。昨日こうなってしまってのう。今日は、洋服やら生理用品を買いに来たのじゃよ」
「あんた、普通はそれ言わないからね? 堂々と。せめてもう少し女らしくしなさいよ」
「儂、昨日女になったばかりじゃぞ? それなのに、女のように振る舞うとか無理に決まっておろう。というか、めんどくさい」
というか、心が男なのに女らしく振舞う必要とかない気がするのじゃが、儂。
まぁ、世の中には性転換した日には言葉遣いだとかを変えている奴もいるらしいがな。
「…………のじゃろり、いいです」
「む? 羽衣梓よ、何か言ったか?」
「あ、いえ! 何でもありません!」
「そうか」
今一瞬、何かをボソッと言ったような気がしたんじゃが……気のせいか。
「あの、もしお二人がよかったらなのですが、わたしもご一緒してもいいでしょうか?」
「羽衣梓さんも? もちろんいいわよ。正直、私一人でこいつといるのは――あ」
「どうかしたのか?」
「い、いいいいえ、な、なんでもない、わ」
「そうか? もし何かあれば、遠慮なく言うんじゃぞ」
「う、うん」
しかし、今日は様子がおかしいのう、美穂は。
どうかしたのじゃろうか。
(そ、そうだったー! わ、私、さっきまで告白しようとしてたじゃない! あぁぁ~~~~~っ……私の馬鹿! 告白すればよかったのにぃ! そのために、女同士の恋愛をするようにって説得したのに! しかも、私がいざ告白しようという時に、羽衣梓さんが来るし……羽衣梓さんが悪くないのはわかっているけど、それでも……これはあんまりよぉ!)
……なんじゃろう。なんとなくじゃが、美穂が泣いておるような気がした。
何か嫌なことでもあったのじゃろうか?
……よくわからんのう。
「それで、大丈夫でしょうか……?」
「儂は構わん。一人増えれば、儂が服を選ぶ必要性が減るじゃろうからな」
などと、何気なく言ったら、
「で、では、わたしがお洋服を選んでもいいのでしょうか!?」
ずいっ! と顔を近づけて、そんなことを尋ねて来た。
な、なんじゃ? 急にテンションが高くなった気がするぞ……?
「服を選ぶのが好きなのか?」
「はい! 小さなお――じゃなくて、えと……そ、そう! お友達、お友達のお洋服を選ぶのが好きなのです!」
「ほう、そうなのか。ならば、お願いしてもよいか? 服選びが面倒でなぁ。そもそも、服を買いに行くと言い出したのは儂じゃないんじゃが……」
「あ、あら? あの、お友達の部分はスルーなんですか?」
「む? あぁ、拾った方がよかったかの? というか、ここで会ったのも何かの縁じゃろうし、それにこうして話せば友達じゃろ? 同い年じゃからな」
「お、桜花さん……!」
ジーンとしたらしく、何やらとても嬉しそうな様子。
む? 儂、そう感じるようなこと言ったか?
「あぁ、儂のことはまひろで構わん。その代わり、儂もおぬしのことを瑞姫と呼んでもよいか? 名前呼びの方が友達っぽいしの」
「も、もちろんです! どうぞ、お好きなように!」
「うむ。ありがとうな。では、瑞姫、これからよろしくじゃ」
手を差し出し、握手を求めるとほとんどタイムラグがなく握り返してきた。
おぉ、早い。
「……あぁ、幸せ……」
蕩けたような表情でそう呟く瑞姫。
「名前を呼んだくらいでか?」
「あ、い、いえ! ま、まひろちゃんだからと言いますか……えと、よ、よろしくお願いしますっ、まひろちゃん!」
「うむ。こちらこそ。……よし、美穂、では行こ――って、どうしたんじゃ?」
「い、いえ、気にしないで」
「そうか。ならば、行くとしよう」
「はい!」
「えぇ……」
まさか、一人増えるとは思わなかったが、これで少しは楽ができそうじゃな。
となれば、儂は二人のコーディネートを期待するとしようかの。
などと思ったのが間違いだったのやも知れぬ……。
気が付けば儂は、
「まひろ、次こっちを着てみて!」
「では、その次はこちらを!」
着せ替え人形のようにさせられておった。
事の発端は……まあ、店に来たこと、じゃな。
一時間ほど前。
「それで、どの辺りの店がいいのじゃ? 生憎と、儂には女性向けの衣服についてはよくわからん。二人は何か知らぬか?」
「んー、そうねぇ……やっぱり一階のフロアの方がいいかもしれないわね」
「そうですね。美穂さんの言う通り、一階には可愛いお洋服から大人っぽいお洋服もありますからね」
儂が友達になったということを皮切りに、瑞姫は美穂とも友達になった。
美穂自身は最初はちと困惑しておったが、瑞姫に押される形で了承した。
まあ、女だからなのか、それとも二人の波長が合ったのかは知らぬが、すぐさま打ち解けたようじゃがな。いいことじゃ。
そんな二人にどこの洋服店がいいのか尋ねると、一階のフロア、という抽象的な答えが返って来た。
そう言うということは、一階はバランスがいいということになるんじゃろうな。
ふむ……。
「では、下に行くとするかの」
「ええ、行きましょう」
「はい」
というわけで一階へ。
ショッピングモールに対する儂の印象と言えば、一階には料理屋と洋服店が多い印象を受ける。二階に行くと眼鏡屋だとか、雑貨品などが目立つ。
三階に行くと、映画館やゲームセンター、フードコートなど、どちらかと言えば娯楽系があるように思う。
まあ、ゲームセンターに関しては、二階にある場合もあるんじゃがな。
儂としてはこんなイメージ。
だがま、二階にも洋服店はそこそこあるがな。
というか、ショッピングモールの半数以上は洋服店なんじゃ? と思えて来るくらいには多い。
さて、この二人はどのような服を選ぶのかのう。
「とりあえず、下着が先、よね」
とか思ったらいきなり下着とか言い出しおった。
「マジでか?」
「マジよ。だってあんた、成長時の物持ってないんでしょ?」
「ないな」
「あの、成長時、とは何でしょうか?」
「あぁ、こいつの能力の一つに『成長退行』って言うのがあるらしくてね。要は、自分の体を成長させたり、退行させたりできるみたいなのよ」
「そんな能力が……そうなると、下着は必要ですね。間違いなく」
「でしょ?」
「では、早速行きましょう。どのみち、今の可愛らしい姿のための物も必要になりそうですから」
「……はぁ、仕方ないのう。まあ、儂もノーブラじゃと胸が擦れて痛かったし、な」
特に乳首の辺り。
男の時はなかったんじゃがなぁ……やはり、女だけなのかの?
「……あんた、マジですごいわね。堂々と言うって」
「ま、周囲を気にするのも面倒じゃからな」
「あの、それはどうかと思いますけど……」
「そう言われてものう……」
儂、そんなに変か?
……まあよいか。
ともあれ、下着じゃな。
初めてランジェリーショップの入ったが、まあ……あれじゃな。特に何も感じなかった。
たかだが下に着ける衣類じゃからな。布、としか思っておらん。
「こ、これがまひろの成長した姿……」
「これは、すごいですね……スタイルがいいと言いますか……」
「そうか? 正直、この胸は重くて敵わん。肩が凝りそうじゃ」
「くっ、なんでこいつこんなにでかいのよっ……!」
と、美穂が悔しそうに言っていた。
……あぁ、そう言えば美穂は小さいという話じゃったな。
別段ぺったんこというわけではないんじゃがな。大きく見積もってC、と言ったところかの?
普通ではないか?
……などと言おうものなら、殴られそうじゃな、儂。
「まひろ、今失礼なこと考えてなかったかしら?」
ほら、にっこりとした笑みを浮かべながらそんなことを言ってきたぞ。
こやつ、エスパーなんじゃなかろうか?
「思っておらんよ。それで、この下着はどうじゃ?」
「んー……まひろ、髪が銀髪なのよね……」
「銀髪? ……おっと、戻すの忘れておった。どれ、戻すかの」
そう言いながら、儂は髪の色を銀髪から地毛の桜色に戻した。
「さ、桜色に……まひろちゃん、もしかしてこれは……」
「うむ。儂の能力の一つじゃよ。髪や瞳の色、他に肌などの色を一日各箇所一度だけ変更することができるものじゃ。まぁ、地味じゃがな」
しかも、一度変えたら二十四時間経つまで戻らんしな。
ある意味デメリットが一番厄介じゃよ、これは。
「……となると、この髪色で合うものの方がいい、と。うーん……やっぱり、白とか黒かしら? なんか、成長時のまひろって妙にエロいし……」
「エロいか? 儂」
「エロいわ」
「色気がありますね」
「ふむ、そうか」
なるほど、じゃから優弥たちは昨日、あんなに顔を赤くさせていたというのか。納得じゃな。
つまり、成長時の儂の姿がエロかったから、ああなったと。
ふむ。男じゃな。
「正直もうめんどいので、白と黒でよい」
「く、黒って……」
「好きな色なんじゃよ、黒」
「そ、そう。あんたがいいならいいけど。……じゃあ、その姿はそれでいいわね。となるとあとは、元の姿か」
「そうじゃな。じゃ、儂は一度元の姿に戻るぞ」
「ええ、お願い」
体のサイズを戻す。
うむ。やはり、こっちの方がしっくりくる気がするのう。
変化後がこれだったからじゃろうか?
「そちらの方がいいですね……」
「む、そうか? 儂としても、あっちよりこっちの方が好きじゃな。何せ、胸がないのがいい。いやまあ、なくはないが、あっちより遥かに小さいからのう。それに、何かと小回りも効くしな」
「あんた、本当に合理的よね」
「合理的というより、あの姿は疲れるだけじゃ。ほれ、早く下着を持ってきてくれまいか?」
「何様のつもりよ……まあいいけど。あんたに選ばせたら、碌なもんを持ってこないでしょうし」
「まあの」
「まったく……。瑞姫、行くわよ」
「はい。それでは、少し待っていてくださいね」
「うむ。待っておる」
とまあ、この後と言えば普通に下着を持ってきて即断即決して終わりとなった。
これで、問題なかろう。
そして、問題の服選び。
これがいけなかった。
「まずはこちらをどうぞ!」
「うむ。Tシャツにスカートか?」
「はい! フレアスカートです! ミニですけど」
「どれ」
瑞姫に渡された服を試しに来てみる。
何やらセットでニーハイソックスもついてきたが……ふむ、なるほど。
「どうじゃ?」
「うっわ可愛い」
「とってもお似合いですよ! 素晴らしいです!」
べた褒めじゃった。
「そうか? ならば、これは購入しておくとしよう」
あっても困るものではないしな。
「じゃあ、次こっちを着てみて」
「これはなんじゃ?」
「ワンピースよ」
「某海賊漫画の?」
「それは違う。やっすいボケしてんじゃないわよ」
「ははは、すまぬな。どれ、ちょっと着てみるとしよう」
美穂に渡されたのは、ライトグリーンと言えばいいのかの? そんな色を基調としたワンピースで、スカート部分は膝丈くらいと言ったところか。
ふむ、ワンピースは楽じゃな。
これは普段着に使えそうじゃ。
「うむ、これも購入しよう」
「では、次はこちらを!」
「あいわかった」
なんか、この二人楽しそうじゃな。
まあ、二人が持ってくる服を試着するだけで済むわけじゃから、こちらとしても楽と言うものよな。
ふっ、瑞姫と出会ったのはラッキーじゃったな。
と、最初はそう思っておった……しかし現実は、
「次はこっちね!」
「次はこちらを!」
こう言うわけじゃ。
なんと言うか、本当に着せ替え人形状態。
儂、人間なんじゃけど……。
かれこれ一時間はこの状況。
そのせいかはわからぬが、他の客にも見られている始末。しかも、店員すらも、
「お客様、よろしければこちらもどうでしょうか?」
とか言いながら混ざってくる始末。
ふざけおって……。
「……おい、儂で遊んでいるんじゃなかろうな?」
「「これっぽっちも!」」
「…………本当か? それにしては、一時間はずっと着せ替え人形状態なんじゃが?」
「だって、まひろが可愛すぎるんだもの」
「そうです! まひろちゃんは何でも似合うので、ついつい持ってきてしまうだけです! 断じて、わたしたちが楽しんでいる、というわけではありません!」
「……そうか。ならいいんじゃが……」
しかし、ここまで力説するほど、儂って可愛いのか?
まあ、たしかに儂のこの容姿は可愛いとは思うが……。
「なので、こっちをどうぞ!」
「これは?」
「ゴシックロリータと呼ばれるものです!」
「あぁ、ゴスロリか」
儂も、ゴスロリ衣装のロリキャラは結構好きな方じゃったな。
白と黒、か。
……桜髮には微妙な気もしないでもないが、儂の場合は最悪髪色を変えることもできるしな。そう言う意味では、大した問題にはならない、か。
よし。
「ならば、着てみるとしようかの」
「……よし」
「む? 瑞姫、今ガッツポーズをしなかったか?」
「気のせいですよ」
「そうか」
じゃが、今一瞬だけ小さくガッツポーズをしていたような気がしたが……まあ、本人が気のせいと言っているのだから、気のせいなんじゃろうな。
うむ、それでいいのじゃ。
「……っと、これでよいか?」
「「おぉぉぉぉぉ~~~~! か、可愛い!」」
「それならばよかった」
しかし……少し動きにくくはないか? じゃが、これはこれでいいのう。
今の儂なら、そこまで来ていても違和感はなさそうじゃな。
まあ、外見的な意味では、髪色を変える必要がありそうじゃが。
そうじゃなぁ……黒と白のゴスロリならば、黒髪や銀髪、白髪、赤髪、あとは紫辺りと言ったところか。
値段は……ふむ。一万、か。これで一万は安い方な気がするのう。
「ま、これも買いじゃな」
「買うのね」
「うむ。割と気に入っておる。……さて、そろそろいいじゃろ。儂が買うと言ったものは買って、健吾たちと合流せねばな」
と、儂が言った時だった。
「何言ってるのよ」
「は?」
「えぇ、えぇ。美穂さんの言う通りです。まだまだこれからではないですか」
「お、おぬしら、何を言っておるんじゃ……? だって今、服を選び終えたばかりじゃぞ……?」
ゆら~っと二人が黒い笑みを浮かべながら、儂に迫ってくる。
な、なんじゃ!? すごく怖いぞ!?
「だって、あなたが選んだのは……今の姿の服じゃない」
「……ま、まさか!」
「そうですよ~。女の子たるもの、成長した姿のお洋服も買っておかないといけませんからね~」
「い、嫌じゃ! もう一時間以上は着せ替え人形状態だったんじゃぞ!? いい加減、立つのも疲れてきたのじゃ!」
「何を言うのよ。そんなこと関係ないわ」
「酷くないか!?」
「これもまひろちゃんのためなんですからね~? あの姿で似合うお洋服、選んできますので、ぜひぜひ着てみてください♪」
「く、来るでない……い、嫌じゃ! や、やめ――きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
その日、儂は初めて、女らしい悲鳴を上げた……。
もう、服選びはこりごりじゃ……。
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