日常6 帰宅。ずれずれなまひろの問題行動
検査やら座学やらを終え、自宅に帰ってくる頃には、七時近かった。
あやつら、まだいたりするのかのう?
と思いながら、家に入ったら普通に靴があるところを見ると、普通にいるようじゃな。
律儀なものじゃ。
「ただいまじゃー」
「おう、お帰り、やっぱ遅かったな……って、お前、なんか髪色変じゃね? なんで銀髪になってんの?」
「儂の能力の一つじゃ」
「マジか。地味だな」
「じゃろ?」
「おや、お帰りなさい。夕飯は準備しておきましたよ」
「おー、さすが優弥じゃ。助かるぞ」
「ところで、なぜ銀髪なのですか?」
「儂の能力じゃ」
「そうなんですね」
「うむ」
家に帰ったら、優弥が夕飯を作ってくれておった。
そう言えば、地味に昼食は食べておらんかったのう……。
素で忘れておった。
多分、『TSF症候群』を発症したのと、検査やら座学やらでそっちにいっぱいいっぱいで忘れておっただけじゃな。
あとはまあ、儂の燃費がいいということじゃろう。
そこまで食べんしな。
それに、この体になってからと言うもの、微妙に空腹を感じにくくなっている気がするしの。
それはきっと、女になったからじゃろう。
とは言え、まだ一日目じゃから、完全にそうとは断言できんがな。
それに、あの能力を少し使用したことで、空腹感もあったしの。というか、今襲ってきたわ。全部。
ともあれ、三人で夕飯を食べ、軽く食休み。
「そう言えば、おぬしらは帰らんでいいのか?」
「いやよ、もう帰るのも面倒なんで、まひろん家に泊まって行こうかなと」
「なんじゃ、そういうことか。別に構わんぞ」
部屋は全然空いておるし、この二人はよく儂の家に泊まったりするからのう。
儂は、一向に構わん。
と思っての発言だったんじゃが、優弥は少し眉をひそめていた。
「どうしたんじゃ? 優弥」
「まひろさん。信頼してくれての発言ではあるんでしょうが……さすがに、同い年の男性を家に泊めるのはどうかと思いますよ? 女の子的に」
「何を言う。儂は男じゃぞ? 中身は。同時に、昨日までは体も男じゃった」
「それはそれです。いいですか、昔に比べ、今の年若い男性と言うのは狼、もしくはケダモノなんですよ? 僕や健吾さんが襲うとは考えないんですか?」
「ん、なんじゃ? 二人は儂が魅力的に見えておるのか? じゃが、この体は小学生じゃぞ? これでもし、性的興奮を覚えるのであれば、ロリコンと言わざるを得んが……」
「俺は正直ありだぜ! ロリは可愛い!」
正直じゃな、健吾。
こやつ、色んな意味でバカじゃからなぁ……。
しかも、いい笑顔で断言しておるし。
さすがじゃ。
「と、このように健吾さんみたいな人もいるわけです。それでも、泊めると言うのですか?」
「ん? いや、儂は別に襲われても構わんぞ? 別に、処女とかどうでもいいし」
と言うと、なんか空気が固まった。
一瞬前までいい笑顔だった健吾ですら、微妙な表情になっておる。
……なんじゃ、この空気は。
「……なぁ、優弥。こいつ、ヤバくね?」
「えぇ、ヤバいですね」
「む? 儂、何かヤバいのか?」
「「ヤバい」」
「そうか」
わからん。一向にわからん。
なぜ儂はヤバいと言われておるのか……。
「まひろ、お前に貞操観念ってあるのか?」
「貞操観念? んー……別に、睡眠に関係ないじゃろ? なんで、どうでもいいかな、と」
「……あー、これは筋金入りと言うか……色んな意味でアウトですね」
「アウトか?」
「アウトですね。スリーアウトチェンジどころか、試合終了レベルでアウトです」
「そうか」
儂、どこがアウトなんじゃろう?
もしやあれか。
「儂がビ〇チになると思っておるのか?」
「ダメだッ……こいつ、下ネタに抵抗が全くねぇッ!」
ドンッ! と机を叩いて、なぜか目端に涙を浮かべる健吾。
どうしたんじゃ、こやつ。
「これは大問題ですね。まさか、睡眠欲がここまで強いとは……」
「脳内メーカーとか見てみようぜ。こいつ絶対、頭ん中『眠』で埋まってると思うぞ」
「はは、褒めるでない」
「「褒めてない(です)」」
そうか、褒めてないのか……。
「……そういや、昔からこいつって色々と周囲からずれてたっけなぁ……」
「僕も、まひろさんと付き合うようになってからと言うもの、それを理解していましたが、まさかここまでずれていたとは……。このままだと、まひろさんがとんでもない受け身女子になってしまいそうです」
「受け身女子とは面白いことを言うのう、優弥」
「笑い事じゃないですよ、まひろさん。……なんかもうあれなので、ストレートに訊きますが、あれですか? まひろさんは見ず知らずの男性と、ヤれると訊かれたら、できますか?」
「本当にストレートじゃな」
「答えてください」
なんじゃ、このものすごい圧は……!
これは真面目に答えないとまずそうじゃな。
ふむ……。
「できんな」
「……あり? こいつ、普通にできねぇ、って言ってるぞ」
「……変ですね。先ほどまでの会話だと、確実にできると言うと思ったんですが……」
「バカなことを言うでないわ。儂とて、見ず知らずの男に体を委ねるほど、落ちてはおらんぞ?」
まったく、儂を何だと思っておるんだ、こやつらは。
じゃが、そんな儂の発言を聞いてか、二人は『なんだこいつ……』みたいな表情を浮かべていた。
いや、それはこっちのセリフなんじゃが。
「あの、まひろさん? さっき、普通に処女はどうでもいい、とか言ってませんでしたか?」
「む? ああ、そこで勘違いしたのか、二人は。すまんな、どうやら儂の言葉足らずじゃった。あれの意味はな、『仲のいい者であれば、大して気にしない』という意味じゃ。なんで、知り合いでもない奴とはできんよ」
「「……貞操観念あるやんけ」」
「最低限はな。なんじゃ、儂はてっきり、儂らの中だけでの話かと思っておったんじゃが、そう言う意味じゃったのか」
じゃから、この二人は『だめだこいつ、早くなんとかしないと……』みたいな顔だったんじゃな。納得納得。
「ひとまず安心……か。はぁぁぁぁぁぁ……心臓にわりぃよ、まひろ……」
「はは、すまぬな。国語は得意な方じゃが、どうやらまだまだらしいのう」
「そう言う意味じゃなくね……?」
「心の底から同意です……」
「ふむ。お疲れのようじゃな。ならば、先に風呂に入ってくるといいぞ。儂は、食器の片付けでもしていよう」
「……誰のせいで疲れたと思ってんだよ!」
「んー……儂?」
「そうだよッ!」
「今日は良く叫ぶのう、健吾」
「……俺、なんでこいつの幼馴染やってんだろ」
「……大変ですね、健吾さん」
「……マジでな」
仲いいのう、こやつら。
たまーに、儂が置いてけぼりに感じる時がある。
もうちょっとこう、親交を深めたいものじゃ。
「……とりあえず、食器はこっちでやっておきますので、まひろさんが先にお風呂に入ってきてください」
「いいのか?」
「ええ。構いません。なので、どうぞ」
「うむ、ではお言葉に甘えるとしよう。正直、少し疲れておったので、ありがたいわ。では、入ってくるぞ」
「あー、いってらー……」
「ごゆっくりどうぞ」
覇気がないのう。
風呂に入ったが、特に問題はない。
初めて女の裸を見た、くらいの感想かの?
なるほど、こうなっているのか、と勉強にはなったがな。何の勉強かはまったくもってわからんが。
テストに出ないし。
……む、しまった。着替えを持ってくるのを忘れた。
仕方ない。たしか、一階にYシャツがあったはずじゃな……それを着るとするか。
「……はっ。そう言えばさっき、貞操観念について話したばかりじゃったな……」
なら、裸で出歩くのはまずい気もする……。
ふむ……しかし、幼女だと問題がある。
そうなると、問題ない姿は……うむ。あれだな。
「上がったぞー」
「おーう。早かった……なァッ!?」
「ちょっ、ま、まままま、まひろさん!? な、なんですかその姿は!?」
「ん? なに、幼女の裸だとまずいと思ったので……大人の姿になってみたのじゃ。これなら問題なかろう?」
そう、儂は幼女で駄目だと言うのならば、大人になるまで! と思い、大人姿になってみた。
年齢的には二十歳くらいかの? 身長はそこそこ伸び、おそらく160センチくらいはあるじゃろう。多分。なるほど、儂は成長するとこれくらいになるのじゃな。
しかし……胸、でかいのう。我ながら。
たゆんたゆんと言うのかの? こういうのを。
じゃが……ふむ。なんじゃ、毛、生えてないんじゃな。
それはつまり、成長しても、儂に毛が生えることはない、ということか……。
「問題あるわ――――――――――――――ッ!!!」
健吾、本気の叫びを喰らい、同時に、優弥からは説教された。
解せぬ。
「くっそ……裸で出てくるかもしれねぇ、とは思ったがよ……まさか、予想の斜め上を超えてくるは思わなかったぞ、俺……なんだよ、大人の姿って……」
「儂の能力じゃ」
「んなこたぁわかってんだよッ! そんなことよりもな、俺らの前で、裸になんのやめてくんね!? あと、普通に羞恥心とか持てよッ!」
「いや、そう言われてもな……」
別に気にせんし。
それに、こやつらとはそこそこ付き合いが長いので、今更恥ずかしがるのもへんだと思うしのう……。
一体、何がダメだと言うんじゃ。
「まひろさん、せめてバスタオルを巻くという発想をしてくださいよ……」
「いや、自分の体を拭いたタオルを体に巻くのは少し抵抗があっての」
なんか、濡れていて嫌だったりする。
「普通裸を見せることに抵抗を覚えるからな!? 人って! 間違ってもそっちじゃねえからな!?」
「ははは、健吾のツッコミは冴え渡っておるのう」
「……俺、新学期が心配になって来たんだが」
「奇遇ですね。僕もです」
心配性じゃなぁ、こやつら。
「そこまで心配せんでも、大丈夫じゃよ。襲われそうになったら、実力行使にでるからの」
「実力って……お前、今ロリじゃん。さっきの変身の能力使っても、勝てなくね? 男に」
「ふっ、儂は三つ目の能力があるんじゃよ」
「嘘だろ……お前、何気に三つも持ってんのかよ」
「ふっ、すごいじゃろ? どれ。軽く変身してみるかの」
「「……変身?」」
んー、狼と兎と猫、どれがよいか……。
…………よし、狼には一度なったし、わかりやすい猫になるとしよう。
それじゃ、猫に変身、と。
「「!?」」
「どうじゃ? これが、儂の変身じゃ」
「……こいつ、なんでこう可愛さのとかの方に能力が全振りされちゃってるわけ?」
「ですね……。まさか、ケモ耳とケモ尻尾が生えるとは。一体、どういう能力なんです?」
「これはじゃな、儂の好きな動物三種類になることができる能力じゃ。正直、どこまで動物になれるかは、まだわからんがな。まああれじゃ。変身した動物の能力を顕現させると、その動物の特徴が備わる」
「マジかよ。地味に強いな、それ」
「じゃろ? 儂は、狼、兎、猫に変身できるから、状況に合わせて、ということになるかの。ちなみに、一度使用すると、一時間は再使用不可じゃ。まあ、ずっと変身し続けることはできるみたいじゃが、こう言うのは、デメリットがあると相場が決まっておる」
『開示薬』の効果が切れたから、もう情報を見ることはできないんで、あの時しっかり見ておけばよかったと少し後悔。
まあ、神の連絡先をもらったので、そっちに連絡すればいいとは思うがな。
「ちなみにそれ、本物?」
「本物じゃよ。動かせるし。ほれ」
ふーりふーりと尻尾を動かしてみる。
お、意外と楽しいな、これ。
「あー……とりあえず、尻尾振るのをやめてくれないか、まひろ」
「む、どうしてじゃ?」
「どうしても何も……お前それ、ズボンとパンツが若干下にずり落ちた状態になってるからな!? 幸い、猫だったからいいものの、狼だったら確実に尻丸出しだからな!?」
「なるほど。じゃから、すーすーするのか」
「いや気付けよ!?」
「まひろさんは、色々と鈍感ですね」
「睡眠の前では些事じゃからな」
「全然些事ではない気がするのですが……」
さて、そろそろ戻すか。
「ほれ、にゅっと」
「すげぇ、今スポン! って感じに引っ込んだぞ」
「どういう原理なんでしょうか」
「さあの」
少なくとも、この病に原理とか求めちゃダメな気がするぞ、儂は。
原因不明の色々とよくわからない病気じゃしな。
「にしても、なんか、すっげぇ疲れた……」
「僕もです。今日はもう寝ましょうか」
「む、風呂はいいのかの?」
「……明日の朝入らせてもらうよ」
「同じく」
「そうか。まあ、汗はかいてなさそうじゃからな、いいじゃろう。では、おやすみ」
「「おやすみ」」
ようやく寝れるぞ……。
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