第7話  波と峠越 

 雨は相変わらず強い侭、風は酷くなり路肩の木々は道路中央迄しなるようにたわんでいた。

 避難所を出たのが15時過ぎ、自宅に立ち寄り海岸線で時間取られ現在18時15分。


 快晴なら19時過ぎまで明るく、今の時間なら海に沈みゆく太陽で空が青から茜色を過ぎ、ピンクがかった紫、最後に濃い群青色に為る、暗くなるまで眺めていたくなる時間なのだが・・・。


 今は濃い暗雲が立ち込め、既に薄暗く為った土砂降りの中、体に異常が無い事を確認し打ち身位で走行に支障無し。

《走れるか?、破損等は無いか?》

 続けて車体を確認、幸いにステップとエキパイに削れとフロント右のウインカーレンズが割れただけで走行に支障なし。


 何故転倒に及んだか?、其処は工事用に土砂を削る場所、雨で土砂が路面に流れ出し堆積、コーナー出口付近に溜まっていた。

 其の侭突っ込んでいたらガードレールも無い崖下へ真っ逆さま、其れこそ台風過ぎて捜索隊に発見されるまで其の侭だったかも。


 以前落ちた車の事故でも捜索引き上げまで2日掛かった事が在った、車なら発見もし易いがバイクと人間なんて、しかも台風の影響で落ちた痕跡すら在るか怪しい筈、見つけて貰えるか如何か?、敢えて転倒して九死に一生を得たという感じである。


 エンジンを掛けローに入れ動力の手助け借りて、押して堆積した土砂を乗り越え再スタート。

 上り最後のコーナーを抜け頂上、今までは南側以外の3方を山に囲まれた登り道、頂上は山を巨大ななたで左右に割った様な峠、先程書いた夕日の景色は此処からの景色。

 その眼下には西側に遮る物の無い水平線が広がる海、此処からは下り道。

 此方に向かう台風に対峙する様な形で、急な下りと急コーナーが連続する。

「今度は風とか…」

 下り始めコーナリング中に急に向きの変わる風に煽られ、山肌や、崖側に車体を振られギリギリ踏み止まりなんとか下って行く、途中川のように為った湧き水に車体を振られながらも下り切る、が其処には警官が居り峠道への侵入を禁止する為立って居た。


 峠を越えてきた此方を信じられないような顔をして見ていた。

「無事か?何処から来た?」と声をかけられ、伝えると随分前に通行規制掛かったようだ。

「どこへ行く?」と聞かれ祖父母の名前伝えると。

「用事済んだら其処なら安全だから、後は外に出るなよ」と言ってくれた。

 どっちにしても此の道で帰る事は出来そうに無いな、祖父母の家迄後は内陸の道、風さえ気を付けさえすれば問題無し。


 到着して直ぐ作業に取り掛かる、割れたガラスの掃除をし、古い畳とコンパネで窓を塞ぎ一息…。

「じゃあ帰るよ!」

 そう言い残し再び走り出す、幸いに此処は崖も無く海からも離れた内陸の地、雨の影響も受けにくい場所。

 <心配ないな>と思い其処を後にした。

「しかしどうやって帰るかな?」

 そう此処迄来た道は使えない、TV放送では風速40メートルを超えて居た。

 <戻っても、もう寝てるんだろうな>と此の悪天候の中止める方向に気持ちが向き始める。

 <起きた時に、無いと泣くんだろうな?、持って来ると言っちゃたし…>

 と気を取り直す。

「燃料は充分有るし、あのルートなら十分行ける」

 只そのルートは十分整備されてはいるが、此処迄のほぼ倍の距離を走ることに為る、しかも明かりすら無い夜道で台風の雨と風の中。

「ハッピーな条件じゃないか、此れって完遂したら武勇伝、其れとも気が振れたと思われるかな?如何考えても正気の沙汰じゃ無いよな?」

 と思いつつ来た方角とは逆にフロントを向けた。

「俺が届けるのを待って居る者が居るんだから、行くぞ<GR>無事に走り切ろう・・・。」



 無謀とも思える決断、もう一つ向こうの町へ駆け抜け、其処から山の尾根を伝い俺が通って居る高校の方へ大きく迂回するルート。

 西の端から北へ30キロ走り此処迄来た、そのルートは更に5キロ程北へ向かい其処から約30キロ程東へ走り高校の傍へ抜け後は通常の帰り道、台風は近づいてきてるしさて何が起きるか、無事帰り着くのか?見て下さる方が居る限り書き続けます。

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