第6話 波と峠越
エンジンを掛け、ゆっくりスタートした。
「風がずいぶん出てきたな…。」
避難所出る時にTVで<最大風速35メートルで発達中>と言ってたっけ、まだ沖合120キロ位先を速度が遅く、自転車並みの20キロで近づいているらしい。
この先どれだけ荒れるやら・・・。
愈々湾内を外れ外洋側に出る最後のコーナー、既に湾内と違う突風にハンドルを取られる。
気合入れタンクをしっかり挟み、逆に腕から力を抜いた・・。
「さあ行くぞ」と引き返したくなる気持ちを抑え込み、海岸線の道に突入す。
其処は想像以上だった、最初は此処とトンネル間がほとんど距離がないため、トンネル内で一旦停止、次の隠れられる岩肌と波のタイミングを見て取る。
此処は外海へ漁に出て行く者達の加護を願って建立されたマリア像の裏、其処へは海からしか辿り着けない、背の方からで失礼では在るが無事に走り切れる様に祈って居た、同じ海と対峙するのだから、多少でも加護が在れば其れで良いのだが・・。
大、中、小パターンは同じで最初の2キロ程は隠れられる所の間隔がそれほど開いてないからまだマシだが、波はもう背丈の3倍は在ろうかという位にまで上がっている。
此れが
スロットル回すタイミングを波と併せ、大波が上がったタイミングでスタートしつぎの岩陰に滑り込む、後は其れの繰り返しで進んで行く。
加速が格段に良くなった為以前の失態には合わず、それが通用する最後の位置まで来た。
この先は潜める箇所の間隔が200メートル位開いている直線区間、只此処さえクリアー出来ればその先の道は、コーナーの頂点が岩陰に為る、大波が上がった時だった。
<数か所波が切れている!!>岩陰は無いが、飛び出した岩礁で波か断ち切られてる。
その距離50メートル位か、波しぶきは被るが直撃は回避できる。
それを示すように道の上に波の跡が残る。間隔約3メートル<交わせる>大波が上がった。
落ちてきたタイミングで加速、中波で水は被ったが、大波はよけた。
それを繰り返し最後の場所で気まぐれに来た大波を被るが道路幅一杯で踏み留まる。
石が当たり痛みは伴うも通過し転倒は免れる。
後は楽勝なんて思っていたが、最初のコーナーの頂点で止まれない!、区間が短かったのでオーバーランで済んだ、波は被ったが…。
<GR50>は前後共にドラムブレーキ、原因は大波被った為ドラム内に水が入り制動力が落ちたもの。
フロントは無理だがリアはサイドスタンドで浮かせ、ローに入れブレーキを引きずり熱で乾かす、距離が短いのでリアだけでも何とか止まれ、フロントも引きずった儘走ったので、海岸沿いを通過する頃にはブレーキは復活し次のセクションへ。
ラリーで言う処のリエゾン区間とでも申しましょうか、次の集落を無事に通過し次の山場へ。
さあ此れから峠超え、其処は乗用車でもセカンドで登る峠、最初の長い直線区間で速度載せないと50㏄の非力なエンジンでは失速してしまう。
最初は緩いコーナーから始まり、段々ヘアピンに近くなっていく、右、左となるべく落とさない様に上り続け、登って行く途中で何か所も川の様に水が流れて車体が振られる。
「普段はちょろちょろ湧き水みたいに湧いている所なのに!」
そう思いつつ駆け上がってゆく。
頂上まで残りコーナー7つ、ブラインドコーナーに向けバンクさせ侵入たが眼に飛込む光景に前後フルブレーキング。
<間に合わない!止まれない!>其の侭ロックさせ転倒させてしまう。
エンジン音が止まったら、風と叩き付ける雨の音だけが響いていた。
台風の中まず誰も通らぬ山中で大転倒して仕舞いました、今みたいに携帯が有る訳で無い。
そもそも携帯が有ればこんな峠道も、荒れた海岸線も走らずに済むんですから。
今大変有難い時代に為っていますね。
さて先程通過した海岸線の出来事ですが<ホントに出来るのか?とかどうせフィクションだろ!>と思いましたか?、そこに至った経緯に誇張、脚色と一部記憶違いは有るかもしれません、その台風の中を私自身が走り切ったほぼ実話です。
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