第6話 サビア・ロッサの少年ギャング2


 それは私の『記憶どおり』のいつもの朝だった。

 見慣れたベッドと枕の横でスマホのアラームが鳴った。

 いつもならルーズな私はここから二度寝に入る所だけど、あんな夢を見ていたせいで、目が冷めて眠れそうにない。

 それにしても、あり得ない事ばかりなのに妙にリアルな夢だった。

 今日は久しぶりに1時限目から授業に出ようかな。

 父はもう仕事に出かけたようだったが、今日はまだ朝の為、妹がまだ家にいた。

 

「お、お姉ちゃんおはよう」


「おはよう」


 妹の名前は美桜(みお)。

 いつからか、私から距離を取るようになったが、彼女は目があえばいつも話しかけてくれる。

 無邪気だった妹も、もう12歳だ。

 私の反応を見て少し、よそよそしい態度で接する様になり、最近では言葉数を減らしていた。


 母は相変わらずだ。


「あら、お姉ちゃん、今日は早いのね。

 学校はどう?

 最近少し帰りが遅いみたいだけど

 学校にはちゃんといってね」


「うん。

 ちゃんと毎日行ってる」


「そう……ならよかったわ」


 いつも、こんな中身のない会話が繰り返されている。

 私が歩み寄ればいいのだが、何故かそこに抵抗を感じてしまっている。

 そう、家族に何の不満もない。

 しかし、なぜか心を開けないでいた。

 でも、いつもより一歩……そうだ、一歩ずつでも良いのだ。

 私が少しずつ家族との距離を縮める事が出来るきっかけを作る事が……。


 もし本当に、異世界なんかに飛ばされたら、もう二度と会えなくなってしまうんだから。


「あ……あの、お母さん。

 最近、絵理沙って子と良く遊んでるの。

 その子もハーフで凄く気が合って。

 だから昔みたいに友達と遊びたくないなんて思わなくなったの。

 今、私すごく楽し……」


 その時、視線の先に確かにいた母の姿がなくなっていた。

 妹もいない。


 実家のリビングで私は一人きりで座っていた。


「なんで!お母さん!美桜!

 今なら私……今なら……」


 突然、後ろから、わたしの首が太い男の腕に締め上げられた。

 異世界で、私を襲った二人組がいた。


「いや……

 今なら私……私は変わりたい」



◇◇◇


  

 そこで目が覚めた。

 

 古い木材で雑に組み上げられたベッドに、カビ臭いシーツがお腹の上にあった。

 ベッドの横にはカバンと杖、あと雑に脱ぎ捨てられた服があった。

 

 う……頭が痛い……。

 昨日は飲みすぎた。

 やっぱり例のあのラムが効いたみたいだ。

 

 安酒は悪酔いするって言うけど、昨日のラムは、その最たる物かも知れない。


 気持ち悪い。

 私は部屋の窓から少し嘔吐してしまった。


 私は水を飲んでから、外の空気を吸おうと思い、散歩する事にした。


 空はまだ薄暗いけど少し明るくなり始めていた。

 汚い町だけど排気ガスとかが無いせいか、この明け方の異世界の町は空気が澄んでいた。


 昨晩飲んでいたバーの入り口に座っている人影が見えた。

 私を助けてくれた男だ、確か名前はジェイ。

 

「こんなところで何してるの?」


「おう、レオナか。

 ちょっとな……

 宿のベッドはよく眠れたか?」


「ええ、おかげさまで。

 でもちょっと二日酔いよ」


「やっぱりあのラムか。

 あれはぶっ飛ぶからな。

 しかし、世の中の下らねえ事を

 忘れさせてくれる」


「何よそれ!

 そんなに人生悩んでんの?」


「お前は違うのか?」


「……。

 そうでもないわね」


「だろ」


「でも意外。

 ジェイあなたはクヨクヨ悩んだりとは

 無縁な人に見えるから」


「そんな事もないぜ。

 俺は御貴族様の御令嬢ぐらい

 心が繊細だからな!」


「ばっかみたい!

 逆に貴族の人の方が権力争いとかで

 心が汚れてそうだと私は思うけど」


「ははは、違いねえ!

 お前結構頭いいんだな」


「そんな事ないわよ。

 私は馬鹿よ……

 大切な人達を素直に

 愛する事も出来ない程……」


「どういう事だ?」


「ううん、何でもない!

 それにしても昨日のラムは最悪だったわ!」


「そうか?

 この町では大人気だぜ」


「あんな悪酔いする酒、

 戦後の日本でもアウトよ」


「二ホン?

 アレックスが言ってた

 確かお前の故郷の事だったか? 

 戦後って言ったな。

 そんな聞いた事ない様な

 遠い国でも戦争か……

 どこも変わんねえもんだな」

 

「私の国は今は平和よ。

 この国はそうなの?」


「年がら年中、戦争、戦争だぜ。

 よく飽きもしねえでよくやるぜ。

 因みに、このラディッチ大陸には今、

 200年も紛争が続いて

 国らしい国はないぜ。

 昔はグランデ帝国の

 植民地だったらしいが。

 今はグランデにも見放された

 無法地帯だぜ」


「そう……

 そのグランデだっけ?

 統治下の時は平和だったの?」


「俺達、ラディッチ大陸の人間は

 やつらの奴隷もいいとこだったらしい

 俺達のご先祖様もさぞかし

 御苦労なさっただろうぜ」


「そうなんだ……

 その統治下の後はずっと

 内戦状態な訳ね」


「ただ200年前、たったひとり

 リッキーリードって男が

 この世界の全ての戦争を終わらせ

 ラディチ大陸もグランデ帝国から

 開放した時代があったらしいぜ」


「リッキーリード!?」


「そう……

 俺達ラディッチの民にとっては

 伝説の男だぜ。

 最高にイケてるクールな奴だ」


 私がリッキーリードの直筆サイン入り書籍持ってるなんて言ってもまあ信じないでしょうね。

 まず、本物かどうかすら超怪しいし。

 第一、その伝説の人物とのキャラクターのギャップ半端ないし。


「俺にもリッキーリードみたいな

 力があれば、こんなクソみたいな世界を

 変えられるかも知れねえな」


 ジェイは大きく息をついてタバコに火を付けた。


「ふーん。

 リッキーリードね……

 それちょっと私にも頂戴」


「それ?」


「その今吸ってるタバコ」


「ああこれか。

 でも結構きついタバコだぜ」


 ジェイは私に吸いかけのタバコを渡そうとした。

 その時、私はジェイと目があった。

 その時は、特に深い意味は無かった。

 ただ私は何かに温もりを求めていただけだったのかも知れない。


「ちょっと待って。

 そのタバコきついんでしょ?」 


「ああ」


「じゃあ、一回吸って」


「何でだ?」


「良いから」


 ジェイはタバコを吸いこんだ。


 私はそのままジェイにキスをして彼の口からタバコの煙を吸い込んだ。

 キスはほんの5秒ぐらいだったと思う。


「う!!」


 私はそのまま後ろに倒れた。


「おいレオナ大丈夫か!?」


「何……このキツイタバコ……」


 私は仰向けになりながら、この異世界の空を見上げた。

 それは見た事がない程、澄み切った綺麗な空だった。




        To Be Continued…




:登場人物:


レオナ:

 身長 175センチ

 17歳

 異世界初二日酔いになる。


ジェイ:

 身長 184センチ

17歳

 体育会系ギャングらしい。

 

アレックス:

 身長 172センチ

16歳

 レオナに惚れた。


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