第3話 魔道士恋桜奈


 翌朝、私は一人荒野を歩いていた。

 しかし現在位置が分からない為、どっちに行けば良いのかも分からない。


 魔法についてだけど本に書いてあった初級魔法の10種類は問題なく使えるようになった。

 流石は初級だ。

 でも初見で全部出来たのだから才能なしではないと分かってちょっとホッとした。

 あと呪文の詠唱については多少端折っても魔術が発動する事が分かった。

 これは初級だからかな?

 この長い呪文って何か意味あるんだろうか?

 最もまだ10種類しか試してないから良くわからないけど。


 他に例の四次元プレートに入っていた【自動更新型世界地図】。

 自動更新?という事はもしかして国名や地名とかが更新されるって事?

 グー○ル・マップじゃないんだから……。

 裏にはやはり【こんな物まで造れちゃう。超天才大魔道士リッキーリード様作】と書いてあったが私はそろそろスルーする事にした。

 でもこの世界の技術ってヤバくない?

 これが標準だとしたら、私がいた世界より遥かに進んでるのかも…。

 これで取り敢えずどこか地名がわかるところに行けば現在位置が確認できる。

 ただGPSの位置情報がない辺りはグー○ル・マップの方が一枚上手かも知れない。

 しかし誰か人でも歩いていれば、現在どこにいるのか確認出来る所なんだけど……。


 そんな感じで行くあても分からず歩いていると、私は背後に覚えのある、嫌な気配を感じた。

 肉食獣特有の獲物を硬直させる様な強烈な眼光、口から溢れ出る湯気の合間から見える私の指程の大きさがある恐ろしい牙。

 そうだ、昨日出会ったドラゴンがいたのだ……。

 ひょっとして私ずっとつけられてた…?


 今回は見渡しても、近くに隠れられるような場所はない。

 戦うしか…ない。

 いや、昨日と違って私には魔術がある!

 

 私は覚悟を決めたが、その瞬間ドラゴンに先手を取られた。

 ドラゴンの巨体が頭から突進して来た!


 私は咄嗟に横に転がって逃げたお陰で何とか助かった。

 その時に私は自分の体の異変に気づいた。

 全身の震えが止まらない……。

 特に両膝はガクガク震えて止まらない。

 この17年の人生で未だ体感した事のないレベルの恐怖だった。

 しかも今、横に飛んだ時に脇腹を打ってしまったみたいだ。

 手の甲や膝も擦りむいて血が滲んている。

 アニメでよく見る華麗にモンスターを倒してドヤ顔で目を閉じる、お決まりの光景とは程遠い…。

 離れていても伝わって来る動物園とは比べ物にもならない程の鼻を突く様な獣臭。

 私が今、体感しているのはファンタジー世界であるにもかかわず、途轍もなくリアルで生々しい恐怖の現実なんだと気づいた。


 何もしなかったら殺される…。

 いや、もしかしたら生きたまま食べられるのかも…。

 生き残る為には戦わないと!!


 私は汗の滲む右手で杖を構えた。


『ファイアーボール!』


 燃え盛る火球がドラゴンの横面に直撃した。

 当たった!

 ダメージは?


 ドラゴンは僅かに顔をしかめたが、すぐにこっちを向いて牙をむき出しにして威嚇を始めた。

 嘘…もしかして効いてないの……。


 ドラゴンは今度は低い鳴き声で吠えながら、ゆっくりとこっちに歩いてくる。

 不味いわ…。このまま、じわじわと距離を詰められたら、さっきみたいには避けられない!

 学習している!ドラゴンってこんなに頭が良いの…?。


 私はもはや、冷静に考えられる判断力も失い始めていた。


『ファイアーボール!ファイアーボール!ファイアーボール!ファイアーボール!

 ファイアーボール!ファイアーボール!ファイアーボール!ファイアーボール!』


 もう、魔力が切れたらどうしようとか、全く考えずにドラゴンの体中目掛けて同じ魔術を連発していた。

 無我夢中で私は泣いていたと思う。

 

 するとその時、ドラゴンが嫌がるそぶりをして、高い鳴き声を上げながら踵を返して向こうに去って行った!

 に…逃げてくれたの?

 と言う事は勝ったのかな?

 冴えない勝ち方だけど…。

 

 痛っ!

 もしかしたら脇腹が折れたかヒビが入ってるのかも……。

 そうだ。確か本に回復魔術も書いてあったはすだ。

 回復魔術は無傷の状態で練習のしようがなかったので、本のメモを見ながら恐る恐る患部に杖を当てて唱えてみた。


『ヒーリング……』


 驚くべき事に、ものの数秒で完全に痛みが消え去った!

 回復魔術すげぇ……。

 ファンタジー世界って本当に何でもありだな……。

 実際に体感してみたら、いかにこの世界が現実離れしてる事がよく分かるわ。


 何とか怪我を治して私は一口水を飲んだ。

 ひとつ大きく深呼吸をしてから、再び歩き始めた。

 

 20分程歩いていると、何人かの人影が見えた。

 や…やった!

 遂に異世界第一村人発見!!

 やった!この世界で見る初めての人間だわ!

 喜んで近づくと何やら様子がおかしい……。


 4人の見た目は黒い肌に特徴が私の世界で言うとアフリカ系黒人の様だった。

 しかし、その内の2人はどう見てもフレンドリーな人たちではなかった。

 状況は襲われてる40代ぐらいの一般人ぽい夫婦と俗に言うモヒカンヒヤッハーだった……。

 襲っている方は、いわゆる盗賊か何かかしら?

 どこの世紀末だよここは……。

 もしかして、非常に良くない場面に遭遇してしまったのかも知っれない。


 しかし、身を隠す隙もなく、その場の全員の視線が私に向いた。

 ちょっとちょっと……。

 何……、この空気?

 いや…流石に私、人と喧嘩何かした事なんてないし。

 こういう時、どうしたらいいの?

 

「何だ女?

 俺達に何か用か?」 


「それにしても変わった格好してるな。

 この辺の人間じゃないのか?

 しかし、肌の色と顔がラディチ大陸の

 人間にしか見えねえけどな」


 やはり言葉は通じる様だった。

 私は高校の制服のままだった。

 確かに、この世界で初めて人間にあったけど彼らの服装からしたら異様な格好に見えるかも知れない。


「助けて下さい!」

  

 突然、襲われている夫婦の夫らしき人物が私に叫んだ。

 

 えっ私が?

 女子高生が成人男性に助けを求められている。

 この世界ではそんなものなのかな…。


「その杖と、その変わった格好は

 魔道士様かと、お見受けします!」


 ああ成程、杖を持ってるから私が魔道士に見えるのか。

 でも、さっきみたいな魔法を、人間に打つの…? 

 さっきは相手がドラゴンで、あの状況だったから躊躇なく打てたけど、人間相手には流石にちょっと抵抗がある。

 

 その時、よく映画でみた光景が思い浮かんだ。

 そうだ、威嚇射撃!

 それなら人に向かって打たなくていいかも!

 

 でも、あんまり弱そうな魔術だと相手になめられるかも知れない。

 初級魔術の10個目にちょっと強そうな名前の魔術があった。

 確か本には『多分これも、ダミアンが使ってたくらいだから、初級魔術だろう』って書いてあったはず。

 ダミアンってだれか知らないけれど…。

 私は右手を空に上げて呪文を詠唱した。


『インフェルノダークバレット!』


 真っ黒の弾丸が数発、良く晴れた空を切り裂いた。


 それを見た盗賊らしき二人は顔を蒼くして冷や汗を流した。


「ち、上級魔道士か…。

 しかもあれは相当な攻撃魔術だ。

 あんなのを使えるのはグランデ帝国でも

 国家騎士級の魔道士だけだ。

 これは厄介だな……」


「兄貴どうする?」


「戦って特はねぇ…。

 ここ引くぞ」 


 盗賊二人はラクダの様な動物に跨がって去っていった。


「ありがとうございます!

 魔道士様。

 あなたは命の恩人です。

 何かお礼をさせて下さい!」


「じゃあこの近くの

 人のいる町まで連れて行って下さい」

 

「え……。

 そんな事でいいんですか?」


 そんな訳で私は夫婦に連れられて近くの町に案内して貰う事になった。

 助かった…。

 危うく荒野で野垂れ死ぬところだったわ。

 

「いやぁ。

 助かったわ。

 さっきもドラゴンに襲われたし

 町まで案内して貰えるなんて

 本当に助かります」


「えっ…!?

 ドラゴン!?

 【荒野の主】に一人で遭遇したんですか!?

 よく生きて帰れましたね……」


「荒野の主?

 そうなの……。

 私、このあたりの事には疎くて」


「……。

 とにかく助かりました魔道士様」


 最寄りの町までは案外近かった。

 私達は、ラクダの引く車に乗って一時間ほどで町に辿り着いた。

 町の名前は【サビア・ロッサ】。

 本によると、ここは南ラディッチ大陸の治安最悪のスラムと呼ばれる町だった。



        To Be Continued…。




:登場人物:


立花 恋桜奈(たちばな れおな):

 身長 175センチ

 17歳

 初級魔術は使える。

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