行き詰まった夜に、嫌な散文を。

電気羊

凡庸で軽い神経衰弱のような生活

人生とは、延々と続く散文的な小説のように思えることがある。

分かる、そんなことはあり得ないと。

しかし、盲目的に日々の喧騒の中に身を置いていると、暗いトンネルの中を彷徨うかのように過ごしていると、そんな気がしてしまうのだ。


いつの間にか、凡庸で軽い神経衰弱のような生活に肉体が支配されてしまったのだろうか。

物思いに耽ってばかりでも仕方ない。現実に戻って、謎を解くことにしよう。


お前は、そういうことを考えてばかりだからいけないのだ。

お前の肉体は、如何に衰亡の状態に堕ちても、必ず解決を待っている筈なのだ。


そこで私は小説を書いてみた。

すでに、その小説が、自分自身の生活に変っている時、手に触れることによって、どんなに生き生きとしているかがわかった。


「どうです、中毒症状の原因が、何でして、なぜ嘔吐しているか、私にはわかりません。自殺の原因なんか、ひとつも分らないのです。」

「毒だって、死だって、生き生きとしているのです。私には、自殺ということが、なぜ悪いのか分からないのです」

こんな一節で終える小説を書き終えた日に私は、「女は男らしく女らしく、美しい。私はあまりに美しい。」という虚栄心を満足させた。

人生というものに、若い男が何か面白さを見出している時、「私は女らしく、できるだけ。」と口のうちでいっぱい喚いた。


「落ち着きませんか」と、なんだか解らないが、不思議な作用が働いた。

気づくと夜が明けたらしい。

私はもう幸福だと信じることにした。

憂鬱な眼で、私は涙ぐみながら、ぼんやりと朝日に見入っていた。


私は生きていることを発見した。

私は、生きていることを自覚していた。

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