第百十話「最後の戦い」
「そんな」
目に見えないほど遠い場所。
それでいて、ベインテでの戦い以上に圧倒的な戦闘。
今の僕には、その決着がわかる。
「おい」
みんなも、感じ取ったんだろう。
ポリヴィティから少しこちら側。
スクイさんとホロさんの戦いが終わったことに。
僕は、拳を握りしめる。
「行くぞ」
ゲーレは、そう言って立ち上がる。
見るといつも通りの無愛想な彼女だけど、それでも自分たちと良い戦いをしたホロさんに思うところがあったのか。
少しその表情は曇って見えた。
「お、じゃあ魔王討伐しちゃいますか!」
そんな空気を感じ取ったのか、シオネは気遣うように、明るい声を出しながら全員に笑ってくれる。
ホロさんに思い入れのないだろうカサドルは悲しそうにはしなかったけど、それでもいつもの億劫さは出さず、真剣な目でこちらを見据えてくれた。
「行こう」
それだけ。
それだけで、彼女の想いも伝わる。
「うん」
みんな、覚悟を決めた。
最後の戦いに身を投じる。
そんな直前なのに。
僕はまだ、自分の判断が間違っていなかったか、考えてしまう。
ホロさんを止めることは、できたと思う。
それでも、死ぬ可能性があっても行かせるべきだと思った。
それが彼女の覚悟を尊重することになると。
でも。
彼女を引き留めて、僕ががスクイさんを元に戻すことができれば。
そうすれば彼女は死を覚悟する必要もなかったかもしれない。
また幸せに、2人で過ごせたのかも。
僕はまた、誰かを救えなかったのか?
そういった感情を。
振り払う。
僕は、勇者として、国王を。
人間を殺した。
その時には決めていたはずだ。
迷っても、前に進む。
そのために。
「行ってくるよ」
だから。
「みんなはここで待ってて」
僕は、なんて言おうか迷ったけれど。
率直にみんなにお願いする。
「ダメ」
全員に、言われちゃうんだろうなと思ってた。
でも1番に、いつも寡黙なマーコに、強い口調で言われてしまう。
「魔王は勇者が神聖魔法使いを複数連れて倒す。そのくらい強力な相手」
正論に困ったような笑顔しか返せない僕に、マーコは詰め寄り。
手を取る。
「ましてこの魔王は元よりも遥かに強大」
だからこそ。
だからこそ、あるいは神聖魔法使いであっても、太刀打ちできないかもしれない。
それでも、僕を1人にはしない。
「あなたは強くなった。私たちよりもずっと」
それでも。
1人にしたくない。
そう、言ってくれる。
「私たちも、一緒に連れて行って」
これほどに話すマーコを、あるいは僕も初めて見たかもしれない。
それほど、熱を入れて話すマーコに。
「ありがとう」
僕は、せめて心配させないようににっこりと微笑んで。
「でも、1人で行かせて欲しい」
そう、強く断言する。
「俺たちは足手まといか?」
不機嫌そうに言うゲーレ。
意地悪なことを言うけれど、彼女はそう聞かずにはいられないだろう。
だからしっかりと。
「そんなことはないよ」
否定する。
理由。
それを僕は、思い出す。
魔王と戦う。
そのために勇者に選ばれてからのこと。
人々に迫害されたこと。
守りたかった人々を救えず、死を受け入れようとしたこと。
その時に思い出した、優しくされた記憶。
そして、勇者として生きると決めたこと。
戦うことを決めたこと。
僕の原点。
「これは、僕の戦いだから」
勇者として。
サルバ・ハミルダッドとして。
両方の想いがあるけれど。
「でも」
食い下がろうとするマーコは、僕が決して譲らないとわかっていた。
わかってくれていた。
だからかな。
ゆっくりと手を離すと、勢いよく抱きついてくる。
びっくりする僕に、小さく彼女は呟いた。
「絶対に、帰ってきて」
その言葉に、僕は。
「うん!」
せめて勇者として。
大きく頷きながら言ってみせた。
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