第百九話「スクイの答え」
「なん、で」
ホロは。
血を吐きながら、身体を貫くスクイの腕に支えられるように。
だらりと垂れ下がる。
「何故?」
スクイは、ホロを貫く腕以外を再び身体を泥で包みながら、宙で体勢を整える。
その表情は、もう笑っていない。
「こちらが聞きたいくらいです」
スクイはホロの魔法により不死の身体を失った。
そして自在に操れる死の泥も体の周囲から奪われ、落ちるしかない状態。
そんなものではスクイの技量は落とせない。
生身で落下する状態でありながら、スクイは空中でホロの魔法を素手で捌き。
そのままの勢いで、ホロの心臓を貫いた。
「流れ」
ホロの魔法による高速度を、捌くと同時に自身の抜き手の速度に乗せる。
スクイの強さは単なる魔法ではない。
積み重ねられた武術に、状況を問わずその十全を発揮できる精神構造。
「この程度で追いついたと思いましたか?」
ホロの磨いた魔法、技量、頭脳。
そして得たSランク魔法。
そしてスクイから奪った不死と魔王。
それだけでは埋めることができない。
圧倒的な実力と。
関係性。
それに気づかない。
それだけではない。
ホロの最後の攻撃はあまりにも一直線で。
感情が乗りすぎた。
いくら弱体化されてもスクイであれば、受けるのは容易である。
「ホロさん、私はあなたをずっと見てきました」
死の信奉者。
その同志。
「死の素晴らしさを理解できる者として、ずっと共にいた」
だから、わかる。
「あなたには、能力がない」
スクイの表情は冷たく。
酷く出来の悪いものを見るような、蔑んだ目。
「戦闘に関しても、加護頼りの大技と練度の低い魔術頼り」
つらつらと。
死にかけのホロに発される。
「感情のままにそれらを振るい、勝ち目が見えればリスクを考えることもできない」
それではと。
「攻撃も感情に塗れ不安定で読みやすく、ブレてしまってまるで意味を成していない」
これまで一緒に戦い。
戦いに限らず様々なことを教えたつもりでしたが。
「心底残念です。あなたは何も見てこなかったのでしょう」
戦闘、学問、交渉、コミュニケーション。
スクイはホロに、その能力を与えてきた。
「何を身につけるにも時間がかかり、無駄が多く、気持ちばかりで視野も狭い」
ホロはそれに、応えたつもりだった。
「本当に、あなたは最後まで、足を引っ張ることしかできなかった」
そのホロの、全てに対し。
「あなたに死を信奉する資格はありません」
スクイは、否定する。
「もう、私にあなたは必要ありません」
精々、普通の人生がお似合いだったと。
そう突き放すと、腕を振るうように身体を貫いたホロを。
汚いもののように、振り払う。
「ご主、人」
「私はあなたの主人ではない」
死にかけ、魔法を展開することすらできず、言い切ることもできないホロの今際の際の言葉を。
もう、見ることすらなく、スクイは否定する。
そして落ちるのも待たず、ただ、また前進し。
スクイは、確実に。
ホロを殺した。
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