第百三話「スクイ・ケンセイ」

 別の世界にて。


 天使と呼ばれる唯一の生き残りが、笑みを浮かべながら人間の世界を観察する。


「神々の負の遺産」


 人間界に流れ出した負の感情、その塊。

 魔王。


「それを人の身で破壊する」


 聖剣の浄化なしにそれを起こしてしまうイレギュラー。

 それにより起こるのは。


 行き場を失った神々の負の感情の噴出であり。

 そこに器があるのであれば。


 そこに行き着く。


 そして得られる。

 得られてしまうSランク魔法。


 魔王。


「神々は、永遠に生きることに絶望し、死を選んだ」


 しかしその中で、同時にこういった感情も湧き上がる。


「自分たちが産み出し、生を良しとし、生き続ける人類をそのままに、自分たちだけ死の安寧を得る」


 その無責任。

 かといって生きることを良しとする人間たちを道連れにもできない。


「考えた神々は、この世界にない死を信奉する教義を世界に持ち込んだ」


 この世にない教義。

 邪教を。


 死の神が選んだ青年は。

 その教義を持っていた。


「人間が全員、死を信奉する必要はない。ただ、死を教えておかなければならなかった」


 死を救いとする考えもあると。

 永遠に存続することが必ずしも正解ではないと。


 その宣教師の召喚。

 つまり。


 邪教徒召喚。


「もっとも彼は死を信仰すると言いながら、神々の思ったように死を撒き散らし、無作為に狂気を蔓延させる存在ではなかったが」


 天使の想定した、スクイの末路。

 その1つ。


「魔王、神々の負の感情の濁流は、彼の中から根こそぎの理性を奪う。もはや人でなく、狂気そのものと成り果てさせる」


 そう天使が状況を見守る中。

 魔王城が破壊される。


 噴出した大量の泥は、魔王城を突き破り、留まることなく周りを穢していく。


「魔王封印用に作られた神々の遺品すら止めることはできないか」


 その泥の中。

 宙に浮くようにある、1つの人影。


「それでいい」


 いくつかあったスクイの末路。

 その1つ。


「死を撒き散らし、その存在を伝える」


 それが、スクイが異世界に呼ばれた理由であり。

 神々の思惑。


「さあ、誕生しろ」


 人を殺す泥の中。

 スクイはむしろ、意識というものが明瞭になっていることに気づく。


「何故」


 今までの複雑な思考が消え失せる。

 そして、単純な答えのみが残った。


「死は絶対。完全な救いです」


 善人も悪人も。

 子どもも大人も、死の前には意味など持たない。


 全てが平等。


 そうであるならば。


「この世界の人間を、皆殺しとすることで」


 世界に、死を与える。

 そして、世界を救う。


「この現世ゲンセイから、濁りを掬いましょう」


 魔王スクイ・ケンセイが誕生した。




【第4章完結】

【よければこれを機にハート、星、フォロー、感想等お願い致します(本当にお願いします)】

【最終章4月後半より、完結まで更新】

【最終話5月3日更新にて完結】

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