第百一話「新世」
増える。
スクイの不死の魔法は、千切れた部位もくっ付けば治り、失った部位も生える。
つまり、無い肉体も、産み出すことができた。
それを差し引いても。
「すごいね」
例え可能でも、誰もが忌避する行為。
分身でなく、全てが本物。
スクイという人間はこの瞬間個を失う。
それが、常人の耐えられる状況でないことは魔王もわかる。
一転したように、魔王がスクイの群れに囲まれる中。
魔王が称賛したのはそこではない。
「終わりです」
スクイは、服を着ている。
当然、着衣そのものは特別おかしなことではないが、細切れにされたスクイたち一人一人が服を着ているということは。
服もまた、生やすことができているということになり。
さらに。
「ナイフすら複製か」
魔法には認識が絡む。
思うことで力を扱えた神々の力の一部故、使おうと思えば発現でき。
スクイが、そして魔法が、スクイのナイフをスクイの一部だと思っていることは明白であった。
あるいは、当然。
それ故に、スクイが呼ばれたこの世界にも、物であるはずのナイフが共に来たのだから。
魔王の言葉に、スクイたちは返さない。
増えたところで、死の魔法も効かず、得意の身体能力すら上回る魔王相手。
音もなく、その魔王の顔に。
一本の傷ができる。
「本来」
魔王は、笑う。
「君ほどの強者であれば意味をなさなかったであろう、本来のその武器の意味」
その傷は、徐々に魔王の全身に現れる。
手に、足に、胴に。
より大きく、深く。
「それは、遥か格上の相手すら倒しうること」
絶対切断。
本来、傷つけることすら困難な格上すらも、その差を無視しダメージを負わせる。
スクイのナイフ技術であれば、その恩恵は高いとは言い難いものであったが。
本来は。
「弱者の一撃」
魔王は瞬間移動にてスクイたちの頭上に場所を変える。
同時に、世界を改変し魔王城に。
超硬度の槍の雨を降らせる。
それに続け、マグマを、落雷を、絶対零度を、放射線を、超重力を。
トドメに手にするは、手のひらの上に浮かべた、彼の頭より一回り大きな、球体。
「反物質」
無理をするように、捻り出したことがわかる言い淀み。
彼の能力でも、限界に近い改変。
ともすれば、魔王自身も無事では済みかねない。
この世界を破壊するほどの、物質を消滅させる力。
互いの視界が一瞬消え、そして。
人外の目を持つ2人には。
互いがまだ、そこにいるということを把握する。
魔王も手傷を負い。
不死であるはずのスクイもそのほとんどは無事とは言い難かったが。
それでも。
終わらない。
「勇者に選ばれ、鍛錬を積み、聖剣の力を引き出し」
スクイが魔王の猛攻を耐え切った理由。
大量のスクイは、変わらず死の魔法を展開し、それはもはや彼らの周りだけでなく、部屋中を黒で埋め尽くしている。
もうここには、何物も、存在することを許されない。
そしてその全てが、紐によって広範囲にナイフを振り回す。
「人の域を超えた仲間を伴って初めて相手をできる」
魔王に、その逃げ場もなく。
そのナイフは、全てを切り裂く。
「そんな魔王を君は」
何が君をそう突き動かすのか。
魔王は、問いかけようとして、その目に答えを見出した。
止まれない。
「死を求めても、死は遠のくばかり」
救いを。
誰かを救えると。
そう思い、失敗し、その度に背負い続けた。
それが彼の強さであり。
「君は、答えを得た」
スクイの根源は。
死ではない。
救い。
それこそが、彼の根幹であり。
それが産んだ混沌から、彼が出した答えが。
死。
「神々はまだ、僕という混沌の中で、答えを見いだせない」
それを知る前に消えるのは残念だけど。
「なるほど、どれだけ強くても、そりゃあ」
勝てないわけだ。
そう、魔王は、いとも簡単に。
大量のスクイのナイフにより、バラバラに。
討伐された。
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