第七十六話「並んで歩く」

 街の出口に着くと、ホロが待っていた。


 長い間待っていたに違いない。少し疲れを見せるホロも、スクイを見つけると、駆け寄ってくる。


「ご主人様」


 ホロは流刑になることを知っていたらしい。

 牢に閉じ込められていたスクイと違い、ある程度情報を得られる状況だったのだろう。


 だから、ここでスクイが行くのを待っていたのだ。


「私も、行っていいですよね」


 一応スクイに聞くホロだが、もう決意は固まったようにスクイを見る。


 良いわけがない。

 行く場所は流刑の地、行くこと自体が処罰とされる場所にホロを連れていけるわけがない。


 しかし、同時にスクイは自分の失敗を知っていた。


 ホロは、自分が置いて行っても追ってくるだろう。

 誰かに止められても、振り払う。振り払えてしまう。


 力ではない。それだけ強い意志を、ホロは持っている。


 それならあるいは、スクイのそばがホロにとって最も安全な場所である。


 スクイはそこに関してはすでに観念していた。


「ええ、向かう場所には悪人しかいないと聞きます。多くの救いを与えましょう」


「はい!」


 この先がどんなところか、ホロは調べたはずだ。

 それでも嬉しそうに、ただ駆け寄ったスクイの手を掴んで歩く。


 そのホロの思考がどれだけ危険か、スクイはわかっていた。

 ホロには、スクイしかいない。


 それは、教養を身につけ、1人で生きていけるだけの力を持っても、変わらない。

 過酷な環境と、スクイへの多大な恩。そうなるべくしてなったと言えるだろう。


 ましてまだ小さな子どもである。本来まだ親に甘やかされて生きていて良いはずなのだ。

 それなら、きっとこの手を握り返すスクイの行動も、間違いではない。


 いつかこの手を振り払わなければならない時が来るとしても。

 それでも。


 スクイとホロは、並んで歩く。





【第3章完結】

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