第六十二話「本望」
「なん……」
目を見開き、声を漏らすホロを無視するように、スクイはゆっくりと村へ歩を進める。
かろうじてホロに手で制すようにしているが、声をかけることも目を合わせることもしない。
ホロはただ黙って村の入り口に立ち止まった。
もっとも、もし仮に動けと言われても、動けなかっただろう。
スクイは村を歩く。
確認のためである。ゆっくりと、悪い足を引きずるようにゆっくりと歩いた。
村の中では死体がいくつか見つかった。
見覚えのある顔である。
つい数日前までスクイのことを崇め、感謝してきた者たち。
村の復興を共にした者たちである。
スクイに表情はない。
何も考えてなどいない。
適当な家を開ける。中には誰もいない。
扉を閉め、また村を歩き家の扉を開ける。
それを繰り返し数回。
双子の子供が死んでいた。
2人重なるように、他人が見ればどちらがどちらか判断などつかないだろう。
何故なら下の遺体の首はなく、覆い被さるように横たわる方の遺体は背中から胴体がズタズタに切り裂かれていたのだから。
しかしスクイには、どちらがどちらかよくわかった。
よく、覚えていた。
歩く、歩く、歩く。
死に喜ぶでも、悲しむでもない。
ただ無表情に、村の様子を確認する。
それだけのことだった。
「開けろ」
声がしたような気がした。
あたりを見渡さずとも、スクイには周りに誰もいないことがわかる。
「開けろ」
スクイは自分が人と違うことを理解している。
「開けろ」
それでも。
「開けろ」
幻聴などというものが聞こえるほど、弱い人間でいられなかったことも、よくわかっていた。
「開けろ」
スクイは言葉の意味を理解できる。
「開けろ」
単語ひとつでも、状況が理解できていればその言葉の意味を正しく受け取ることなどわけもない。
「開けろ」
だからスクイは。
言われるがままに。
調理室の扉を開けた。
凄惨な光景、そんなものはなかった。
血塗れだとか、荒れ狂っただとか、そんな光景はなかった。
ただ、静かに。
何もなかったように静かに。
メイとその父親が、作りかけの料理に囲まれて。
誰の目にもわかるほど凄惨な姿で。
死んでいた。
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