ご覧、ほらね。わざと会ったんだ。

華瑞狡狡

第1話

 「ビルを見上げるなんて田舎者だよ」

 あれから3年。もう誰から言われたかも忘れた言葉は呪いになった。

 艶やかなパンプスに流行色のワンピース。大学進学で上京してからずっと、私は生まれついてのの匂いを必死で消していた。

 つい先日、同じサークルだった玲がニューヨーク留学から日本へ帰ってきた。すらりとした四肢、吸い込まれるような瞳、小さな顔。誰もが憧れる容姿に加え、英語、バイオリンといった趣味の数々。そして、東京都文京区育ち。誰もがあなたに憧れるし、私もあなたになりた買った。そんな彼女から帰国報告のLINEがあり、あれよあれよとランチが決まった。

 玲が選んだのは、大学生が大学より通ってしまうような、スタイリッシュなカフェだった。

「久しぶり!1年ぶりだっけ?変わらないねえ」

 快活な声が私を驚かせる。そうだ、この声。緊張していた私はようやく玲との距離感を思い出してきた。旅行のお土産話を中心に会話は弾み、1時間は過ぎたころに、突然玲の声が暗くなる。

「ねえ」

 私は覚悟を決めた。玲は続けた。

『私の彼氏に手を出したって、嘘でしょ』

 怒りと疑問が入り混じった声だった。黙ったままの私に玲は話す。涙を堪えているみたいだったが、その顔を見る勇気はなかった。

「留学行っている間に彼氏が全然相手してくれなくなって、不安になって他の人に連絡したら、あなたとくっついているって噂を聞いて、帰国して彼氏問い詰めたら洗いざらい吐いたよ……ねえ、聞いてる?」

「うん。あいつ、キラキラしてるあなたには疲れるって言ってたでしょ」

「そのキラキラってなんなの?全然意味わかんないんだけど」

「あいつも福島から上京してきたから、玲の空気になじめなかったんじゃない?で、芋臭い私の方があってたんだよ。まあ私が盗らなくてもどうせ別れてたよ」

「ほんとあり得ない。」

 玲はカフェを去った。お代くらい置いていけばいいのに。そういえば、都会のビルを見上げる田舎者の私をからかったのは玲だったっけ。うん、誰でもいいや。

 ねえ玲、田舎者って嫌でしょ?


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ご覧、ほらね。わざと会ったんだ。 華瑞狡狡 @Muroka

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