第8話 Cと言う男
武蔵小金井の飯場を出てからAはしばらくの間、新宿のサウナを拠点にパチスロのモーニング狙いをする毎日が続いた
良かれと思った事が裏目に出た事で、仕事が手につかない状態だった。日がな一日パチスロを打ってボウっとするのも心地よかった
あくせくした高設定狙いをするより、人がそこそこでしかもモーニング台は、リーチ目で告知するサービスを行っていた、T店で適当な時間まで打って切り上げる立ち回りをしていた
ある日、夕方からO店で打っていると、背後にCが立っていた。
このCと言う男、以前引っ越しのバイトをしていた時に知り合った男で、金がない時はこうやっておこぼれにありつこうと知り合いについて回る癖があった。
そんなこんなで信用が置けないのはやまやまだが、顔見知りを言う事で話を聞いてみた。
この頃にはバブルはとっくに弾けており、大手商社の引っ越しなどは無くなっていたという。Aがいた頃には既にその兆候があり大手PC会社が相次いで支社を撤退させていた。
話を戻すが、Cとは気が合うが正直この状態のCは鬱陶しい。Aは突っ込んだ物言いをした。
「金が無いなら無いってはっきり言ったらどうだ?」
バツが悪そうにCが答える。
「いや、そう言う訳じゃなくて、飯代位は」
「ひまならこの台打つか?代打ち(代わりに打ってもらう)してくれよ。飯位驕るぞ」
「こっからだと飲まれるかもしれないけどいいの?」
「そん時はそん時だ、打つの?」
二つ返事でCは答えた
「打つ」
Aは席を空け立ち上がりながら言った
「じゃあ頼むわ、俺パチンコ打ってるから何かあったら来て」
Aは打っていたパチスロ・スーパープラネットをCに託して、パチンコの島へ向かい適当な台でダラダラと打ち始めた。
二時間程経ってCの様子を見に行くと2000枚程あったコインが1000枚程に減っていた。Aは見切りを付けてこう言った。
「今日はこの辺で止めてラーメンでも食い行こうか?驕るぞ」
Cが言うところ、最近は繁忙期以外はほとんど仕事が無いらしい。あると言えば青物市場か宅配便の仕分け位で、どちらも夜勤できついわりに賃金は良くない。
ちゃんとした仕事に着いたらどうだ?なんて言えたら気が楽なのだろうが、A自身が飯場巡りをしている為、そんなおためごかしなんて言えるはずも無かった。
だからと言ってこのまま放っておいても、新宿にいる以上探して今日見たく張り付いて離れないのは御免被りたい。
意を決して、とっておきの情報、と言ってもT店のモーニング情報を流してやる事にした。
「C、明日仕事が無かったら朝からG店辺りにいるから声かけろよ。良い事教えてやる。但し、他の奴に教えたり、目立つような事はするなよ。」
そう釘を刺し、二人はラーメン屋を後にした。
翌朝、Cが顔を出した。今朝は仕事に寝坊していかなかったらしい。まぁ多分嘘だろうが、行っても仕事は無かったんじゃなかろうかとは思う。AはG店を避け近くのT店にならんでCに言った。
「中覗いてみろよ。リーチ目出ている台あるだろ。それを抑えろ。それからこの店は交換時間の縛りが無いから、適当なとこで切り上げてコイン流せば、今日の飯代くらいにはなるだろ?1000円あるか?無いなら貸すぞ」
「1000円貸して」
呆れ顔でAはCに1000円を手渡す。
「少しは遠慮がちに借りろよな、後で返せよ?俺は二階のチェリーバーを狙うから」
「チェリーバーも告知ランプ付きっぱなしなの?」
「ああ、ばっちり光ってるからわかりやすいぞ」
開店時間になり、扉を店員が開くと一目散に二階に駆け上がり、告知ランプが付いている台を抑えた。
Cは釘を刺したにも拘わらず、即やめで店を後にし、昼過ぎにAの元に金を返しに来た。
金が出来たら薄情な物で、Cはもう用は無いと言わんばかりにそそくさと店を後にした。
数日後、T店に行くと先頭にCの姿と見覚えのある顔が何人かたむろしていた。Cはこちらに気が付くも用など無いと言わんばかりに見覚えのある顔達と雑談に興じていていた。Aとしてもその方が気楽なので、話しかけもせず開店時間を待った。
開店と同時に店に飛び込むと、Cはモーニング台にタバコやライターを放り込み仲間に座らせた。Aは自分の台を抑えるとCの挙動が気になり尋ねた
「お前、あれからずっとこんな事してるのか?」
Cは悪びれる様子も無く、仕事をするより金の無い仲間に代打ちさせた方が儲かるからそうしていると、あっけらかんに答えた。
「他に教えるな、派手にやるなと言ったよな?」
「別にいいじゃん」
こういう奴なのだ・・・見当はついていたが、こんな事してたら他の常連に迷惑が掛かるし、何より店側がモーニングをやめかねない・・・いや間違いなく無くなるな・・・
はぁ・・・胸糞わるいし、そろそろ次の飯場でも探すか・・・
モーニング台を消化しながらAはそう思った。
或るおっさんの浮浪日誌 ぼよよん丸 @Boyoyonmaru
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