第7話 武蔵小金井を出る
静岡を離れて既に10年が過ぎた。生活が少し安定した事もあり、この頃には円形脱毛症も治り、年相応の見た目に戻っていた。飯場と言う事もあり、荷物は増やせない為、稼いだ金は貯金かギャンブルに当てられた。
この頃のパチスロは違法に改造された、所謂裏モノと呼ばれる台が世の中に氾濫していた。Aもその爆発力に魅了された一人であった。
以前、出てきたワイルドキャッツと言う台も、その派生型の注射台(RAMに違法プログラムを書き込む)と呼ばれる物である事も知った。のめり込む癖が悪い方に出たAは片っ端からパチスロ台を打っていく。
大勝ちする事もあれば大負けもあるのが、裏モノの楽しさでもあり怖さである。ある時などは20万勝ち、ある時など10万負けた。たかだか回る絵柄が箱の中に入っているだけの遊戯にだ。
こうなるともう手の付けようがない、麻薬の様な依存が生まれる。既に当初の目的であった、部屋を借りて真っ当な職に就く、と言う目的を見失っていた。
付近のパチンコ屋も世の中の流れに乗り、多くの裏モノを取り揃えていた。店によって様々な裏モノがあり、Aは仕事を終えると足繫く通う、仕事が無い時などはモーニング狙いで朝から打った。
中でもお気に入りの台を挙げるとグレートハンター・Mrマジック・ドリームセブンJrなどであろうか。いずれも爆発力に全振りした様な連荘力と吸い込みを見せていた。
Mrマジックなどはハウス物と呼ばれるその店独自の台であり、通常時は一切の払い出しが無い鬼畜仕様なのだが、一旦ビッグボーナスが揃うと30ゲーム以内が連荘ゾーンになる。
この台はリーチ目など無く、ただリールが滑れば何かしらの役が成立していると言う物だ。つまり30ゲーム以内で滑れば超高確率でビッグが成立していると言う、脳汁プシャーな仕様である。
Aもこの潔いゲーム性に魅せられて、好んで打った。ある時など夕方の7時過ぎから打ち始めて、7万負けると言う失態を見せたかと思えば、一撃40連チャン超えの万枚を初めて体験した。
パチンコも当時CR機と呼ばれる確率変動が認められた機種が出ていたが、初当たりの悪さから手を出さず、CR機ではない連荘機(メーカーが予めバグと言う形で連荘を促進させていた)を打っていた
こんな事をしているから、金など溜まる訳も無く、小銭を持って勝とうが負けようが、パチンコ・パチスロに明け暮れていた。
そんな生活も長くは続かず、ある事件が起きた。
同じ飯場の者が他の業者から、殴られると言う問題が起きた。Aはそれを止めに入ったが、相手は激高しAにも殴りかかってきた。その上相手の上司がAをヘッドロックして止めに入ると言う、無茶苦茶な展開になった。
結局、相手が「乞食にバカにされるのが悔しい」と言い出し、Aは理由を話したが聞き入れられず、飯場を追い出される事になった。助けた者は知らぬ存ぜぬを突きとおし、結局Aが全て悪い事になった。
Aにとっては青天の霹靂であり、またしても居場所を失ったのだ。
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