第6話 武蔵小金井の幽霊
武蔵小金井の飯場は個室を与えられた事もあり、長く居る事になる。一年ほどだろうか?
給料こそ良くなかったが、個室付きの快適さは何よりも勝るものであった。元々はどこかの女子寮だったらしいが、いつの間にかむさくるしいおっさん達が住んでいる。色気も何もあったもんじゃない。
話は変わるが、幽霊などを信じる人はいるだろうか?Aは今でこそ神仏・幽霊の類いは一切信じていないが、この頃はまだ信じていた。
実際?に見た事もあった。夜中に重苦しく、金縛りにあった時、天井を見ると巨大な老人の顔がこちらを睨んでいた。それ以来、恐怖でAは目隠しをしないと寝付けなくなっていた。
つまり何が言いたいかと言うと、出るのだ。最初は金縛り程度であった。その内、頭の上を走り回る足音。因みにここは二階で、頭の上は壁であった。
走り回る足音は正直怖いとは思わなかった。走り回る気配は子供に感じた。逆に覗き込むような気配は、恐怖に駆られた。
無論、毎晩この様な事があったら、耐えられなかっただろうが、月に1・2度程度であった為、本人は気にも留めていなかった。
ある晩、視線を感じて思わず目を開けてしまう。そこには3人の輪郭がぼやけた人の顔があった。Aは驚きのあまり声を上げようとしたが、声が出ない。三人が何をしようとしているのか、目が離せなかった。
三人はAを見ずAの後の壁を見つめていた。それが分かるとAは少しほっとした。するしかなかった。そうこうする内に、再び寝入ってしまう。
それからも、頭の上を徘徊・走り回る気配、目を開ければ輪郭のぼやけた3人の姿という怪異現象に悩まされた。この様な事を人に言った所で、自分がおかしいと思われるのがオチであると思っていた。
Aは布団から体をはみ出させず、顔も口元だけ出してタオル等で、覆って寝る事を覚えた。こうするだけで少しでも、安寧を得ようとしていた。
だが、再び真夜中に目を覚ましてしまう。やはり、そこには輪郭のぼやけた3人の首だけがあった。相変わらずAには興味なさそうに、視線をずらしていた。その晩はAの左側を見つめていた。
Aは左側に視線をやるとギョっとした。そこには後ろ向きに座っている男の姿があった。こちらもAに興味なさそうにしているが、小刻みに体を震わせていた。Aは呆れて思った。
『こいつ自慰行為してやがる』
Aは二度と彼らを見る事が無くなった。ただ、相も変わらず子供の走り回る気配だけは感じていた。
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