第5話 高田馬場
高田馬場
Aがホームレスになってから3年が経とうとしていた。
相変わらず低賃金の引っ越しのバイトで食いつないできた。そんな最中、バイト先の職員からこう言われた
「おいAもう来なくていいよ」
借金の返済までもう少しあったが、Aの身なりを見て早めに切り捨てる事にしたのだろう。
駅前で寝る事もためらいが無くなっていたAは、他のホームレス同様のみすぼらしい姿になっていた。Aは一礼しバイト先を後にした。少し戸惑いはあったが、この頃にはある話を聞いていた。
高田馬場に行けば建設関係の日払いがある。仕事はきついが賃金は多いと、Aは話に聞いた通り、高田馬場の戸山公園に向かった。
公園のベンチに腰掛けてボーっとしていると、色々な事が思い出された。3年近いホームレス生活で起きた事は、あまりにも過酷だった・・・・気が狂ってしまいたい。何も考える必要が無い程、壊れたかった。
それは子供の頃からの夢でもあった、発狂して壊れてしまえば、嫌な事なんて無くなるんだろう。ただ呆然として生きていけるんだろう。甘ったれた考えだって判っていたが、それでもそう思わざる得なかった。
親に捨てられたのが小学校三年生の時だった。送られた養護施設では、どういう説明がされていたか分からないが、どうやらものすごく頭がいい子が入って来ると説明されていたらしい。
養護施設に入って最初にされた事が、ゴミ捨て場に連れてかれて、頭が良いって理由だけで、上級生にボコボコになるまで殴られた。
慰問やプロ野球の招待があると、行ってもいないのに指導員から、感謝状を書く様強制された。嘘は描けないと言うと、またもや殴られた。
ちょっとしたイタズラをしても、頭が良いからと言う理由だけで、悪意が増大され執拗な体罰が課された。その体罰の中でも・・・・もういい・・・とにかくロクな子供時代じゃなかった。思い出すのもバカバカしい。
いつの間にか日は沈み、Aは公園のベンチ丸くなって寝た。駅で寝るより人の目が無い分、よく眠れる気がした。
明け方になると、にわかに騒がしくなった。Aは体を起こすと辺りには人が集まり始めていた。日払いの仕事を取りに来た人々だ。Aもベンチに腰掛け直し、声がかかるのを待った。
とは言え、昨日今日来た男に声をかける手配師(仕事を紹介する業者)なんて、いるはずも無い。何より仕事道具を持っていないのだから。
その辺は折り込み済みである。Aが待っていたのは飯場仕事である。飯場なら道具も貸し出してくれるし宿舎もある。そのお呼びが掛かるのをひたすら待った。
初日は空振りだった。Aはわずかな小銭でカップ麺を買い腹を満たし、そしてまたベンチで日がな一日を過ごした。
二日、三日と空振りが続く。他の男達の様に自分から売り込む事が出来たら楽なのだろう。だが、そのみすぼらしい自分と、元々のコミュニケーション能力の低さが災いして、それが出来ないでいた。
いよいよ金が無くなると言う時、声が掛かった。飯場で一日6000円の2週間と言う条件だった。Aは二つ返事で快諾した。
飯場に着くと、夜勤に回される事になる。2000円の上乗せで8000円と言う条件を飲まない訳が無かった。必要な作業着や道具などは全て前払いで揃えた。
初めての夜勤は勝手がわからず戸惑ったが、二日目からはとにかく動いた。あくせくと働き、あっという間に2週間が経つ。延長も頼まれたが、金額が安い事、飯がとにかく不味かった事(笑)で断った。
受け取った給料は、前借りや道具を買いそろえた分を差し引いても6万近くになった。次の仕事が見つかるまで、これで何とか食いつながなければいけない。とりあえず、身なりをどうにかするべきだろう。
相変わらず、住み込みの仕事も探しては見たが、やはりどこも雇ってはもらえなかった。20代前半で頭が半分禿げあがった、素性の知れない男なんて怪しすぎるだろうと、今更ながら思い出す。
時間もある金もある。Aに悪い囁きが聞こえて来た。そうパチスロ・パチンコだ。もっとも闇雲に打って勝てる程甘い話では無い事は、本人が一番理解していた。
だからAは新宿中のパチンコ屋を片っ端から見て回った。その中で何とかなりそうな店を数件みつけたが、その頃には打てる程の金は残っていなかった。
朝は5時前に高田馬場で仕事を待ち、無ければ一日中歩いてパチンコ屋を見て回る。事詳細なメモを取る事も欠かさなかった。
飯場から帰って十日程経ち、次の仕事が決まった。武蔵小金井にある飯場だった。
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